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ワッサーマンの歯車を理解しよう!


ワッサーマンの歯車

ワッサーマンの歯車とは、1960年代にアメリカの生理学者Wassermanが提唱した体内における代謝メカニズムの模式図です。

人間は、ミトコンドリアに蓄えられたATP(アデノシン3リン酸)を使って活動します。ATPの産生には酸素が必要になります。

大気から取り込まれた酸素は呼吸の歯車により肺に取り込まれます。酸素はガス交換により血中へ移動し、今度は循環の歯車によって全身に運ばれ組織へ供給されます。

細胞レベルにおける内呼吸、肺における外呼吸、それを結ぶ循環器系の関係を示しているのが「ワッサーマンの歯車」です。

離床はすべての歯車を回す

長期離床のさまざまな悪影響を受けて、最終的には廃用症候群に陥ります。
廃用症候群を防ぐためには臥床期間を短くする早期離床が重要です。

離床は呼吸、心臓、筋肉の全ての歯車を同時に回すことができます。

呼吸リハビリでは、呼吸の歯車だけ。
心臓リハビリでは、心臓の歯車だけ。
筋力増強訓練では、筋肉の歯車だけ。

各臓器や組織に対して個別にアプローチする、さまざまな療法や手技があります。しかし、個別にアプローチをしても歯車を回すことはほとんどできません。

しかし、離床をすると、呼吸の換気効率を改善し、体を動かすことで循環の歯車も回り始めます。立位・歩行は進めば、全身の筋肉が働き出し、歯車はさらに回ります。

離床は全ての歯車を回す唯一の手段なのです。

運動中には、増加した代謝率に見合うだけの筋における酸素消費が増大します。これは、酸素量の増加、末梢血管床の拡張、心拍出量(1回拍出量×心拍数)の増加、肺血管の動員と拡張による肺血流量の増加、換気量の増加によって達成されます。


高齢者は廃用症候群に陥りやすい

高齢者は、原疾患に加えて複数の疾患が併存していることがほとんどです。

肺炎や慢性閉塞性肺疾患などで酸素の取り込みが低下している。
虚血性心疾患や不整脈などで心機能が低下している。
慢性腎臓病や食欲不振、不動による筋肉量が減少している。

1つの歯車だけではなく複数の歯車が回りにくい状態になっている場合が多いです。

高齢者は臥床期間も長くなりがちです。長期臥床は歯車を停滞させて、無気肺・肺炎などの呼吸器疾患を生じさせます。

原疾患→長期臥床→無気肺・肺炎→臥床期間の延長と悪循環に陥りやすいです。

離床禁忌の状態

・神経症状の増悪がある
・活動性の高い出血がある
・不安定な未治療の骨折がある
・コントロールできない致死的な不整脈が出ている
・患者本人または家族の同意が得られない

離床を慎重に検討すべき状態

・強い倦怠感を伴う38.0℃以上の発熱
・安静時の心拍数が50回/分以下、または120回/分以上
・安静時の収縮期血圧80mmHg以下(心原性ショックの状態)
 または平均血圧65mmHg以下
・安静時の収縮期血圧200mmHg以上
 または拡張期血圧120mmHg以上
・安静時より異常呼吸がみられる(異常呼吸パターンを伴う10回/分以下の除呼吸、CO2ナルコーシスを伴う40回/分以上の頻呼吸)
・P/F比(PaO2/FiO2)が200以下の重症呼吸不全
・安静時の疼痛がVAS7以上

離床の中止基準

・脈拍が140回/分を超えたとき(瞬間的に超えた場合は除く)
・収縮期血圧に30±10mmHg以上の変動が見られたとき
・危険な不整脈が見られたとき
(Lown分類4b以上の心室性期外収縮、ショートラン、R on T、モービッツⅡ型ブロック、完全房室ブロック)
・SpO2が90%以下となったとき(瞬間的に低下した場合は除く)
・息切れ、倦怠感が修正ボルグスケールで7以上になったとき
・体動で疼痛がVAS7以上に増強したとき

まとめ

・早期離床にはワッサーマンの歯車の理解が必要
・酸素を細胞に運ぶには、肺、心臓・血液、筋の歯車を回す。
・早期離床は3つの歯車を同時に回すことができる。
・離床の中止基準・中断基準を理解しておく
・離床をしないことは患者の不利益になる。


今回の記事で参考にした書籍はこちらです!
実践!早期離床完全マニュアル: 新しい呼吸ケアの考え方 (Early Ambulation Mook 1)


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