第60回札幌記念回顧 捲りとは簡単に出来る戦法ではない

「まくりとは主に差し馬追い込み馬が最後の直線が短いコースでのレースで、早めにスパートをかけ第3、第4コーナーあたりから一気に前方の馬をコースの外側を通って交わしていくことであり、このようなことを一般的にまくるまたはまくりをかける、などという。」
By.Wikipedia

昨日のレース直後、川田騎手への非難としてこんな声が多かった。
「道中何故捲ろうとしなかったのか」
結論から言う。「捲らなかった」ではない。「捲れなかった」のである。

12.7 - 11.6 - 12.0 - 12.4 - 11.8 - 11.7 - 11.9 - 11.9 - 11.7 - 11.9
勝ち馬タイム1:59.6

今回のレースラップである。
一目瞭然だ。残り1200mからずっと11.8前後のラップが刻まれている。

今年のレースラップの中にどこで捲れるチャンスがあっただろうか。
4ハロン目の12.4の区間か?そこは1コーナー~2コーナーへのカーブの途中である。遠心力が掛かるエリアで且つレースの序盤が終わった瞬間にいきなり捲れと言いたいのか。それはテリオスベルしか出来ない戦法であろう。

2コーナーを曲がり終えてペースが落ち着いた時に仕掛けるのはまだ出来るが、今年は前述の通り緩みの無いラップ。このラップで捲りを敢行するとなると11秒前半を続けなければならない上で息を整える間もなく3コーナーに突入してそのまま押し切る展開になる。
・・・多分イクイノックスレベルでも上手く行くか半々であると筆者は思う。

去年勝利した時のプログノーシスは序盤は中団に位置しながら徐々に位置取りを上げ突き抜けるという強い競馬をした。そのイメージは分かるのだが去年のラップと今年のラップは全く違う。

12.3 - 10.9 - 12.3 - 12.6 - 12.3 - 12.2 - 12.5 - 12.0 - 12.0 - 12.4
勝ちタイム2:01.5

まず去年は稍重の影響もあり全体的に時計が掛かっている。今年はよく乾燥された馬場で施工された為ペースが落ちにくい。
またスタートから400mのラップも稍重の去年の方が1.1秒も速い。だから中盤は12.6-12.3-12.2-12.5と緩む。このペースなら11秒後半でも十分捲れるので成立する。
ところがだ。今年は去年よりも1.1秒も遅いので逃げ先行勢は余裕がある為、向こう正面でもペースを落とさずにペースアップを仕掛けられる。こうなると11秒後半程度では全然差が詰まらない。
これこそが「捲れなかった」本質である。

捲れないのならレース終盤までは余計なことをせず脚を溜める方針に切り替えたのは言うまでもない。だが勝ち馬ノースブリッジは上り3ハロンを35.0で纏めてしまっては差し馬勢にはノーチャンスとしか言いようがない。プログノーシスの上り3ハロンが34.4秒で0.5秒差付けられたことを鑑みれば上り3ハロンを33.9秒以下で弾けないと届かない。お世辞にも器用とは言えないプログノーシスではこのタイムは絶好調だとしても出せないだろう。

この日に限っては出遅れが余りにも致命的過ぎた。もう少しでも前目のポジションを確保出来れば3着は間違いなく来られただけに勿体なかった。
そして川田騎手としてはあそこまで出遅れてしまってはああすするより無かった。このペースで捲るのは無理。最後の600mに全てを賭けるしかない競馬をするしか無かった。これを非難するというのは少し可哀想である。

対照的に勝ったノースブリッジの勝因はスタートだ。スタートを良く決めるとすかさず前のポジションを取り切って折り合うことに成功した。正直勝因はこれしかない。それだけかと思うかもしれないが本当にあのポジション一つで勝敗を決め打ってしまった。
序盤遅い流れで有利なポジションを取って後半1000mを59.1秒、上り3ハロンを35.0で抜け出せば差しは決まらない。

2着のジオグリフ、3着のステラヴェローチェも同様だ。ノースブリッジの後ろのインコースのジオグリフが2着、その後ろのステラヴェローチェが3着、外目を追走したシャフリヤールが5着という結果が全てであろう。
その中でステラヴェローチェ横山典弘の騎乗は面白かった。外目からの発走であったがスタート後、すぐさまインのジオグリフの後ろのポジションを取り切ったシーンだ。
ジオグリフ横山武史の後ろが有利なポジションと事前に考え、実行して見せるその腕は流石としか言いようがない。3着に残したのは横山典弘の実力である。

パンサラッサは去年引退、ジャックドールは屈腱炎と強い逃げ馬がいない今年の古馬戦線。天皇賞秋はスローを先行するジャスティンミラノが後半1000mを57秒後半~58秒で駆け抜ける上り勝負と見込んでいるが、今回のレースの出走馬で対抗できる馬がいるかと言えば正直微妙な所だ。
年々気性が荒くなってきているプログノーシスがこの期に及んで先行するとは考えにくい。故に後方からの直線一気の勝負になる為、届かないリスクが高い。

このレースの総括として秋のレースで主役になる馬は正直いないと言わざるを得ない。
脇役で言えばプログノーシスが秋天で紐になるというイメージしかない。

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