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田舎での子育ては良いのか悪いのか

「子育て環境が良いから地上移住を考えています。」というフレーズをよく目にします。

確かに地方での子育ては快適な面があります。
人口5万人ほどの田舎をモデルとして、地方での子育てについて考えます。

田舎での子育ては魅力が多々ありますが、子育てが「楽」かどうかは、田舎か都会かという場所的な問題では無くなく、両親のサポートが得やすいかが大きく左右します。

田舎での子育てが「楽」と思える最大の要素は両親との同居、近居です。

田舎に住んでも、核家族で共働きであれば、都会で育てるのと同様に子育に多くの労力と時間が必要になります。

例えば、我が家は田舎に住む核家族で共働き、両親は同じ都道府県内に住んでいますが日常的に行き来できる距離ではありません。

このような環境だと、むしろ子育てをするには、都会の方が良いとも思えます。

その大きな理由として挙げられる点が、田舎では今現在でも1980年代以前にマジョリティであった「三世代同居」や「専業主婦がいる家庭」での子育てシステムや風潮の名残が強く残っているという点です。

例えば、私が住んでいる地域の保育園では「16時にお母さんやおばあちゃんが迎えに来る」という家庭が多数です。

また、職場で「夕方に子どもの世話をしないといけないので・・」という話をすると、「あれ?じいちゃん・ばあちゃんは手伝ってくれないの?」というリアクションが往々にして帰ってきます。

大きな社会的不利益があるわけではありませんが、様々な場面において、核家族で子育てをする大変さ(物理的に必要となる時間や人手について)が理解されないことが多く、それが事を運ぶ上で何かと重石に感じることがあります。

公的な支援制度の観点からも、田舎の子育て環境が優れているとは限りません。

例えば、自治体独自の目立った支援策や施策がない場合、最近の東京都などの方が支援制度、行政からの情報発信などの観点から有利だと思いますし、子ども服や教育産業、レジャー施設など民間の子育てサービス事業も都会に大きな強さがあります。

「働き方」についても都会の方が選択肢や可能性が高いと思えるところです。

田舎では、夫が正社員としてフルタイムで働いて、妻が非正規で働くというパターンが今も多いです。
それで且つ両親が同居、近居している世帯が多いので、日々の生活・子育てに時間的余裕がある家庭が多い印象です。

これはこれで実に幸せなことだと思います。

一方で、近年は大企業や都会に多い先進的な企業では、時短の拡大やフレックス制、週休3日制、テレワークの推進といった柔軟な働き方が進んでいるので、その変化に注目をしたいところです。

一つの企業に属し続けることに拘らず、自発的にキャリアを積み重ね、自己研鑽を怠らないタイプの人であれば良いと思いますが、そうではない場合は生活時間と経済的なバランス、将来のキャリアや収入の確保等々を総合的に考えると、「正社員と非正規社員の夫婦」よりも「夫婦ともに正社員で一人が時短」や「定時で帰る正社員同士の夫婦」の方に利があります。

田舎では都会に比べて長時間労働は少ない傾向にありますが、制度としての柔軟な働き方は浸透しておらず、都会よりも何歩も遅れている印象です。

都会でもまだ発展途上ではありますが、田舎の核家族で「正社員同士の夫婦」が余裕を持って子育てをするのは、やや高いハードルがあるように思います。

もうひとつ、田舎の子育てのデメリットとして、進学校の絶対数が限られていることがあります。

そして近年は、少子化により高校入試の競争倍が低くなってきていることから、地域全体の学校のレベルが上がらない、むしろ下がり続ける構造に陥っている地域が見られます。

田舎でも独特の教育方針や手法で優秀な成果を出している高校もあるため、そのような高校が通学圏内にあれば幸運ですが、高学歴を志向するのであれば都会の方が環境は良いということは否めません。

単純な学歴以外に子育ての価値を置くのであれば田舎での教育は良いと思いますし、例えば高校からは親元から離れたり、家族全員で引っ越したりして進学先を考えるという方針であればさほどデメリットにはなりません。

また、昨今の急速なデジタル化によって教育の地理的障壁が取り払われてきていることにも注目しても良いと思います。



デメリット列挙してきましたが、本題です。なぜ、田舎は子育てがし易いというイメージがあるのでしょうか。

まず、自然環境は田舎に圧倒的な優位性があります。これについては言わずもがな、田舎の最大のストロングポイントです。

都会に住んでいても、色々な自然体験はできますが、触れることができる自然のスケール、本物の自然に触れるという面で田舎には勝りません。

また、田舎では日常的に自然に触れる、自然が当たり前のように身近にあることがポイントで、その環境から子どもが得られる感性、健康、探求心の高揚はとても大きいものがあります。

自然環境の良さと生活の不便さ・大変さは比例すると考えられている節があり、それはそれで一定程度は正しいと思うのですが、特に幼少期の子どもが自然の豊かさから得られるメリットはとても大きいでしょう。

また田舎では、公共施設(子育て支援センター、図書館、公園など)にもアクセスしやすいこともメリットです。

一定規模の自治体であれば、車10分もあれば、何かしらの公共の子育て関連施設にはたどり着くことができます。

民間の子育てサービス施設や幼児向け娯楽施設が無いのは否めませんが、最近はクオリティが高い自治体運営の子育て支援施設も多いです。

これには私も驚くことがあり、知育要素が高く、施設としての屋内外の環境も美しく、しかも無料利用できる素晴らしい場所が多くあります。
ただしこのクオリティは自治体によって異なるところは要注意です。

子どもが少し大きくなってからも「遊び場へのアクセスの良さ」の享受は続き、買い物や病院などの日常生活に困らず、「5分で公園、10分でバーベキュー広場、15分でスキー場、20分でキャンプ場」という地域は日本にたくさんあります。

ずっと田舎に住んでいる人は案外このメリットの素晴らしさを分かっていないものですが、都会の人にはこのメリットの大きさが良く分かるのではないかと思います。

「毎週のようにショッピングモールやテーマパークに行って、時々アウトドアの遊びをしたい」と思うか、「毎週のようにアウトドアの遊びをして、時々ショッピングモールやテーマパークに行きたい」と思うか。

余暇の時間の観点から都会が良いか、田舎が良いかを考える場合は、自分たちがどのような生活をしたいかで、良い答えがでると思います。

また、田舎ではよくも悪くも小さい子供が少ないので、近所の人から可愛がられることが多いです。

小さい子を連れて歩ければ、近所の特におばさま、おばあさま方からそれはそれは可愛がられます。

子ども自身もコミュニケーションを楽しみますし、子どもへのコミュニケーションがきっかけとなって、親も近所の人たちと良好な関係が築きやすいことも大きなメリットのひとつです。

このように田舎の子育ては色々な観点から良し悪しを考えられます。

良い学校、良い会社に入れば一生安泰・一生幸せという幻想を抱く時代が終わった今、どのように子どもを育てたいかということも考えながら地方移住を考えてもいいかもしれません。

一方で、子どもはある程度どのような場所でも育ちます。そう考えれば、親が「こうゆう暮らしがしたい」ということを優先的に考えてもいいかもしれません。結局はそれが子どもにとってもベストな環境になることは大いに考えられます。


さて最後に、地方移住者の体験談などで「地域全体で子育てをしてくれています!」という内容の記事を読むことがあると思いますが、この事について少し触れてみます。

地域全体で子育てをしてくれる環境は、他者との関わりが億劫でなければ素晴らしいものです。

しかし私の知る限りは、このようなことが実現できる場所はいくつかの条件がそっている場所に限られます。

具体的には、田舎の度合いが高く、住んでいる住民がオープンな雰囲気があり、地域内が高齢化しながらも健全かつ適度な地域活動が行われているというような場所としての条件です。

そして、このような地域に地縁も何もない人がいきなり引っ越して他の住民と和気あいあいと暮らすというシチュエーションは現実に難しいものです。

このような地域に入って暮らしたい場合は、「地縁を創る」ことをお勧めします。

実際の手法として、「地域おこし協力隊」など行政が行っている地方移住支援制度を活用したり、その地域で活動しているNPOや社会起業家などの人と人脈を築くことです。

「地域全体で子育てをしてくれています!」と言われる地域であれば、行政の移住支援制度を活用していたり、キーパーソンとなる団体や社会起業家が存在するものです。

地方での子育ても検討の参考になれば幸いです。

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