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半年前のこと。

 だいぶ久々のnoteになってしまった。日記はもともと苦手だから、「気が向いたときにだけ書こう」くらいの心構えではあるのだが。

 そういえば、デビュー作『姉上は麗しの名医』発売から半年が過ぎていたことに気が付いた。10月7日が半年記念だった。

 2020年4月7日といえば、緊急事態宣言が出された日でもある。半年前の今頃は、これからどうなってしまうのか、日本じゅうが不安に閉ざされていた。

 個人的には、3月末から発売日までの10日間ほどがいちばん不安だった。

 3月下旬、誰がかかってもおかしくない感染症の陽性反応が、版元である小学館さんの社員さんから出たというニュースが流れた。出版社は休業するのだろうか、書類のやり取りがどうなるのだろうかと、慌てて担当さんに連絡を入れた。

 諸外国のロックダウンのニュースが次々に舞い込んできた。さまざまな仕事が休業を余儀なくされると聞いた。日本で書籍を印刷する工場は動くのか、そもそも印刷工場は何県にあるのか、書籍の流通はどうなるのか、どこにも書かれていないことを必死で調べた。

 2019年8月下旬から準備をしてきて、2020年4月7日に発売予定。書店に並ぶはずの日が目の前に来ているのに、本当にそれは実現するのだろうかと、ただ怖かった。半年ちょっとの間、無我夢中で書いた一つ一つのシーンを思い返しながら、医療と人の死を扱うこの小説がコロナ禍の中でどう受け取られるのだろうかと、苦しかった。

 わずか1日であっても、首都圏の大きな書店で新刊書籍として平積みされていたと、Twitterを通じて報告していただいたとき、不安は消えた。感想をいただいたとき、怖さも消えた。

 地方の書店は営業していた。通販は新刊を優先して届けてくれた。紙媒体の書籍がなかなか届かなくなったときも、電子書籍はあった。なんだかんだ言っても、私は舞台に立つことができた。幸運なことだった。

 走り出すことができた以上、いちいちビビッてても仕方ないだろうと腹がくくれた。#2020年4月刊応援 の企画が生まれたとき、絶望的状況の当事者でもある私だからこそガッツリ応援したいと、気合いを入れ直して張り切った。たくさん読んでたくさん発信して、そのぶん、得るものがとても多かった。

 自粛期間中は案外、新しいエンタメコンテンツに出会うチャンスに恵まれた。『刀剣乱舞』がまさにそうだし、映画もいくつか観たし、本はとにかく山ほど読んだし、Twitterでいろんな人と会話をしたし、サイエンス系のオンラインフォーラムも始まったし。もちろん不安も少なからずあったが、いちばんつらかったのは、「本当に発売されるんだろうか」の数日間だったなと、今振り返って、改めてそう思う。

 ちょっと後になって知ったこと。『姉上は麗しの名医』が発売された頃に上演されるはずだった舞台は軒並み中止となった。舞台だけでなく、ファンが集まる形式のイベントはすべて。

 その時期にソロイベントや主演舞台が立て続けに中止になってしまった舞台俳優を知った。中止を伝えるツイートをたどって、自分の身に置き換えて、背筋が寒くなった。『姉上は麗しの名医』発売直前の不安だった時期、その不安がすべて的中してしまったら? イベントや舞台の中止とは、そういうことだ。

 自粛期間明けに彼が出演した制約付き舞台が無事に千秋楽を迎えられるよう、毎日祈った。千秋楽の配信を見届けた。感極まって「言葉足らずになった(と本人は後に語った)」舞台あいさつと、ブログに綴られた長文の想いは、本当に力のある言葉だった。よくぞ折れなかった、何て強い人なんだと、同じ時期に同じ絶望を味わいかけたからこそ、突き刺さってくるような勢いで、そう思った。

 今もまだ、いろんなことに制約がかかっている。やりたいことが自由にできない。行きたい場所へ行くことが許されない。

 でも、半年ちょっと前、『姉上は麗しの名医』発売直前の数日間の不安と焦燥に比べたら、今はだいぶ心穏やかだ。どうにかしてやる、みたいな気概や度胸もある。

 物書きとして、私は必ず生き残る。

 半年前の自分には決して書けなかったものを、この夏、必死になって書き上げた。これが私の戦い方なんだろうな。名前を変えて時代小説でデビューするとなったときもまわりの皆さんを驚かせたが、今回もまたそれなりに驚いていただけるんじゃないだろうか。

 頑張ります。私は決して燃え尽きない。頑張ります。

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(サムネイルは7月26日付の長崎新聞に掲載していただいたインタビュー記事)

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馳月基矢
フリーランスの物書きです。いまだ修業中の身。レベルアップしながら末永く活動していきたいと考えています。皆さまのご支援とご声援を賜ることができれば幸いです。