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「MBOの統合的アプローチ:サイクル」 -会社のパーパスと個人のパーパスをどのように結びつけるか③-/「目標管理入門」より


2回にわたって「会社のパーパスと個人のパーパスをどのように結びつけるか」について見てきました。私はその有効な手段として「MBOの統合的アプローチ」を挙げます。

MBOとは(おさらい)

MBOの定義については1回目で触れました。

MBOの統合的アプローチ(おさらい)

2回目では、MBOの統合的アプローチを構成する4つの象限について触れました。

MBOの統合的アプローチは次のような図で表現されることは前回見てきたことです。

図解 目標管理入門(坪谷邦生著)p.27より

この図によれば、統合的アプローチは目標設定により方向づけされた次の4象限からなります。

  • 個の主観(夢)

  • 個の客観(強み)

  • 組織の客観(業績)

  • 組織の主観(使命)

MBOの統合的アプローチのサイクル

上記4つの象限はサイクルを成し、それぞれの象限を結ぶものとして次の4つがあります。

  • 物語:組織の主観(使命)と個の主観(夢)を結ぶもの

  • 自由:個の主観(夢)と個の客観(強み)を結ぶもの

  • 貢献:個の客観(強み)と組織の客観(業績)を結ぶもの

  • 理念:組織の客観(業績)と組織の主観(使命)を結ぶもの

物語

組織の主観(使命)と個の主観(夢)を結ぶものを筆者は「物語」としています。まさに、私がこの半年間思い続けてきた「会社のパーパスと個人のパーパスをどのように結びつけるか」という問いの一つの答えがここにあります。では筆者のいう物語とはどのようなものでしょうか。

会社のパーパスと個人のパーパスを結びつけるものとして筆者は物語の重要性を説明しています。会社の、特に創業者から発せられた会社の成り立ちやありたい姿、ビジョンや思いー。これらに対し、個人がその役割(の一部)を担いたいと思えるかどうか。ここが重要です。

個人は、入社する上で、ホームページや会社案内リーフレットなどで会社の理念や事業内容などを少なからず目にするでしょう。その時、「会社の理念に共感して入社する」のか、「会社の描く未来ビジョンを仲間とともにつくりあげたい」と思うのか、そのつながりの強弱はとても大切だと思います。

「ただ近いから」とか「無難に仕事ができそう」とかそのつながりが希薄だと、「この会社のこのビジョンのここを担いたい」とか「この会社の思いのここを実現したい」など個人が自ら「やりたい」と思うこと、願うことも希薄になってしまいそうです。

私は今まで、一般企業に広く浸透している社史というものは、会社の功績を自慢したり宣伝したりするために編纂しているのかと勘違いしていました。そして、どの会社も掲げる理念やパーパスと呼ばれるものが流行り廃りのあるものだと思うこともしばしばでした。しかし今、社史や理念、パーパスの存在意義は、まさしく一緒に働く仲間に会社の過去や未来を伝えるためにあるのだと確信できます。(もちろん、社会や地域の広報活動というもう一つの重要な意味があることも理解しています。)

入社当初から会社のパーパスと個人のパーパスが強く結びついているかと言えば、創業メンバーでもない限り難しいでしょう。であれば、会社は会社の思いや描くビジョンを何度も何度も繰り返し個人に伝える努力をし、個人が「その思いを実現したい」とか「「そのビジョンのここを担いたい」と自発的に思ってもらう必要がありそうです。

自由

筆者は、個の主観(夢)と個の客観(強み)を結ぶものとして「自由」を挙げています。私は最初、「自由」と聞いて「ん?」と感じました。なぜ自由なんだろうと。

筆者は、「やりたいことをやれる」ことが自由と呼ばれる状態であると説明し、これは人が生きている究極の目的の一つとしています。

筆者はまた、自由について次のように記述しています。

自由は「自らを由(よし)とする」と書きます。由とは理由、手段という意味です。自分自身から出てくるものを理由とし、自分自身を手段として使うこと。それが自由です。

図解 目標管理入門(坪谷邦生著)p.246より

「自分自身から出てくるやりたいことをやれるようになるために自分を手段とする。自分を手段としてやりたいことをやって、成果を上げるためには、自分の強みを発揮する」ということでしょう。

ただ、ここで一つ疑問が生じます。自分から発するやりたいことをやれるようになるのはいいのですが、やりたいことだけを優先して、やりたくないことはやらなくていいのか。この問いに対しては、次の「貢献」で説明できそうです。

貢献

個の客観(強み)と組織の客観(業績)を結ぶものが「貢献」です。著者は、自分の強みを見つけ、組織の中のどこに自分が貢献するかを考えるべきだと説明します。

ドラッカーは、個々の強みで弱みを補完するとも言っています。では、組織の中のどこに自分が貢献するかを考えるとき、自分の強みだけ考えて弱みややりたくないことはやらなくていいのか?自分の弱みややりたくないことは他のメンバーがやってくれるのか?

ドラッカーは社会への貢献や事業への貢献、上司への貢献、自分のチームへの貢献、他のチームへの貢献を強調しています。

私は、「貢献」には「自分がやりたくないことをする」ことも含まれると考えます。自分の強みを組織に持ち寄って皆の強みの相乗効果を発揮することも素晴らしいことですが、社会のため、事業のため、上司のため、自分のチームのために「やりたくないことをする」ことも大切な貢献だと考えます。

自分の弱い部分や、自分がやりたくないことをカバーしてくれる人や機能がない場合、自分がやるか、誰かがやるか、機能を追加するしかないと思います。そして、自分や誰かがより効率よく効果的にその仕事を遂行できるように成長する必要があると思います。それは自分自身の成長と捉えることもできると思いますし、組織として人材育成として考えることもできそうです。

会社のパーパスを実現するためには業績の向上が必要です。業績を上げるために個人の強みを生かすことは大切ですが、業績を上げるために誰もがやりたくない仕事があったとき、誰かがやったりデジタルなど代替手段を考えることは重要な貢献ではないでしょうか。そのような貢献を正当に評価する仕組みをつくることもまた大切だと考えます。

「自分のやりたいことをやれる状態」が自由で、それが「自分の人生を生きること」だとドラッカーは言います。「自分のやりたいことをやれる状態」になるためには成長も必要です。そして、鍛錬や単純作業など下積み期間も必要でしょう。自分が弱いと感じている仕事でも、他にカバーできる人材や機能がなければ自分がやらないといけないかもしれない。しかし、それが会社のパーパスの一部を担うために必要であればやる価値があることです。

もし、会社の仕事を演劇のシナリオに置き換えた場合、役者はシナリオに沿って役を演じます。やりたい役を演じられるようになるためには、下積みも練習を重ねて成長することが必要です。表現にしかたや演技力にはデザイン力やクリエイティビティも必要でしょう。演劇には美術係やメイク、演出家やプロデューサー、マネジャーや監督、経理や事務もいるでしょう。会社も同じように会社のパーパスのシナリオを担うプレーヤーとそれを支える人たちがいます。会社の仕事は演劇に似ています。従業員は会社のパーパスというシナリオの中で役を担うのです。

ここでまた一つ疑問が生じます。「役を担う」というはドラッカーの言う「自分の人生を生きる」こととは違うように思えます。しかし、私は思います。自分の人生を生きると言うことは、自分のやりたい役を担うことであると。

例えば、自分の役がマネジャーだとして、マネジャーとして働くことを「自分の人生を生きる」こととしてしまうとさすがに重いです。勤務時間はマネジャーとしてその「役」に入り、なりきり、演じる。でも、勤務時間が終わったらその「役」から抜けて親の役目を果たしたり、恋人として時間を過ごしたりする。そうやって、自分のやりたい役たちをくるくると行ったり来たりして楽しむことが「自分の人生を生きる」ことなのではないかと考えます。

マネジャーの自分であったり、親の自分であったり、子の自分であったり、妻や夫の自分であったり役割はたくさんあります。それらを自分がやりたいこととして捉えられること、もしくは、自分がやりたいと思えるくらいそれらの役割を楽しめると言うこと、そして楽しむためには下積みや成長が必要だと言うこと、そう言うことなのではないかと考えています。

理念

組織の客観(業績)と組織の主観(使命)を結ぶものが「理念」です。著者は、理念について次のように説明しています。

組織の客観(理)である業績があがることで、組織の主観(念)である使命が果たされている、この理と念が統合された状態を「理念」と言います。

図解 目標管理入門(坪谷邦生著)p.250より

業績は事業の成果なので、顧客に貢献できている証と言えます。そして、その業績を会社のパーパスとどう結びつけるか、それが今回見てきたサイクルを完結させます。業績が上がり、利益を得て従業員の処遇やサービスの質の向上に投資できていたとして、それをどう物語として個に伝えるか。この物語の重要性が、2周目のサイクルへと引き継がれ、組織の主観と個人の主観の結びつきを強めます。

では、この物語はどのように作られるのでしょうか。もちろん、経営者やマネジャーの役割は重要です。業績を会社のパーパス実現のために行なった事業の成果としてメンバーに伝えるのです。そして、それと同じくらい私が重要だと考えるのが広報の役割です。業績を個人や社会に報告するのです。当然ですが広報とは宣伝ではありません。報告であり、報告は義務です。ですから、業績をあげて報告するまでが一連の仕事(サイクル)です。

ですから、報告の質が問われます。優れた広報が、効果的に個人のエンゲージメントを高めます。会社のパーパスに共感して個人が自らその一部を担いたいと思い、成果をあげるために個人が強みを発揮し、仲間とカバーしあってあげた業績を「みんなであげた業績によって、会社のパーパス実現にまた一歩近づけましたよ」と個人や社会に報告するまでが仕事だと考えます。

おわりに

今回は、長文になってしまいましたが、MBOの統合的アプローチのサイクルについて、4つの象限(個の夢、個の強み、組織の業績、組織の使命)をつなぐもの(物語、自由、貢献、理念)について見てきました。

この物語から始まる一連のサイクルは、繰り返されます。一周して物語に厚みが増せば、会社のパーパスも実現に向けて次のステージに登り、個人のやりたいことも違った役割や仕事になるかもしれません。あるいは役割や仕事は同じでも、次のステージをクリアするためには成長が必要になるでしょう。それは個人の強みを強化することを意味しますし、強みの強化によってより会社の業績があがることを意味します。そして、それが会社のパーパス実現にまた一歩近づくことになる。パーパス実現まで、これらを繰り返します。著者はこの一連の流れを「スパイラル」と表現しています。

さて、そもそもこの書籍のタイトルは「目標管理入門」です。今まで見てきたMBOの統合的アプローチは「目標設定」によって方向づけられます。今回は、実は話の中核である目標設定については触れていません。MBOの統合的アプローチを理解するためには、まずはサイクルとスパイラルを理解する必要があると思ったためです。

次に私が考えるのは、では「いかにこのサイクルを回していくか」です。サイクルを回す上で個人や組織を方向づけるものが「共通の目標」です。そして、それは「自律的な貢献」によってなされます。これら目標設定や目標管理はOKRやKPIといった話ですが、また次の機会にまとめて見たいと思います。

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