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中央アジアを旅行して考えたこと。(中)

春休みに一人で中央アジアを旅行した。覚えたての現地語で
「ラフマット!」
と言うと相手が喜んでくれることが分かった。「スパシーバ!」でもいい。
Thank you よりもよっぽど気持ちが伝わる。


旅のペースを掴み始めていたとき、サマルカンドの宿で僕は衝撃的な旅人と出会った。

香港から来たと言う僕と同い年の彼女は、僕がしばしば聞き返さないといけないほど流暢な英語で、これまでの旅の様子をつぶさに教えてくれた。
イランやタジキスタンなど、バックパック初心者の僕にはとても手が出ないよう未知なる国を、少女が一人で旅していた。

そんな彼女が旅行で使う言語は、英語だけだった。

僕は、「ありがとう」や「日本人」などいくつかの単語を調べてから来た。
相手が英語を勉強したい場合でない限りは、「ラフマット」か「スパシーバ」でお礼をしていた。

ところが、僕たちが二人で街を歩いていたら踊りの輪に誘ってくれた地元の人の前でお礼を伝えるとき、彼女は
"Thank you!"
と言った。

僕たちが2人同時に挨拶したとき、同時に発したお礼の言葉は違っていた。


宿で、彼女にたくさんの地元の人との記念写真を見せてもらい、彼女のコミュニケーション能力に舌を巻いていた僕は、このことに驚いてしまった。

「英語だけで旅行している」とは言っても、現地語を何単語かは調べているだろうと思っていた。

英語だけでも旅が続けられる秘密は、「英語が話せる人を見つけるまで聞き続けることだ」と教えてくれた。
それでも、英語を話す人を探していられないほどの一瞬の出会いは旅行中何度も訪れる。街を歩いていたら踊りの輪に入れてもらったこの日のように。

彼女はボディーランゲージを駆使して地元の人達に溶け込んでいった。そのあたりは、僕よりもよっぽど上手かった。流石上級バックパッカーである。


それでも僕は、一人の英語を(準)母語とする人として彼女を見たときに、「英語万能主義」を感じずにはいられなかった。

中央アジア同様英語がほとんど通じない日本に生活している僕たちにとって、旅行先の現地語を覚えることはコミュニケーションの円滑のために欠かせないことであることが直観的にわかるはずだ。

彼女と同じサマルカンドの宿で出会った日本人の女性二人組は、会話が時折英語交じりになるほど英語が身近ながら、
「旅行するならなるべく現地の言葉で話したいと思って」
と、英語が話せる現地の人を見つけては、ロシア語とウズベク語とタジク語の3通りの表現を教えてもらっているという。

彼女たちの徹底ぶりには驚いたが、「旅行するなら現地の言葉で話したい」という気持ちは、僕も同感である。

英語が話せないタクシーの運ちゃんも、僕がハラショーを知っているとわかるやいなや、サマルカンドがハラショーであり、ウズベキスタンがハラショーであることを確認して車内が盛り上がれる。
そしてしばらく静かになったら、トーキョーがハラショーであることを確認して満足げな表情を浮かべる。

僕が親指を立ててハラショーと言うだけで、言葉が通じない人とも盛り上がれるのだ。

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