『ダンキラ!!!』紫藤晶がケールを苦手とする理由は? ギリシア神話をもとに考察
2月17日は少年ダンサー育成ゲーム『ダンキラ!!! - Boys, be DANCING! -』に登場する紫藤晶の誕生日。
バレエを得意とするチーム・エトワールの一員であり、大手化粧品会社「コスメティック・シドー」を有する紫藤グループの御曹司だ。
持ち前の明るさと美意識の高さから絶対的な自信を持っており、どんな問題も肯定的に受け入れては自分のペースに持っていく。
すべてを愛し、すべてに愛されているような晶だが、どうしても苦手なものがある。ケールだ。
苦手な食べ物があるのは珍しいことではないが、なぜケールなのか。
その理由を、野菜としての特徴や背景、さらにギリシア神話をヒントに考察してみたい。
※このnoteは個人が趣味で書いたものであり、公式等とは一切関係ない。
美にぴったりのケール
ケールとは青汁の材料でおなじみの野菜だ。
ケールはアブラナ科における一部野菜の総称として使われることが多く、ジューシーグリーンやサンバカーニバルなど品種はさまざま。ちなみにサンバカーニバルはサンバウェアの背中についている羽根によく似ている。
ケールは栄養価が高い野菜としても知られており、「Queen of Greens(青菜の女王)」、「緑黄色野菜の王様」など地位の高そうな表現が用いられることも。
さらに紫外線などから目を守ってくれるルテイン、抗酸化作用を持つビタミンなどが豊富に含まれているため美容にもいいと考えられている。
美意識が高く、絶対王者のエトワールに所属し、女王役もよろこんで引き受ける晶であれば積極的に食べそうなものだが、ケールには独特の青臭さや苦みがある。
もしかするとこうした味が苦手なのかもしれないが、あの晶が美しくなるための努力を怠るだろうか。
貧しさを救ったケール
では視点を変えて、歴史的な側面からもケールについて掘り下げてみよう。
ケールはキャベツやブロッコリーの原種といわれており、紀元前から栽培されていたと考えられている。
名前の由来は、最初にこの野菜を栽培したケルト人に由来するとの説も。
耐暑性・耐寒性に優れたケールは、どんな土地でも簡単に育てることができた。
病や虫にも強く、親よりも子の方が優れた形質になる「雑種強勢」の力も有する。
そのため次々と優良な子孫を増やし、厳しい時代も見事に生き抜いた。
また、豊富な栄養は壊血病予防にも役立てられ、ケルト人は航海の食料にケールを持ち込んでいたらしい。
日本にケールが伝わったのは18世紀の江戸時代初期といわれている。ダンキラ発祥よりも少し前のことだ。
当初はオランダ人経由で持ち込まれたため「オランダナ」と呼ばれていたらしい。
しかし日本人はケールを野菜として認識しておらず、あくまでも観賞用の植物として栽培していた。
ケールが日本で食用になったのは戦後。食糧難の中なんとか栄養を補給しようとケールを栽培し、病院食や給食に青汁を取り入れた。
美しく強い子孫を残し、貧しい人々に恵みを与えたケール。
ますます紫藤家らしさを兼ね備えているとしか思えず、むしろ親近感を覚えそうなものである。同族嫌悪の可能性もあるが、家族仲がよさそうな晶がそうした感情を持つとは考えにくい。
野菜以外のケールもある
ここで野菜のケール以外にも目を向けてみたい。ギリシア神話に登場する悪霊「ケール」(複数形はケレス)である。
ケールは夜をつかさどる女神・ニュクスの子。姉妹には死の女神タナトス、眠りの女神ヒュプノスなどがいる。
「死の命運」や「命運」と訳されることが多く、いずれにせよ災いとしてのニュアンスが強い。
ギリシア叙事詩『イリアス』では、戦場で死者の魂を連れ去る「死霊」として表現されている。身体は黒く、死体の血を吸う化け物めいた姿が特徴だ。
苦しみや災いの象徴ともいえるケールは、周囲を明るく照らす晶とは真逆の存在といえよう。
偶然にも悪霊「ケール」と同じ名を持つ野菜を晶が苦手としているのは、不幸を好まない性格を暗示しているのかもしれない。
おまけ:アメジストとギリシア神話
余談ではあるが、晶がピアスやネクタイピンに愛用しているアメジストも、ギリシア神話とのつながりが深い。
そもそもアメジストの語源はギリシア語のAmethystos (酔わない)。古代ギリシア人は、アメジストに酩酊防止の効果があると信じていた。
そのため酒を口にするときはアメジスト製のワイングラスや装飾品が好まれたらしい。
ギリシア神話にも同名の乙女が存在する。月の女神・アルテミスに仕えていた人間で、酒の神・ディオニュソスによって命を狙われてしまう。
ディオニュソスはアルテミスが自分に振り向かなかったことに逆上し、最初に出会った人間を虎に襲わせる計画を立てていた。
このときターゲットに選ばれてしまったのがアメジストである。
アメジストを救うため、アルテミスは彼女を真っ白な石へと変えた。
この光景を見て自らの行いを悔いたディオニュソスは、白い石に葡萄酒を捧げたという。
こうして石のアメジストは紫色に染まり、美しい宝石になったといわれている。
ケールを生んだニュクスと同じく夜に関係する女神であっても、アルテミスがもたらすのは苦しみだけではない。
狩りの女神として死を運ぶことはあれど、安らかな眠りをもたらす存在としてのイメージが強いだろう。
また、アルテミスはおおぐま座やこぐま座の由来にも関係しているとされ、星とのつながりも深い。
こうしたアルテミスの伝説は、晶のキラートリック「スター・ライト・アキラ」や無人島での出来事を思い起こさせる。
アルテミスの加護を受けたアメジストは、和名で「紫水晶」。まさに紫藤晶の分身のような宝石であり、2月の誕生石でもある。
このようにさまざまな視点から『ダンキラ!!!』を探ってみると、思いがけない意味合いが見つかるかもしれない。
参考
ヘシオドス 廣川洋一訳『神統記』岩波文庫(1984)
ホメロス 松平千秋訳『イリアス 上』岩波文庫(1992)
https://masudakale.com/story/history.html
https://www.alic.go.jp/content/001173370.pdf
https://himitsu.wakasa.jp/contents/kale/
https://kotobank.jp/word/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%AF%E3%82%B9-110504
https://kotobank.jp/word/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%88-27400
https://cullent.jp/html/page183.html
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