ローカルSEOのコンテンツ戦略とは?ローカル検索の最新動向 │ これからのGoogleマイビジネスの話をしよう#15
Googleマイビジネスのトレンドをお届けする『これからのGoogleマイビジネスの話をしよう』というマガジンの第15回です。
SEOとローカルマーケティングはどう繋がるのか???
Googleは地域性のあるキーワードにどう対応しているのか?地域情報をどう扱っているのか??
Googleマイビジネス(Googleビジネスプロフィール)が普及する一方で、あいまいに使われている「ローカルSEO」という考え方。今回は、検索マーケティングを中心にウェブコンサルティングサービスを提供する株式会社JADEの伊東周晃さんに取材。
ローカル検索の奥深い世界やローカルビジネスのSEOへの取り組み方、お客さんとのつながりを資産に変える情報発信、世界のコンテンツマーケティング、自社サイト不要論、ローカルビジネスのサバイブ戦略などをたっっぷり紹介します。
※11/7時点:「Googleマイビジネス」の名称変更に伴い、Googleマイビジネス(Googleビジネスプロフィール)の表記に変更している箇所があります。
意外と知らない?Googleローカル検索の奥深い世界
「これからのGoogleマイビジネスの話をしよう」というテーマで連載を始めたのは、2020年7月21日。当時に比べると、Googleマイビジネス(Googleビジネスプロフィール)に取り組む事例やノウハウ、ツールが一気に普及しました。
一方で「魔法の杖」扱いされることも増え、「SEOに比べて簡単」「Googleマイビジネス(Googleビジネスプロフィール)があれば自社ホームページなんて必要ない」という「オヤっ?」と思う声を聞くようになりました。
今回は「ローカルビジネス×SEO」という観点で、Googleマイビジネス(Googleビジネスプロフィール)にできる事・できない事を紐解いていく予定です。
ローカル検索とは
Googleで地域や場所に関連するキーワード(例:ラーメン屋)で検索すると、通常の検索結果とは違う検索結果が表示されます。このローカライズされた検索を「ローカル検索」と呼びます。
“ユーザーが現在地付近の店舗や場所を検索すると、Google マップや Google 検索などを横断してローカル検索結果が表示されます。たとえば、モバイル デバイスで「イタリア料理レストラン」を検索すると、ローカル検索結果として、ユーザーが行きたくなるような近くのレストランが表示されます”
https://support.google.com/business/answer/7091?hl=ja
このローカル検索と通常検索には、大きく3つの違いが確認できます。
A:施設情報をまとめた特別枠「ナレッジパネル」が表示される
B:Googleマップが検索結果の目立つ位置に表示される(通称「ローカルパック」)
C:地域で変わる通常検索の表示結果
一見、地域とは関係なさそうな言葉でも違いが出ることがあります。例えば、同じ「クリスマス」という検索ワードで、位置情報によって通常検索の結果が変わります。
検索順位の確認では「Google Search Console」や「シークレットモードでの検索」がよく使われますが「シークレットモードで検索一位でもサーチコンソールでは一位にならない」原因の一つと言えます(Search Consoleの順位は「平均」のため、例えば、地点Aで1位、地点Bで10位だと、4位と表示される場合がある)。
ローカルSEOについて
このローカル検索のランキングは、主に「関連性・距離・知名度(視認性の高さ)」などの要素で決められています。
“ローカル検索結果では、主に関連性、距離、知名度などの要素を組み合わせて最適な検索結果が表示されます。たとえば、遠い場所にあるビジネスでも、Google のアルゴリズムに基づいて、近くのビジネスより検索内容に合致していると判断された場合は、上位に表示される場合があります”
https://support.google.com/business/answer/7091?hl=ja
関連性、距離、知名度(視認性の高さ)の改善方法ですが、Googleマイビジネス(Googleビジネスプロフィール)以外の要素もローカル検索の順位に影響すると言われています。例えば、Googleマイビジネス(Googleビジネスプロフィール)にリンクしたサイトのSEO評価やオンライン上での言及数(サイテーション)が増えることも効果があるそうです。
“ビジネスについてのウェブ上の情報(リンク、記事、店舗一覧など)も知名度に影響します。Google でのクチコミ数とスコアも、ローカル検索結果のランキングに影響します。クチコミ数が多く評価の高いビジネスは、ランキングが高くなります。ウェブ検索結果での掲載順位も考慮に入れられるため、検索エンジン最適化(SEO)の手法も適用できます”
https://support.google.com/business/answer/7091?hl=ja
つまり、ローカルSEOとは「相互に影響し合うGoogleマイビジネス(Googleビジネスプロフィール)とSEOの両方を最適化し、リアルとウェブの良いサイクルを回すことでビジネスを成功に導く取り組み」と考えられます。
そこで今回は「ローカルSEO=MEO=Googleマイビジネス(Googleビジネスプロフィール)の活用」と考えるのではなく、より俯瞰して「ローカルビジネスのウェブサイト活用・コンテンツマーケティング」という視点で謎に迫っていきます。
※ローカルSEOとMEOは同一視されるケースもありますが、MEOは定義が定まっていないこと・Googleマイビジネス(Googleビジネスプロフィール)の登録や活用に留まる取り組みも多いことから、今回も別物として扱います。
検索行動の変化。現在、モバイル検索の50%弱は地域の意図を含んでいる
今回は、株式会社ぐるなびにてSEO、ソーシャルメディアマーケティング、コンテンツマーケティングなどの領域で執行役員を務め、2020年より株式会社JADEの代表を務める伊東周晃さんにお話を伺いました。
ー最近、ローカル検索の影響を感じることが増えました。
伊東さん:実はローカル検索の影響は直近のトレンドではなく、スマートフォンの登場以降、徐々に大きくなってきました。
というのも、ガラケー時代はインターネットへの入口は、キャリア公式サイトのディレクトリ検索が主動線で、一応、ガラケー向けGoogle検索もあったのですが、精度はかなり悪いものでした。
それがスマートフォンの登場により、携帯端末からデスクトップと同じGoogle検索が可能となったことで、消費者のモバイル端末での検索行動が大きく変わりました。また、2014年末のベニスアップデート以降、検索結果のローカライズが進むようになりました。
伊東さん:そして個人的に、ローカル検索が日本人への認知に大きく影響を与えた出来事として思っているのは「2016年頃からのGoogle MapsのテレビCM」です。
このCMでは、以前から英語圏では行われていた、いわゆる「Near me(近くの...)」検索がシーンとしてよく取り上げられました。「Googleは『近くのカフェ』や『近くのかき氷』などの地域ワードを明示的に入力しなくてもローカライズされた検索結果を提供してくれるので便利」という事実が、ライトユーザー層にもかなり浸透したのではないかと思います。
伊東さん:偶然かも知れませんが、Googleトレンドをみると、「近くの」検索は、2016年4月のCMの以降に大きく伸びたように思います。
ー現在どれくらいのクエリが、ローカル検索の影響を受けているのでしょうか?
伊東さん:時期により色々な情報がありますが、以前、Google公式コンテンツThink with Googleでは「モバイル検索の約3割が地域に関する検索である」という表現がされました。
また検索マーケティング専門メディアSearch Engine Roundtableの2018年の記事でも「Google主催のイベントで出たクローズドな数字として46%は地域意図の検索との話があった」と述べています。私個人も、スマホ検索が主流の今はこれぐらいのシェアがあるのは頷けます。
伊東さん:ローカルスリーパックのような分かりやすい結果の他、多くの自然検索部分にもローカライズされた結果が反映されています。Googleは、ウェブページ自体がどんな地域属性を帯びているかを判定しており「このクエリでこのページが?」という結果も多いです。
ー50%も影響を受けているんですね…それだけの影響の強さは知られていない気がします。影響の有無はどう確認したらよいのでしょうか?
伊東さん:「位置情報を変えて検索してみること」ですね。いくつか方法はありますが、例えば、Google Chromeのデベロッパーツール「ロケーションセッティング」機能やBright Localのウェブサービスを試してみてください。
伊東さん:同じクエリでも、東京と大阪の検索の結果がまったく違うことがわかるはずです。新宿と渋谷でも違うことがありますね。
Googleマイビジネス(Googleビジネスプロフィール)の投稿は「アツアツのお客さん」を意識しよう
ー店舗ビジネスは、そんなローカル検索とは切り離せません。専門的な知識や人材がいない店舗が多いのですが、どこからどのようにSEOに取り組んだらよいでしょうか?
伊東さん:まずは「正確な情報を担保する」意味で、Googleマイビジネスの整備が重要です。
最近リリースされた2020年版の「Local Search Ranking Factor Survey」(Whitespark社)でも「最も重要なファクター」としてGoogleマイビジネス要因が紹介されています。
伊東さん:Googleマイビジネスの機能追加は継続的に行われ、ナレッジパネルに表示される情報はどんどんリッチになってきています。既に、ある意味「店舗のもう一つのホームページ」と言える存在になっています。
伊東さん:マイビジネスの情報を登録して、ナレッジパネルがホームページ並に整備できたら「投稿」機能をしっかり活用していきましょう。
ー「Googleマイビジネスの情報登録の後、投稿に取り組むべき」ということですね。この順序には、どんな意味があるのでしょうか?
伊東さん:指名検索時の見え方をより望ましくするためです。
スマホで指名検索した場合のUIを見ると、ナレッジパネルの情報占有率が高いことが分かります。
そして、基本的に投稿は「指名検索された場合に表示される情報」で、掲載期間中の最新の投稿は検索結果に差し込まれるので、さらに占有率を高めることができます。
ストック情報としてのナレッジパネル(Googleマイビジネス)で店舗の基本情報を伝え、フロー情報としての投稿で「店舗の今日の情報」を伝える。投稿では、店舗を認知している検索ユーザーに「今日のチラシ」をお届けするようなイメージです。
ーなるほど。さきほど挙げられたランキング要因調査は、欧米のものですよね。欧米のローカルマーケティングでは、投稿は活用されているのでしょうか?
伊東さん:実態として、欧米でもまだ有効活用できていないケースは多いようです。
同じWhitespark社が主催したカンファレンスのあるセッションでは「9割のローカルビジネスはまだまだ投稿を活用できていない」との調査結果が共有されていました。投稿機能は、自社サイト運営リソースがない方には、キーになる発信手段なんですけどね。
"96% of businesses are not using Google Posts.(ビジネスの96%はGoogle投稿を使用していません)”
"Only 28% of businesses we studied had ever posted. The number of businesses actively publishing Google Posts at the time of study, was 7 times less – just 4% of businesses are making Google Posts a part of their ongoing strategy.(私たちが調査したビジネスの28%だけがこれまでに投稿したことがあります。調査の時点でGooglePostsを積極的に公開している企業の数は7分の1でした。企業のわずか4%が、GooglePostsを継続的な戦略の一部にしています。)
ー欧米も日本もローカルビジネスの経営者の「本業以外に時間を割く難しさ」は、同じなのかもしれませんね。ちなみに投稿の有効活用には、どんな方法が考えられますか?
伊東さん:Googleマイビジネスの投稿は「販促」的であるべきと考えています。投稿が検索ユーザーの目に触れるのは主に「指名検索時」。投稿を見る相手は「認知段階をすでに完了している」いわば「アツアツ」のお客様だからです。
ーなるほど。「興味があって店を調べている人」にアピールできるのが投稿ということですね。
伊東さん:この意味で、同じ短文投稿でも「たくさんの人にシェアしてもらうことを意識するソーシャル投稿」とは、取り組み方の違いを意識する必要があるかなと思います。
Googleマイビジネスの投稿は「Googleがお店に与えてくれた無料の広告枠」ぐらいに捉えて、しっかり売りを伝えるのがポイントだと考えています。
伊東さん:店長さんにとっては「店頭に置く手書きのボード」をイメージすると良いかもしれません。
店頭看板で伝える内容や、店内のいわゆる”黒板メニュー”の出来は、来店や注文に結構影響を与えますよね。「来店する可能性の高い人の足を止め、思わずドアを開けてしまう分かりやすいオファー」が効果的だと思います。
新規を狙うなら「クーポン」や「ハッピーアワー情報」など、リピートを狙うなら「新メニュー開始のお知らせで再訪を促そう」という風に、ターゲットを意識してPDCAを回すのが有効でしょう。
例文
”1月は19時までのオーダーでハッピアワーを開催します。通常生ビール500円が期間中はなんと250円!クラフトビールも豊富な渋谷駅の居酒屋○○にぜひご来店ください。新年会や席だけ予約も受付中です”
ー投稿内のテキストは、ローカル検索のランキングに影響あるのでしょうか?
伊東さん:海外だといくつか検証研究が行われていますが、意見は分かれています。カナダのSterlying Sky社のJoy Hawkins氏は、以前は「マイルドな影響あり」と述べていましたが、最近は影響は少ないと見ているようです。
私が参加している海外のローカルSEOコミュニティ内では「影響無し」と言っている人がやや多いですね。
伊東さん:個人的には、若干の影響はあると考えています。メインカテゴリや店名に比べれば、かなりマイナーなものになりますが。投稿のテキスト情報は、Googleがウェブ全体をクロールして発見・収集されるものではなく、Googleのデータベースに直接取り込まれる物なので「シグナルとしてそのデータを全く使わないことはないのでは?」と考えています。
Googleマイビジネスがあれば自社サイトは不要?必要?
ーGoogleマイビジネスでの情報発信が「販促」だとすると、ウェブサイトでの情報発信にはどんな役割を置いたらいいのでしょうか?
伊東さん:ローカル検索での露出機会向上の観点だと、ウェブサイトでの発信はランキング要因の3要素(知名度・距離・関連性)のうち、特に「関連性」の向上や「知名度」シグナルの強化に影響があると考えています。これらの要因の改善に課題があるお店については、ウェブサイトとの関わり方が重要となりますね。
まず「関連性(Relevancy)」について。ローカルSEOのキーワードマーケティングでは、Googleマイビジネスの「メインカテゴリ」のランキング影響が強いこともあり、ついつい「カテゴリ(例:イタリア料理店)」を中心に考えがちです。
しかし初期のクイックウィンを目指す場合、狙い目なのは「検索需要はあるが、Googleマイビジネスのカテゴリとして持っていないキーワード」。
例えば、飲食店なら冬になると「クリスマスディナー」の需要が高まりますし、「還暦祝い」などは年間を通じてニッチな需要が存在します。
伊東さん:しかし、こうした情報はマイビジネスの登録可能な情報だけでは不十分です。「Googleマイビジネスにリンクしたウェブサイト」や「Googleレビュー」などがGoogleへのシグナルになります。そのうちコントロール可能なのはウェブサイト。ウェブサイトを活用することは、お客様の裾野を広げることにもつながります。
伊東さん:まずは、ニッチなテーマでも、検索経由の集客を少しずつ増やすことができれば、それだけレビュー獲得機会が増えることになります。レビューが継続的に増加すれば、徐々に競合性の高いキーワードでも戦えるようになってきます。
ー投稿は期間限定ですし、レビューは「こう書いて欲しい」と強制するものではないので、コントロールできる自社サイトでの発信が大事ということですね。
伊東さん:次に「知名度(Prominence)」ですが...なんとも身も蓋もない響きのする要因ですよね。「結局、有名じゃないとダメなの?」と諦めの気持ちになる方もいらっしゃると思います。ただ、地図の特性を考えると、道路以外に「街のランドマーク」にあたるものが目立つように表示されていた方が使いやすいのは確かです。
「有名な美術館や、ホテルなど一般に知名度のある施設はマップ上でも目立つ形で表示されるほうがユーザーにとって利便性が高い」とGoogleが考えているからこそ、三大要因のひとつになっているのでしょう。
“知名度とは、ビジネスがどれだけ広く知られているかを指します。ビジネスによっては、オフラインでの知名度の方が高いことがありますが、ローカル検索結果のランキングにはこうした情報が加味されます。たとえば、有名な博物館、ランドマークとなるホテル、有名なブランド名を持つお店などは、ローカル検索結果で上位に表示されやすくなります”
伊東さん:では、そんな「リアル世界での認知の高さ」をGoogleがどう推し量っているのかと言えば、結局はオンラインのデータをヒントにせざるを得ません。ネット上での言及(サイテーション)やレビューなどがありますが、リンクも重要な要素となります。そして、このリンクはウェブサイトを持つことによってこそ獲得できるものです。
“登録の際に自社の公式サイトへリンクを設定することができて、そのリンク先のコンテンツはGoogleの地図検索での検索順位に影響を与えるんです。つまり、自社に関連ある話題を意識したコンテンツを積み上げておくことは、幅広い検索キーワードでの地図検索露出を高めることにもつながるんですね”
ー最近SNSやGoogleマイビジネスの普及で「店舗ビジネスには自社サイトは不要」という声も少なくありません。あえて伺うのですが、自社サイトは必要でしょうか?
伊東さん:「必要か?不要か?」のどちらかだとしたら「必要」だと思います。自社サイトを持ち、しっかり運用するべきです。先ほど挙げた「ローカルSEOのリターン」以外に、そもそも「集客や情報発信の基盤部分を外部のプラットフォームに完全に依存しないほうが良い」と思うからです。
「新しいキャンペーンやサービスなど、このお店の情報を知りたい」と思って「訪ねてくれる・興味を持ってくれる関係性」は、いつ運営方針が変わるかもしれない外部プラットフォームではなく、なるべく自前で持ちたいものです。
伊東さん:どちらかのみやっておけば良いではなく「Googleマイビジネスなどのダイレクトな集客活動」と「オウンドメディア運営などで価値を積み上げていく関係構築活動」の両輪が必要です。
理想は、Googleマイビジネスで「今日のお客さん」を獲得しつつ、ウェブサイトでの情報発信で「中長期的な種まき」を行い、集客基盤を強化することです。
ー伊東さんは別の記事でも「広告とコンテンツの違いは、積み重なるかどうか」と紹介されていましたね。
"いわゆる広告と分別する視点は重要だと感じます。端的に言えば、積み重なるか、積み重ならないか。広告とコンテンツの違いはそこですよね。広告的な発想だと、まずたくさんの人を集め、最終的にその中の数%の人がお金を落としてくれればいいというファネル的な考え方になります。
これはもちろん一つのやり方ですが、常に最初の1000人や2000人をファネルの上部に集め続ける必要がある。しかも、広告の出稿を止めれば、そこでユーザーとの関係性も終わってしまいます"
情報発信の価値は、自店への興味を「資産」に変えることにある
伊東さん:オウンドメディアなどでの情報発信は、資産形成のようなものだと思うんですよね。コンテンツの先には読者がいて、その人たちがリンクを張ってくれたり、シェアしてくれたり、フォローしてくれたりする。
これらはすべてデジタルアセットとして経年で積み上がり、着実に大きくなっていきます。「コンテンツマーケティングは、Compounding(複利) Investment」と言う人もいますが、このような特徴をうまく表現していると思います。
ポイントは、コンテンツ作りやメディア運営を獲得型広告の新しい代替としてのみ捉えてしまうと「資産形成的な積み上げの評価」が抜け落ちてしまうこと。
伊東さん:コンテンツマーケティングの持っている「含み」を削ぎ落としてしまうので気をつけたいところです。獲得型の広告と「どちらがどう優れているか」という優劣の問題ではなく、「そもそも違うもの」と考えたほうが良いと思っています。
ー目の前の数だけを比べるのではなく「どうしてコンテンツを通してサイトに来てくれたか」「広告でサイトに来た方との違いは何か」そのユーザー理解が重要ということですね。
以前取材した回でも『「検索者がナレッジパネルの情報に求めているもの」と「自社サイトに求めているもの」は違う』と紹介されていました。
“自社サイトに行った検索者は「わざわざ自社サイトに行く」理由があったわけです。詳しく知りたいとか、特定の項目について知りたいとか、予約フォームに行く等です。
つまり、ローカル検索において、ナレッジパネルから自社サイトへのアクセスは「足らない情報の受け皿」としての役割を自社サイトに求めているわけです。広告やウェブサイト検索にはそれがないので、数を単純比較しても意味はないわけですね”
ローカルビジネスのコンテンツマーケティングは「地元とファンを意識する」こと
ーローカルビジネスがコンテンツマーケティングを始める時、どんな戦略で取り組んだらよいでしょうか?
伊東さん:小規模の個人店舗の場合のコンテンツは、色々なアプローチはあると思いますが、「自店舗の商圏を意識する」ことをオススメすることが多いです。
飲食店のような多くの来店型ビジネスの商圏は、かなり狭いものですよね。例えば、商店街の中にあるお店なら、その商店街全体を色々な切り口で紹介するコンテンツを運営していく。
「自分のお店のPRのみ」に終始するのではなく「自分の町に来てもらおう」という発想で運営したほうが、コンテンツの有用性も高まるし、見込み客との接点も広がりやすくなります。大手のメディアは、その粒度での展開をしないので差別化にもなります。
伊東さん:続けていくと、同一エリア内の他のホームページや商店街運営の公式ページで紹介(リンク)したりされたりも生まれます。そうすると、徐々に「認知」や、オンラインでの「見つけられやすさ」も高まってきます。
ー以前の「地元で愛されるTwitter運用」でも同じポイントが挙げられました。発信の場は変わっても、想定ユーザーやコンテンツは変わらないということですね。
・フォロワー数の獲得では「商圏の人へのアプローチ」を行い、施設の近くにいるユーザーや地元に愛着のあるユーザーの獲得を最重要視
・公式アカウント「地元への愛着」や「施設・サービスの秘話」などを語るのがポイント
ー不動産のような業態だと、地域性を意識したコンテンツのイメージがつきやすいです。しかし、例えばインテリアショップとなると、地域性を満たす企画を作るハードルが高くなるように思いますが、どう取り組めば良いのでしょうか?
伊東さん:自分たちの専門性が、地域に特化したもので無いことも多いと思います。この場合は「その専門知識を求めている人々を対象に、コンテンツに落とし込んで発信していく」ことでも良いと思います。
事例にグルメ系が多くて恐縮ですが(笑)、私が個人的に好きな「まかないレシピ」に特化したYouTubeチャンネルがあります。運営しているのは、ある料理店のシェフの方です。
紹介されるレシピの手軽さや、キャラクターなど惹かれるポイントはいくつかあるのですが、とにかく好きでよく観ています。いくつかのレシピは実際に試しました。ただ、はっきり言えることは、私は多分、このお店で食事することは一生ないだろうと思っているんですね。
ーえ、よく観ているのにですか?
伊東さん:そもそも、私の生活圏とお店の所在地が随分と離れていますので、行く機会が思い当たらないんです。しかし、このチャンネルの更新があれば、今後も必ず見続けると思います。
この場合の私のような人は言ってみれば「コンバージョン(来店)しないけど、エンゲージメントが高い人」です。そして、私(+同じような関わり方の他のファン)による前のめりな視聴行動は、良いシグナルとしてYouTubeに伝わり、他の誰かに「オススメ」として「まかないレシピチャンネル」が表示されることに良い影響を与えているはずです。その結果、来店への影響も出てくるはずです。
ーエンゲージメントを高めることが、結果的にコンバージョン(来店)に寄与するということですね。
伊東さん:ちなみに、この店舗の複利投資的な価値の現れとして、最近レシピ本も出版されたそうです。私は、この本を買うと思います。お店のお客にはならないですが、この方のレシピは好きなので「書籍売上」というお店にとっての新しいレベニューストリームには貢献することになります。このあたりの「含み」のある取り組みが、コンテンツマーケティングの面白いところだと思います。
ー伊東さんは、過去の記事でも「たくさんのPVよりも正しく読者とつながることの重要性」をあげていましたよね。
短期的な効果やCVを求めるのではなく、まずは「喜んでもらう・役に立つ情報を出していく」ことが重要なのだと感じています。
"正しく読者とつながることの重要性。小さく始めるとは、要するに「最初は少なくても良いから、”ちゃんと私達が届けるストーリー(コンテンツ)に耳を傾け、ときに意見をくれる”」オーディエンスを持つということです"
誰かの「情報ソース」になることでエンゲージメントを高めよう
伊東さん:Hubspotが「Flywheel(フライホイール)」というモデルを提唱していますが、すごく良い考え方だと思うんですよね。
今、検索エンジンのみならずYouTubeやEメールも含めた主要なプラットフォームでは「エンゲージメント」は重要なシグナルになっています。それをモデルの中に取り込んでいるのは、とても理解できますし、応用も効く考え方だなと。
"「正しいオーディエンスへ届ける」→「シグナルが改善する」→「より多くのオーディエンスに届く」→「オーディエンスのベースが増える」→「次回のコンテンツのリーチが広がる」→「シグナルが改善する」→続く、のサイクルを創り出す"
(図は少し気の早い「2021年に向けたコンテンツマーケティング事始め」より参照)
伊東さん:規模を拡大していく上で大事なのが「一定のサイクルでコンテンツを提供し続けること」です。読者に「コンテンツと接する習慣」が生まれるからです。そのような質の良い閲覧体験・正しいファンとのつながり方を定量化する指標として「購読者(サブスクライバー)数」はわかりやすいと思います。
ー実体として見えにくい「ふわふわしたファン」を、情報発信を通じて「つながりのあるファン」に変えていくということですね。
ー「一定のサイクルで続けることが大事」とのことですが、どれくらいの期間を意識したらいいでしょうか?
伊東さん:コンテンツマーケティングの第一人者であるJoe Pullizi(ジョー・プリッツィ)氏は「1年~1年半くらいは続ける覚悟が必要」「キャンペーン(一過性)ではなく、プログラム(継続性)として取り組まないとダメ」と言っていますね。
逆を言うと、それくらい先のリターンを見越して取り組む必要があるということです。誰かの「情報ソース」になるには継続が大事で、時間がかかるのは確かです。
サブスクライバーが増えるとサバイバルに強くなれる
伊東さん:コロナ禍でリアルな集客がしぼむ中、テイクアウトやネット通販などを始めた店も多いと思いますが「新しい取り組みのたびに新規顧客開拓が必要」だと大変ですよね。
ー確かに好きな店であっても、ECを始めたのを知らなかったことがあります。
伊東さん:「自分のお店が発信する話題(コンテンツ)」に興味を持ってくれている状態の読者を「サブスクライバー化(フォロワー、メール購読者、会員等)」できていれば、お店の新しい取り組みをこの人たちに真っ先に届けることができます。
伊東さん:お店にとっては、サブスクライバーは「見込みも含めた顧客リスト」です。これをコンテンツを通じて集める。そうすると今回のような状況変化へのサバイバルにも強くなりますし、打ち手の引き出しも増えると思います。
こう考えると、コンテンツマーケティングは「SEO記事を作ること」ではなく「読者との関係をレバレッジする取り組み」と、理解いただけるのではないかと思います。
ー「もともと持っていたつながりを実体化する」というのも大きな目的と言えそうですね。
有名店の閉店ニュースでは「残念」「ショック」「知らなかった」という反応が多いですが「店の窮状や閉店してしまう可能性がファンに伝わっていれば、閉店せずに済んだ店舗もあったのでは」と感じることもあります。
伊東さん:飲食だと「テイクアウトだけで今までの売上分をカバーする」ことが難しく、完全なリカバリーは難しいですが、お店の存続には貢献し得ます。
テイクアウトの話をもう一つすると、春の緊急事態宣言時に「テイクアウト」の検索ニーズは過去最大の伸びを示しました。感染者数が一時的に落ち着いた時期には減りましたが、それでも宣言前の5倍程度になっています。
つまり、市場は広がったわけです。こうしたポテンシャルの広がりに即時対応するのにも「自店の顧客リストづくり」は大切だと考えます。
ーサブスクライバー(自店の顧客リスト)には、具体的にどんな種類がありますか?
伊東さん:サブスクライバーの形には、緩めからガッチリしたものまで色々あります。比較的緩めな例が「ソーシャルのフォロワー」、自分たちで管理可能な例は「メンバーシップやEメールアドレス」になるでしょうか。
理想は、SNSなどの外部プラットフォームに依存せず「自社でリストを所有する・お客様とダイレクトに繋がれる」ことです。プラットフォームのポリシー変更に左右されず、自立して集客できる契機になります。
先程紹介したJoe氏は、2019年に「2020年はオプトインEメールの最も大きな機会の年」という興味深いツイートをしています。
アルゴリズムやポリシー変更の影響を受けやすい外部プラットフォームの緩いサブスクライブの形を「自社(お店)にとってコントロール可能性が高い領域へ移行させるべき」というメッセージでもあります。
ー伊東さんは以前も「コンテンツやユーザーとの関係をプラットフォームに委ねるリスク」について書かれていましたよね。
"例えば、YouTubeやInstagramなどは、プラットフォームの動向次第で、アカウントが消えたり、BANされたりする可能性が0ではない。また、プラットフォームによっては表現の規制などもあるので、必ずしも自由に発信できるわけではありません。
一方で、自社で管理している場所であれば自由に表現ができますし、突然BANされるといった不安とも無縁。プラットフォームに依存しない自社で管理できる場所に投資するという姿勢は大事ですよね"
ーTwitterやInstagram、YouTube、noteなどは「始める手軽さ」はありますが、投資という観点ではたしかにリスクも感じます。
ローカルマーケティングでも注目される「メールマーケティング」は、レビュー獲得にも有効
伊東さん:海外のローカルマーケティングでは、ローカルSEO施策とメールマーケティング施策は、密接に連携する形で行われています。
例えば、オンライン予約システムの自動送信メールのテンプレートを工夫して、
・オンライン予約して来店した次の日にサンキューメールとレビュー依頼を送る
・サンキューメールで「これからも新しい情報やお得な情報を送ってもいいですか?」と今後のメルマガ配信の許可を得る
というフローの取り組みです。
「お店のサービスを受けた後にメルマガ配信をOKした人」は、満足したからこそ許諾した人、いわば「お店の新しい話題や関係を期待して購読してくれる人」です。そのように、来店をきっかけにして、自然な流れで良質な会員組織を増幅していくのが理想です。
ーいつの間にか会員になっていたリストと、サービスを体感した上で自分から会員になったリストだと大きな差が出そうですね。
伊東さん:このフローは、レビュー獲得にも有効です。実際のヘアサロンでこの取り組みを行ったところ、それだけでレビューがコンスタントに獲得できるようになりました。
この際のコツとしては、単に「レビューお願いします」とだけ書くのではなくて、ちょっとした質問リスト風に文章を工夫することです。質問リストがあるだけで、レビューを投稿する人の「何を書いたら良いだろう?」という迷いが減ります。コメント無し評価や短文評価(例:「美味しかったです」だけ)ではない濃いレビューが得られやすくなります。
内容の濃いレビューは、サービス改善の有益なデータとなります。また、レビューテキストはローカル検索の関連性ファクターへの影響が大きく、その面でも効果的です。
ー来店直後なら記憶も鮮明ですし、メールの文面次第で「こういう内容の感想を書いてほしい」という呼びかけも可能ですよね。
今後のローカル検索動向。「即時性」のニーズの高まり
伊東さん:情報の信頼性と正確性が、これほど求められている時代はないように思います。「クチコミ隆盛」の一方で「ステマ問題」があり、「ビジュアル・映え」の一方で「盛る」があったり、そのせめぎ合いの中で「正確な情報」の希少性が上がってきているのかも知れません。
お店の実態と乖離した情報が流通してしまうのは、長い目で見た場合にはメリットは少ないと思います。
このような状況において、Googleマイビジネスは「お店が主導権を持って正確な情報を広く届けるツール」として有効ですし、時流と合っていると思います。
ー今後のローカル検索で起きそうな動きについて教えてください
伊東さん:いろんな論点がありますが、Googleにとってマップ領域は重要なので、今後も新しい機能が追加されていくものと思います。検索エンジンがますますローカルな検索意図を理解して、スマホを通じたレコメンデーションがどんどん広まっていくはずです。
少し前ですが、2017年に米国で開催されたあるローカルマーケティングのカンファレンスに参加したとき、ローカルサーチにおける消費者の情報ニーズトレンドが「Near me(近くの)」から「Open now(今開いている、今入れる)」に移ってきているという話がありました。
伊東さん:私は「ローカル検索においても即時性へのニーズが高まっている」と理解しています。
情報は「ストック情報」と「フロー情報」の二つによく分類されますが、ローカル検索においても「即時性ニーズへの対応」という意味で、フロー情報への取り組みがより重要視されるのではないでしょうか?
投稿機能などは、その代表的なもののひとつでしょう。直近で、Google Mapsアプリ内のニュースフィード機能もリリースされましたし、今後はDiscoverなどにも投稿が出てくるようになるかも知れません。
ー今日は、貴重なお話をありがとうございました!
(取材協力:株式会社JADE代表 伊東周晃さん)
株式会社JADEさんからの採用募集のお知らせ
ーちなみに現在、JADEさんでSEOコンサルタントを募集しているそうですね。伊東さんや辻さんをはじめとしたエキスパートの皆さんと一緒に働けるのは、すごい環境だと思います。
伊東さん:JADEに怖いイメージ(笑)を持っている方がいますが、全くそんなことありません!カジュアル面談もやっているので、まずはお気軽にお問い合わせください。
株式会社JADEの採用情報
募集職種:SEOコンサルタント
【条件】
・インハウスや支援会社(代理店等)等でのSEO実務経験がある方が望ましいですが、経験年数不問です
・今の自分に満足せず向上心のある方
・クライアントとの対話が多いので、コミュニケーション能力のある方
採用のお問い合わせはこちらから
あとがき
「これからのGoogleマイビジネスの話をしよう」第15回を読んでいただき、ありがとうございました。
今回「ローカルSEOってなんだろう?ローカルビジネスはどこまでSEOに注力したらいいのか?」という素朴な疑問から、JADEの伊東さんに取材を申込させていただきました。
もともと、もっと短い記事になる予定でした。実は伊東さんには、12月のインタビュー後にもかなり追記やアドバイスをいただき、SEOだけでなくコンテンツマーケティング全般に関わる情報を教えていただきました。この場をお借りて感謝申し上げます。
SEOに関わる人以外にも、役立つ情報となっていると嬉しく思います。今後も不定期で更新していくつもりなので、マガジンのフォローなどがおすすめです!
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。いつか、また!