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「最強の三重人格者」第3話
第2話はこちら
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本文
「おいおい塚藻くん、社内でスキルを使わないでくれよ」
上司の濱さんだ。
「いや、あはは……」
俺は乾いた笑いで誤魔化す。
俺は威圧系スキルなんて使えない。
それに、ただの威圧系スキルではない……かなり強力なやつだったぞ。
俺は金髪の幻覚を見る。
『だから幻覚じゃないって言ったろ?』
彼は何故か得意げだ。
俺は立ち上がり、足早にトイレに行く。
だれもいないことを確認し、金髪と銀髪に話しかける。
「おいお前、俺の身体を乗っ取ったのか?」
『まぁ……ムカついたからさ、ちょっと借りて脅してやったのよ』
「勝手に人の身体乗っ取るとか……悪夢だろ……」
『いやお前、俺のおかげで助かっただろ?』
「そういう問題じゃない」
『それから、俺はアルデな。最強の剣士ってわけ、よろしくぅ!!』
軽いノリにイライラしてしまう……
「それからあんた」
俺は銀髪の方にも話しかける。
『私は賢者ケトンです。よろしくお願いします』
銀髪のイケメンはケトンか。
ケトンは丁寧にお辞儀をする。
こっちはまだ話が通じそうだな。
「ケトン、君も俺の身体を乗っ取れるのか?」
『わかりません。ただ、非常に興味があります。やってみてもよろしいですか?』
「いややめて。マジで」
マジかよ。
参ったな。
『あの、お名前をうかがっても?』
「あぁ、そうか。俺は塚藻式斗(つかもしきと)。
見ての通り、アイテムの査定と買取をしてる会社員だ」
自己紹介をさっさと終え、俺は要点だけを話す。
「それで、二人とも。勝手に身体乗っ取るのは無し、いいね?」
『まぁ確約は出来ねぇな』
『では、勝手でなければ良いのですか?』
「いや、待ってくれ。ちょっと考えさせてくれ。てゆうか、一旦落ち着くまで仕事してくる。
とりあえず、勝手に入ってくんなよ」
『大丈夫だって、お前の身体貧弱すぎて俺はもう入れねぇよ』
もう入れない?
「なんかさ、身体がさっきからすっげぇ重くて疲労があるんだけど、これってアンタのせい?」
俺はアルデに聞く。
『そうかも……わりぃわりぃ』
アルデは悪いと思ってないことがバレバレの謝り方をしてくる。
あんまり長い時間空けるとやばいな。
とりあえず仕事に戻ろう。
俺がトイレからデスクに戻ると、すでにお客がいた。
あれは……
「式斗。買取お願い」
「おぅ……いつもありがとう」
幼馴染の神谷原凛(かみやはらりん)だ。
昔は俺と兄、凛でよく遊んでいた。
ずっとチビだったくせに、大学卒業後はビックリするほど美人になっていて驚いた。
カウンターには、結構なアイテム、装備品が置いてある。
「相変わらずすげぇな……さすがA級ハンター」
凛はハンターデビューして以来、破竹の勢いでランクを駆け上がっている。
若手一の有望ハンターだ。
水色の長い髪とメインの長剣から、清流姫と呼ばれている。
最近ではメディアで取り上げられることも多く、スポンサーもついてきたとか。
「私なんてまだまだよ。新人だから持ち上げられてるだけ。
式斗だって怪我さえ無ければこれくらい……」
「その話はやめてくれよ……」
彼女は新人の超大型ハンター。
そして俺は、怪我で引退したハンター崩れ。
さっきの奴が言ってたのだって間違いじゃない。
実際にハンターを諦めて引退してるのだ。
「ご、ごめんなさい……無神経だったわ」
「いや……いいよ」
「でも私は式斗が優秀なのを知ってるの。
査定も買取も、ダンジョンの知識が誰よりもあるから信頼してここに頼んでるのよ」
「あぁ、それはありがとう」
確かに凛は、いつも俺のところに査定と買取で来てくれる。
だけど、それは俺が引退したから……兄貴が死んでしまったから同情して来てくれているんだ。
『はぁ……全く見てられませんよ』
は?
ケトンが好き勝手言ってくれる。
むかつくし、言い返したいが、今ケトンと話をすれば凛におかしくなったと思われてしまう。
『可憐な女性を目の前にして、そのような態度は到底受け入れられません!!』
ちょ!!
待て!!
ケトンが俺の身体に入ってくる。
「ありがとう……信頼してくれているんだね……」
「え!?」
バカな!!
俺は……というか俺の身体を乗っ取ったケトンが、凛の手を両手で握りしめ、彼女に熱い視線を送っている。
『おい!! ふざけんなよ!! ふざけんなってマジで!!』
俺は必死で叫ぶが、凛にもケトンにも届いていない。
「……………………」
「……………………」
凛は恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にし、下を向いている。
「こっちを見てくれないか?」
「え!? ひゃい!!」
凛は裏返った声を出し、耳まで顔を赤くして俺(ケトン)を見ている。
んなぁあ!!
「……………………」
「……………………」
無言で見つめ合う二人。
違うって!!
俺そんなことしねぇし!!
『おや? もう時間切れですか』
身体が元に戻る。
「……………………」
「……………………」
俺と凛は見つめ合ったままだ。
『あはは!! お前おもしれぇな!!』
『笑い事ではありません。女性の扱いは非常に大切なのです!!
それこそ、魔法と同じくらいね』
アルデが爆笑し、ケトンはなぜか怒っている。
はぁ?
なんでケトンが怒ってるわけ?
ブチギレそうだ……ブチギレそうだが、今はそれどころではない。
「……………………」
「……………………」
凛は潤んだ瞳で俺を真っ直ぐに見つめている。
ちょっと待ってくれ。
これ、どうすんだよ……