馳月基矢の時代小説デビュールートが我ながらわけわからんという話
ここに小説家志望者がいるとする。シナリオライターや放送作家など、隣接した分野での実績もないものとする。
そういうアマチュアが念願叶って出版に漕ぎ着けるまでのルートは、主に2種類ある。新人賞を獲るか、小説投稿サイト上で支持されるかだ。
本記事のお品書き
◇新人賞パターン
◇小説投稿サイトからの書籍化パターン
◇インディーズ出身パターン?
◇我ながらわけわからんという話
◇新人賞パターン
新人賞を獲る、もしくはその最終選考から拾い上げられてデビューするのが正統派といわれている。出版社への持ち込みや即売会でのスカウトは、おそらくほぼない(即売会は、こだまさんの『夫のちんぽが入らない』くらいでは?)。漫画とは事情が違う。
一般公募の小説新人賞は、年間で何十もの応募先がある。その中から、自分が「ここで書きたい」と望むレーベルの賞を狙うのだ。
例えて言えば、新人タレントの発掘オーディションや、新人俳優を募る映画やドラマや舞台のキャストオーディション。主役の座を射止めるとか、特別賞出身の個性派として注目されるとか、そうやって大々的にデビューする。
◇小説投稿サイトからの書籍化パターン
同じように例えてみるなら、小説投稿サイトの人気作が書籍化されるのは、ストリートライブでファンを獲得したり、無料のネット動画配信で莫大な再生数を叩き出したりするイメージだろうか。
「無料で聴けますので寄っていってください!」とやっているところへ、「その歌、CDにしない?」と音楽事務所からスカウトされる。
アマチュア小説書きにとって、ストリートライブおよび無料配信の環境はなかなかいい。ライトノベルやライト文芸、キャラクター文芸、ケータイ小説の流れを汲むアオハル小説を書くのなら、一度はのぞいてみるといいと思う。
「ここで歌っていいよ」という小説投稿サイトは豊富にある。サイトが主催するコンテストもひっきりなしだ。コンテストで好成績を収めればデビューの可能性が非常に高くなる。
ただ、こうした書籍化スカウトは「その作品を本に」というオファーがほとんどだと聞く。作家その人をスカウトして育てる、のではない。「次はサイト掲載ではなく、書き下ろし作品の刊行を」というオファーを受ける作家はごく少数派である。
既存作を書籍化して1冊出したら、2冊目の書籍化にたどり着くため、またコンテストに応募して受賞するか、読者の圧倒的支持を得る新作をぶち上げるか。投稿サイトで「書籍化作家」と呼ばれる人々も、常に新人と同じく、ファイトあふれるチャレンジャーである。
◇インディーズ出身パターン?
ところで、ミュージシャンならば、インディーズのライブハウス出身というパターンがある。地元のハコでライブをし、知名度とファンを獲得し、自主制作のCDを売る。
ロックバンドはそれがかなり多い気がするが、小説の場合はあまり聞かない。
かろうじて思い付いたのは、自費出版レーベルからのセルフプロデュースで大ヒットホラー作家となった山田悠介氏のパターンだ。ほかにもいらっしゃるだろうとは思う。でも、本当に少数派だ。
とはいえ、近年は出版形態が多様化してきている。SNS、電子書籍、クラウドファンディングといった、従来なかった方法によって、インディーズ出身と呼び得るルートがメインストリームの一つとして出現するかもしれない。
◇我ながらわけわからんという話
さて、ここでタイトル回収。私、こと馳月基矢の時代小説デビュールートは相当変わっている。上記のどれにも当てはまらない。
2020年4月初旬に『姉上は麗しの名医』が小学館から刊行される。ここに行き着くまでの約半年は激動だった。
2019年8月、第1回日本おいしい小説大賞の最終選考で落選した。応募作は、小学5年生が主人公の児童文学、ないしはYA文学だった。物語の舞台は2018年秋~冬の五島列島である。
(ちなみに、おいしい小説の想定読者は30~50代女性、最終選考委員はナイスミドルなおじさまがた。なぜ児童文学で選考を勝ち残れたのか……)
このとき拙作を読んでくださった編集者N氏が、私が過去に書いた新撰組短編『いけず』(舞台は京都)をご覧になった。そして「長編の時代小説(舞台は江戸)をやってみないか」と声を掛けててくださった。
……え。
そう来ましたか……。
……そりゃあ、時代小説、読むのは昔から好きですけれども……。
困惑した。マジで。
江戸が舞台の話、書いたことがない。江戸の地理、知らない。そもそも江戸時代=日本近世史、ほとんどわからない。私の専攻は東洋史で、日本で言えば時代は中世だった。
でも、チャンスだ。これを逃したら、いつ前に進むことができるかわからない。
やります! と答えた。
そして、児童文学で最終選考に残ったら名前を変えて時代小説でデビューすることになりましたという、何か凄まじいアクロバットに挑むことになった。
執筆期間は、構想・基礎勉強から納品まで、ざっくり言って半年。この展開スピード、かなり速い。
受賞していない。既存作品の書籍化でもない。投稿サイト界隈での知名度は中途半端以下に過ぎない。シナリオライターや放送作家としての実績もない。ないないないないの4連コンボ。
例えて言えば、アマチュア劇団員が朝ドラのキャストを決めるオーディションでヒーローショーの演技をしてしまったら時代劇にスカウトされてイチから殺陣に挑戦しました、みたいな。
ネット動画の歌い手がバラード向けシンガーソングライターを募るコンテストで元気よくアニソンを歌ったら演歌の道が開けたのでぶっつけ本番でやっちゃいます、みたいな。
我ながらわけわからんが、一つ言えることは、この状況は例えようもなく楽しい、ということ。
ここまで来させてもらったのだから腹を括る。やるからには全力でやる。限界なり常識なりをブチ破っていく。
自分のことばかり書いてきたが、真にすごいのは、こんな暴れまくりの「隠し玉」を拾って導いてくださった小学館の関係者の皆さまだと思っている。本当にありがとうございます。そして、今後ともよろしくお願いいたします。
さあ、ここからだ。ここがスタート地点。
頑張ります!
応援のほど、よろしくお願いいたします!!
◇
今の気分は
BUMP OF CHICKEN「sailing day」
あなたにとって「小説を書く」とはどういうことか、と問われたら、この曲をアンサーとしたい。
それにしてもこのMV、2006年とのことで、BUMPの4人がさすがにめちゃくちゃ若い。かわいい。ほとんど少年みたいに見える。