『姉上は麗しの名医』の作り方。初期レシピなど。
初期構想の頃の話。本作の柱を3点挙げるなら、
①バディもの+姉上、という関係性
②漢方医学
③海を武器とする「マイ海坂藩」
といったところだろうと思う。
これら3点は、構想の初期段階からブレることなく柱として機能していた。
ちなみに、というか。
弥助、忠司と房、於富はテイクを重ねるときに180度キャラが変わり、奉先はテイク3くらいでいきなり登場したが、柱はまったく動いていないので、彼らの演じ方を変えることくらいは大きな改稿だとは感じなかった。
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①バディもの+姉上、という関係性
時代物に限らずだが、「男2人のバディものを書きたい」「きょうだいネタがいい」という気持ちがずっとあった。
なので、担当編集氏とのメールのやり取りの初期にそれをお伝えした。そうしたら、「男2人:女1人」の関係性がいいでしょう、という旨のお返事が来た。そのやり取りが一番のベースになっている。
普段の書き方だと、題材や資料が先にあって、そこにキャラクターを当てていくような順番になる。
でも、時代物は初めてで、題材や資料を持ってくるための手掛かりすら思い浮かばなかったから、調べ物をする間、先にキャラクターと彼らの人間関係ができ上がっていた感じ。ちょっと不思議な感覚だった。
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②漢方医学
江戸時代の江戸はまったく不案内だが、1人だけ、私にとって身近な人物がいた。それが、医者の喜多村直寛(1804~1876)だった。
喜多村直寛が(当時の学術用語である)漢文で書き残した膨大な著書群のうち、『金匱要略疏義』を書き下し文にしたことがある。漢文読解のスキルを買われ、バイトとして書き下しを引き受けた次第だった。
とはいえ、そもそも医学や薬学の知識があるわけではないので、書き下し翻訳のときも今回も、現代日本語による専門用語での調べ物に苦戦。J-STAGEにはお世話になりました……。
喜多村直寛の『金匱要略疏義』は、彼にとって何シリーズ目かの医学書体系なので、「この議論についての詳細は拙者の『傷寒論疏義』に記載している」のような既刊論文への誘導が多く見られた。全部読まないと消化不良である。
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③海を武器とする「マイ海坂藩」
海坂藩とは、Wikipediaによると、
藤沢周平は、架空の藩を舞台として、おもに下級武士を主人公とする小説を多く著した。その藩の名としてしばしば与えられたのが「海坂藩」である。(後略)
藤沢周平の海坂藩のモデルは、郷里である山形県鶴岡市だといわれている。
私はこれまで、古い時代を舞台にした小説を書くとき、史実ベースでやってきた。資料をもとにして、記録が残っていない隙間にストーリーを描いていくようなやり方だった。
今回、思い切ってそれをやめた。書いてみたい題材やストーリーを先行させ、調べ物を徹底してリアリティを補強する。そういう順番に変えた。
書いてみたい題材は、日本史で言うところの中世の五島列島。倭寇の拠点であり、領主自身が海賊じみた振る舞いをすることのあった、勢力も財力も抜群だった(と匂わせる)時期の五島列島だ。
大学時代は、東シナ海を中心に、中国大陸と朝鮮半島、そして日本の島嶼部を自在に行き来する人々の動きを研究テーマにしていた。
研究の成果が十分に出たとは言わない。そもそも、成果を出すことが可能なテーマ設定なのかは疑問符が付く。
しかし、小説にするなら、ロマンにあふれた題材だと思う。それが今回、「マイ海坂藩」の姿となった。
これ、一発芸のつもりはないので。
海という発想そのものが得意分野だと思っている。カードはほかにも隠し持っている。
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そういうわけで、このへんの材料を混ぜたりこねたりしているうちに、何かこう、『姉上は麗しの名医』っぽい形ができた。まだちょっと材料が足りなかったので、実在の俳優さんの画像や動画を参考にした。
さらにこねこねしてテイクを重ね、どうにか完成した。そんな感じだった。
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今の気分は
【福山芳樹】突撃ラブハート/マクロス7 from FIRE BOMBER. 俺の歌を家で聞け!(俺の家Ver.)
アコースティックな響きが優しく、でも歌い上げると熱い曲。もともとのバージョンも、ライヴでのアレンジも好きだけど、これもいいなー。