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5年ぶりのいわき総合高校でワークショップした感想。

どうも。長谷川優貴(@hase0616)です。クレオパトラというお笑いコンビでネタをしたり、エンニュイという劇団を主宰して脚本演出をしたりしています。

久しぶりに福島県のいわき総合高校に行ってきました。2019年に芸術・表現系列 演劇16期生の卒業公演で脚本・演出を担当させていただいてから、もう5年。その時の生徒たちはすっかり大人になり、今回は22期生とワークショップをすることになりました。時間が経つのは本当に早いものですが、こうして再びいわき総合高校に呼んでいただけたことは、とても光栄で嬉しいことでした。

ここ数年やっているワークショップを先生がSNSで見て気になってオファーしてくださったみたいです。

僕のワークショップは、常に「人間・自分・他者・コミュニケーションそのものを深く知る場」でありたいと考えています。台本をなぞるのではなく、そこにいる一人ひとりの経験や個性が役と台本を通してグラデーションのように出てくる瞬間を大切にする。2019年当時、16期生と卒業公演を作った時も、彼らが演劇を超えていく瞬間を間近で見て、演劇と人間の面白さを改めて実感しました。あれから5年の月日が流れ、今度は22期生との出会いが実現したわけですが、彼らのエネルギーを受け取るたびに「やっぱり演劇は生ものだ」と感じました。

今回のワークショップでは、定期的にやっているワークショップ『グラデーション』やドラマチック界隈 #1『プリズム』でやった手法を使い、2日間で一つの公演を作り上げました。『グラデーション』は、役や演技の枠を溶かしながら、参加者同士の心や身体が混ざり合っていき役と自分の中間を演じるのを狙いとしたワークショップ。台本を直ぐに置き、うろ覚えで役を演じることにより台本に頼らずに自立し自分で台詞を思考し発する。同じシーンを多角的に繰り返すことで、キャラクターや状況を立体的に捉え、より深く表現することを目指す手法です。まずは台本を読み込みながら役を理解し、その後、台本を手放してアドリブで動き出す――そのプロセスを短期間で体感してもらいました。

これらの手法が僕が元々芸人なこともあり、漫才の身体を使っています。2人の立ち話なのに観客も輪に入れて発話する。しかも、台本がある。しかし、その日の観客の雰囲気で発話の仕方は変化する。この手法を演劇にとりいれています。なので、今回も16期生と一緒で即興漫才で自己紹介するところから始まりました。


2/15・16の2日間で行われたワークショップは、漫才の時間を抜けば合計でわずか6時間ほど。初日は本読みを1回、その後に立ち稽古(本読みしながら動く)を1回、台本を置いてのアドリブを入れての通し。そして次の日には、自分として台本の流れをやり役と自分の経験を繋げる稽古、これらはエンニュイの稽古途中段階や漫才の稽古と同じ作り方です。台本通りの“正解”を再現するのではなく、その場その場で生まれる“瞬間”を積み重ねていき台本上のことを追体験し身体で台本を理解する。そして自分が台本を超える。最初は互いに気を遣い合い、少し窮屈そうに台詞を喋っていた生徒たちが、2日目の終わりにはガンガンアドリブを入れるようになりました。


印象的だったのは、予定していた30分の公演が、最終的には1時間10分にもなったことです。通常なら時間オーバーはマイナス要素と捉えられるかもしれませんが、この場合はまったく違いました。彼らが役を深く理解し、そこに自分たちなりの解釈を加えた結果、舞台上で新しいアイデアややりとりがどんどん生まれ、“演劇としての台本”をはるかに超える「生きた出来事」が続いたのだと思います。まるで彼らが自分たちの感情や欲望、そして好奇心を持ち寄って、自分なりの“ルール”を作り上げているようでした。

ワークショップを終えた後の生徒たちの目の輝きは、明らかに最初の頃とは違っていました。良い意味で我儘になっていました。「演じること」に対する姿勢が変わったというより、「舞台のルールは自分に合うように変えていいんだ」と体で理解し始めたのだと思います。特に台詞を忘れた時や、想定外の動きが起こった時こそ、彼らの本音が舞台にさらけ出されます。そこで萎縮するのではなく、「じゃあこうしてみよう」と遊び心をもって対応できるようになると、途端に“リアル”が立ち上がってくる。社会に出ても一緒だと思います。ルールに委縮して自分を卑下するよりも自分でルールを作り自分らしさを肯定した方が毎日が楽しいし、なにかあっても相手のせいにせずに自分が変わればなんとかなると思える。台本とか相手の役者のせいにせず、とにかくそれぞれが個々で楽しむことが大切です。なんでも自分に集中していれば他責思考にはならず円滑に進みます。その変化を目の当たりにできたのは、僕にとっても大きな喜びでした。


また、16期生のみんなが見学に来てくれたことも、このワークショップを特別なものにしてくれました。5年前に彼らと作った卒業公演の思い出が蘇り、今の22期生とリンクする瞬間が何度もあったんです。演劇は一度きりの体験で、時間が経てば二度と同じものは再現できないけれど、その記憶が次の世代へと受け継がれ、また新しいドラマを生む――そんな演劇の連鎖を、まさに目の当たりにした気がします。そして、16期の彼らも自分の人生にあの時の成功体験は活きているはずです。夢を叶えるというのは職業のことだけじゃない。友達とずっと一緒にいたいと昔語っていたのなら、今も地元で友達と会えていたら夢は叶っているのです。だからきっと、16期の生徒たちは、たくさんの挫折があれど絶対に全員夢が叶うはずです。自分が幸せを感じることに、その都度夢を設定すれば毎日夢が叶う。みんなの幸せをいつでも願っています。


今回改めて感じたのは、僕の作り方の醍醐味は「予定調和の打破」にあるということ。即興性やアドリブが導く予想外の出来事が、人間同士の関係性を深く浮かび上がらせます。それは役でも現実でもです。僕自身もこれまで多くのワークショップを行ってきましたが、そのたびに“正解がない”演劇の豊かさを痛感します。上手くできたかどうかよりも、「そのとき、そこにいた人間がどう呼吸し、どう想い、どう動いたか」が何より大事なのです。普通だったら腹が立つ相手の言動も演劇上だと個性に感じ面白がり合える。これはお笑いの精神とも共通します。


そして、演劇を学ぶという行為は、技術的なスキルの習得を目指すだけでなく、人間力を磨き合う場でもあると考えています。言葉にしにくい感情を、身体の動きや声の抑揚、あるいは沈黙の“間”で表現することで、自分自身を再発見する。そして、それを観る相手との間に「対話」が生まれる。この体験は、学校や劇団、企業など、どんな集団にも応用が可能です。僕のやるワークショップのテーマは「役と自分の中間をみつける」ですが「自分と他者の中間をみつける」でもあります。自分の経験で重ね合わせて想像して中間をみつける。他者のことも役のことも全部理解はできません。でも中間を想像すれば摩擦が起きないと思います。役とも他者とも寄り添いあう。僕もまだまだできてなくて、よく人を不快にさせてしまいますが、40過ぎても成長していきたいです。


今回のように、いわき総合高校の先生方や生徒たちと一緒に作り上げる時間は、まさにそういった「対話の連鎖」を実感する場でした。22期生はまだまだ伸びしろをたっぷり秘めているし、卒業公演をどう展開していくのかが今から楽しみでなりません。卒業公演は生徒のものです。作演出のものではありません。型をぶち壊すような22期生の大暴れを必ず観に行きたいと思います。

エンニュイのメンバーと共に現地に行けたのも、大きな収穫でした。エンニュイは様々な経歴のメンバーで構成されています。元芸人の市川フー、映像の俳優がメインで活動している二田絢乃、ミュージシャンのzzzpeaker。今回は、この三人にも出演してもらいました。市川君と二田さんの台本を壊しながら生徒の個人を引き出すのも良かったし、zzzpeakerの照明や演奏、そして高校生だとは思わずに対アーティストとして闘いを申し込んでいる感じが凄くよかったです。とにかくエンニュイメンバーはみんな高校生を高校生と扱わずに普通の共演者として舞台に立っていたのが流石だなと感じました。

いつもライブ感を大切にしていますが、そこには常に「生きた人間の姿」が必要不可欠です。ワークショップで培われた即興性や、舞台上で“リアル”を生成する感覚は、エンニュイの公演づくりにも通じるものがあるんです。そんな相乗効果を持ち帰り、稽古にも活かせればと思います。


もしこのブログを読んで、「こんなワークショップを受けてみたい」「自分も同じように演劇を体感してみたい」と思われた方がいらっしゃれば、ぜひご連絡ください。俳優の方はもちろん、普段演劇に触れないという方でも大歓迎です。演劇のスキルを磨くというより、まずは自分自身を知るためのツールとして、演劇のワークショップはとても有効だと感じています。

また、学校や劇団、企業向けのワークショップも承っています。演劇には、人と人とのコミュニケーションを豊かにし、アイデアや創造性を引き出す力があります。普段は気づかない自分の一面や、チームの新たな可能性を見つける機会となるはずです。興味を持たれた方は、ぜひ一度ご相談ください。

最後に、観客として演劇を楽しみたい方へ。エンニュイの公演では、そこに生きる人間がちゃんといます。まさに“生きた瞬間”を目撃する楽しさがあると思いますので、ぜひ劇場に足を運んでみてください。一度きりの舞台で、あなた自身の心に残る何かを見つけていただけたら嬉しいです。

実は、こういったワークショップや公演に触れることで、僕自身も毎回新たな発見があります。学生たちの新鮮な視点や、思いがけない発想に驚かされることも多いですし、エンニュイのメンバーとの稽古を通じても、決まりきったパターンを超える創造力の大切さを痛感しています。演劇は常に変化し続けるものであり、その変化を受け入れ、楽しむことこそが真の“ライブ”だと思うのです。

演劇は、ある意味で「人間の可能性の拡張」にもつながると考えています。言葉だけでは伝えきれない感情や、頭の中にはあっても表現できないイメージが、舞台という場を借りることで、不思議な説得力をもって立ち上がる。そこでは、たとえ経験や肩書きが違っても、同じ空気を吸い、同じ時間を共有しながら一つの作品に向かっていける。そのプロセスこそが、演劇の最大の魅力だと感じます。そして、人間は全員面白い。面白くない人はいません。みんな個性があって素敵です。

そうした魅力を、今回いわき総合高校の22期生のみんなと一緒に味わえたことは、僕にとって大きな喜びでした。今後彼らがどう成長していくのか、どんな演劇や表現を生み出していくのか、表現に限らずどんな幸せを自分たちで見つけていくのか本当に楽しみですし、その姿を観に行くことが今から待ち遠しいです。

というわけで、今回のワークショップを通じて改めて感じたのは、演劇が持つ“生もの”としての魅力。そして、それを共有する場があるからこそ、人は一回り大きく成長できるのだと思います。先生方、22期生のみなさん、本当にありがとうございました。次は卒業公演で、どんな景色を見せてくれるのか――楽しみにしています。

またいつか、いわき総合高校で卒業公演を一緒に作りたい!!



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