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小さいころの「私」を救うには

私は未だに分からない
母親とどう向き合えばよかったか、父親をどう想えばよかったのか。
去年の夏の暮れ、母の姉から連絡があった。
「あんたのお母さん病気になって大変なの、連絡して」
母とは、というか家族とはほぼ絶縁状態で連絡はおろか家の所在地も伝えていない程で、なんなら役所に行って"住基ロック"をかけている。それほど家族とは関わりたくないしもう無いようなものだった。それでもその一報が少し気になってしまいその連絡に返事をしてしまった。結果から言えば別になんてことはなく、精神的に参ってしまっている、だけのことだった。それだけなら正直「何を今更」という感じなのだが、何故か母の姉(おば)は電話をかけてきて「今お母さんと一緒にいるから、変わるわね」と強制的に私と会話をさせてきたのだ。

「ひな、元気ね?今お母さん大変なの。ねえ、今までごめんね、酷かったよね。ごめんね今まで気付けなくて、寂しかったんだよね。私たちみんなひとりだったよね、あんたもお兄ちゃんもあたしも、みんなひとりだった。みんなひとりぼっちだった。お母さんはみんなのこと幸せにしてあげたかっただけなのに、ごめんね。許して欲しい、ごめんね」

母親にそう言われた。私は言葉が出なかった。何を返せばいいか分からなかったし、何故か涙が溢れて止まらなかった。私は母の泣く姿を知らなかったが、その母親が赤子のようにワンワン泣いていた。訳が分からなかった。おばが母にかわるように「あんたも大変だったかもしれないけどお母さんも大変だったんだよ。一人で子供四人も育てて、一人育てるのも大変なのに、お母さんだけが悪いんじゃないんだよ」と言った。後ろから母の泣き声が響くように聞こえてきて、どうしたらいいのか分からなかった。

「許す」

その一言が言えたらどれだけ楽だろう。そう思えたらどれだけ楽だろう。母親は救われるんだろうか。母親が救われたところで私は?私の地獄は今もまだ終わらず続いているというのに母親だけが楽になるのを許せるのか?許せない。許せるはずがなかった。

私には三人の兄がいる。八個上の長男、五つ上の次男、そして二つ離れた三男。次男は重度の知的障害と自閉症を持ち、三男も知的障害と自閉症をもっている。たまたまそういう遺伝子でとかそんな話ではなく、母親の喫煙と飲酒が原因だ。次男の時は特に飲酒が酷かったらしくそれがモロに影響し彼は話すことすら出来ない。「あ」とか「ら」とか"音"を発しはするがそれに意味は無い。飯を出されれば食うが箸を喉につっこみその場で嘔吐をしたり、糞尿をその場でしたり、他人の家に押し入り警察沙汰になったり、言葉が通じる訳では無いのでもはや人間と言っていいのか定かでは無い。三男はそれと比べたら軽度で(軽度では無いが)意思疎通は出来るし話すことも出来る。簡単な計算なら可能だし、喜怒哀楽もきちんと存在する。けれど母親に暴力を振るうようになり手がつかなくなって施設に。それもこれも母親のせい。母と周りにいた大人たちのせい。飲むのを辞めなかった彼女と止めなかった周りの責任。私は親のことも兄のことも好きじゃない。三男は障害があるとはいえ私の着替えや風呂を覗いてくる。それはただならぬストレスだし、簡単に理解出来るはずもないだろう。仮に誰かに言ったところで何の解決にもならないし結局「障害者なので仕方ない」で終わるのが目に見えている。そんな兄たちの面倒を見る気は無いし、親の老後を世話するつもりも無い。幼少の頃から次男三男は施設に預けられ育ち、長男とは歳も離れておりそもそも私は母方、長男は父方で育ったので親戚のお兄ちゃんくらいの感覚の方が近い。し、一緒に暮らしてた時期でさえ性の知的好奇心の対象かはたまたストレス発散の相手でしかなかったので兄三人に対してプラスの感情がなにひとつとしてないのだ。
そして父。父はザ・昭和人という感じで亭主関白-最悪ver-なのだが、ほとんど毎日パチスロやギャンブルに明け暮れ休みの日はゴルフコンペや麻雀、夜は居酒屋スナックで遊び歩き帰ってきてからはウザ絡みしてくるジジイだった。「誰が稼いできてやってると思ってるんだ」「誰の家だと思ってるんだ」「誰のもんだと思ってるんだ」と常にこの精神であり、私も兄も母も常に脅え疲弊していた。長男は中学にはいる頃にはヤンキーと化していたし私は引きこもりになっていた。母親に対し「お前の子供だろ」といい、母親には「お前のせいで私が怒られる」と言われていた。ずっと苦しい空間で過ごしていて限界になった私は15歳で家出し、20歳をすぎた頃には縁を切った。

それなのに、どうして。
今も文字を書きながら何故か泣いている
ずっとどうすればいいのか分かっていない、分からない

私は母がすごく恋しくなる。私の母でない母に。概念としての母に。母がいればこんな時慰めて貰えたかな、こんな風に喜んでもらえたかな、お母さんのご飯が食べたいな、母の味が一番だよな、久しぶりに帰りたいな。そんなふうに思ってみたかった。私には帰る家も戻る場所もない。ただ前を向いて進むしか、無いのよ。自身の母に対して思うわけではないが、ずっと母に対して寂しいという感情だけが存在し、帰りたいと思う。死ぬまで一生ずっと、消えないんだと思う。祖母もボケて誰が誰だかわからなくなってきているらしいし、祖父も介護が必要なほどになっているという。祖父母も大事な時に私を無視した。結局みな厄介ごとには巻き込まれたくないし、自分が一番かわいいのだ。周りの大人たちはみんなそうだった。だからもう会いたいとも声を聞きたいとも思わない、なのに。どうしてずっと恋しく思ってしまうんだろう。

だけど私は一生許さない、許せない。あなたがたを許す日は一度としてこない。

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