離床のリスク管理 〜離床の安全な進め方〜
早期離床は、呼吸、循環器系に限らず精神面においても有効です。一方で、適応を誤るとマイナスの効果が現れてしまいます。
リスク管理の上で最も重要なのは、患者様の病態を考慮し、常にリスクを念頭において離床を実行することです。
離床を安全に進められるように学習していきましょう!
離床の基準
以下に、日本離床研究会による離床の安全基準を示します。
客観的な判断がしやすいように数値で表すフィジカルパラメーターを中心に構成されています。この基準を参考に患者様の状態が安定しているか見きわめ、個々の施設において離床の可否を判断します。
血圧の管理
リスク管理には、血圧調整機能を理解し、影響を与える要因について理解しておくことが重要です。
離床中は、どのような状況下で中止するか、モニタリングや自覚症状で判断しなければなりません。特殊なモニター管理をされている患者様は少なく、血圧や心電図所見など、比較的容易に測定できるもので判断していかなければなりません。
血圧調整機能に影響を及ぼす要因
基礎疾患、全身状態に加えて、血圧調整機能に影響を与える要因について意識しておきましょう。以下に、各ケースの血圧調整機能に影響を与える要因をあげます。
長期臥床を強いられたケース
・血漿量の現象(プロスタグランジン、心房性ナトリウム利尿ペプチド)の
亢進による静脈還流量の減少
・心肺受容反射、動脈圧受容反射の減退
・下肢骨格筋の筋ポンプ作用低下
術後のケース
・有効循環血液量の低下(術後血圧が低下する病態)
・術中、術後の出血、および術前から補正されていない貧血や脱水
・肺内血液量の減少をきたす肺実質・胸腔内病変
(左室前負荷減少)、および運動耐用能低下
・いわゆるサードスペースロス
・侵襲に伴う自律神経系の異常
・炎症性サイトカインに付随する血管収縮反応の抑制
その他
・心疾患による心機能の低下
・安静時から不整脈、あるいは離床に伴う新たな不整脈
(心拍出量低下、術前より不整脈の素地を有している)
・薬剤の副作用(起立性低血圧の原因となる)
・「加齢」による自律神経機能低下、循環系臓器や脳の器質的な変化に伴う
血圧調整機能低下
・自律神経障害を有する疾患
(頸髄損傷、Shy-Drager症候群など)
・貧血
・糖尿病による自律神経障害
・人工透析者
血圧低下
1.起立性低血圧
起立性低血圧は離床に伴う血圧低下として配慮しなければなりません。長期臥床を強いられた患者様は、血圧調整機能自体の低下に加えて、基礎疾患による病態により、起立性低血圧が生じやすい状態にあります。
臨床上では第一に自覚症状(頭痛、頭重感、あくび、倦怠感、肩こり、めまいなど)に注意します。重度の症状を呈すれば中止しなければなりません。比較的軽度の症状であれば、下肢の筋ポンプ作用を利用して静脈還流の増加を促し、様子をみることも必要です。
起立性低血圧の症状が認められたとき、血圧、脈拍をチェックすると、その原因を大まかに予測できます。
・心拍数増加が+10拍/分未満であれば圧受容体反射の障害
・頻脈100拍/分以上であれば循環血漿量減少か交感神経緊張型起立性低血圧
・心拍数が保たれている場合は迷走神経遠心路は保たれている
2.術後の循環血液量と尿量
術後早期には、循環血液量の減少に伴い、離床時に血圧低下が生じることがあるため、急激な離床には注意が必要です。あらかじめIn Outバランスに注意しておきます。
この時期は、異化ホルモンやストレスの影響を受け、末梢血管抵抗が大きくなり、循環血液量が減少していても血圧が維持されていることがあります。あらかじめ「十分な尿量」か、チェックする必要があります。
血圧上昇
さまざまな状態に基づく炎症所見、疼痛、ストレス、化学・物理的環境変化等により神経・内分泌系、免疫系の変動が生じ、その一効果として末梢血管抵抗の増大を招き、異常血圧を呈することがあります。
1.末梢血管抵抗の増大
侵襲の大きな術後では、交感神経や副腎髄質からエピネフリン、ノルエピネフリンが分泌されます。これらは末梢血管抵抗を増大させる作用を有し、血圧の上昇に関与するとともに、吻合部・縫合部の血流低下を引き起こす原因にもなります。離床前には十分な血圧コントロールが必要になります。
2.中止の目安
異常血圧が生じている際の急激な離床は、患者様に不安や緊張を与え、血圧上昇に繋がります。
中止の目安は、収縮期血圧30mmHg以上の上昇では注意する必要があります。
一般術後では、要注意血圧を収縮期血圧160mmHg以上、拡張期血圧95mmHg以上、平均血圧130mmHg以上とされており、中止を判断する目安になります。
まとめ
今回は、離床のリスク管理を開始・中止基準と血圧の観点からまとめました。離床を安全に進めるためには自覚症状に加えて、血圧、脈拍、モニターなどで客観的に判断をする必要があります。より深く理解していくためには生理学的観点や疾病・病態の学習も必要になります。
今回の記事で参考にした書籍はこちらです!
実践!早期離床完全マニュアル: 新しい呼吸ケアの考え方 (Early Ambulation Mook 1)
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