【ミニ社長塾 第46講】「働きがい」や「やりがい」で飯は食えるのか? という話。
おつかれさまです。中小企業診断士の長谷川です。
私がプログラムディレクターをしている「アタックス社長塾」では、第20期が佳境です。来月半ばの研修が最終講で、一年間の成果発表ということで各社・各人の経営計画(私たちは「価値創造計画」と呼んでいます)をプレゼンしていただくのが恒例となっています。
社長塾を通じての大きなテーマが「強くて愛される会社」で、財務的に「強い」、競争力や社員力があって「強い」だけではなく、社員からも関係者(ステークホルダー)からも地域の方からも「愛される」会社が中堅中小企業のあるべき姿だと考えています。
ですので、先にあげた経営計画も「強くて愛される会社」になることをベースに熟考いただいています。
そこで今回のミニ社長塾は、その「強くて愛される会社」になるために必要な視点について書いていきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。
1.「仕事にやりがいは必要ない」という永遠のテーマ
「2ちゃんねる」創設者のひろゆきさんのXでのポストが話題になっています。
以前から自著などでも同じようなことを述べておられますが、今回はネット番組でアフリカを訪れた際、そこで過ごす現地の方との交流から先の発言へとつながります。
さて、皆さんはどのように思われますでしょうか?
社長塾では、仕事のやりがいや働きがいについてお話しする際、「聖堂をつくるレンガ積み職人」や「サンタクロース」の例を用いています。近年ですと「パーパス」というバズワードがあり、会社のパーパスと個人の生きる目的を近づけることにより、仕事へのやりがいや働きがいを見出している企業の事例も多く目にされていることと思います。
そのため、仕事へのやりがいの必要性に対しては様々な意見(それこそ「永遠のテーマ」)があるのですが、私は「マズローの五段階欲求説」を踏まえたうえで議論するべきだと思います。
マズローの五段階欲求説とは、人間の欲求を5段階で示したもので、「生理的欲求」、「安全の欲求」、「社会的欲求」、「承認欲求」、「自己実現欲求」に分けられます。詳しくは下記のサイトをご覧ください。
マズローの五段階欲求説のポイントの一つは、下層の欲求が満たされないと上層の欲求が満たされても十分ではない、というところです。
いわゆる「働きがい」や「やりがい」というものは「社会的欲求(友人や家庭、会社から受け入れられたい)」「承認欲求(他者から尊敬されたい、認められたい)」「自己実現欲求(自分の世界観や人生観に基づいて『あるべき自分』になりたいと願う欲求)」に入るものです。
一方、お金というものは「生理的欲求(生きていくために必要な基本的・本能的な欲求)」や「安全の欲求(心身ともに健康でかつ経済的にも安定した暮らしをしたい欲求)」と密接にかかわっています。
したがいまして、仕事にはやりがいが必要だ、という話をする前提として「ちゃんと生きていけるか」という生活の安全面が保障されていなければダメ、なのです。また、「やりがいで飯は食えない」というのは私個人としてもその通り、だと思います。
2.給料もやりがいも、どちらも報酬の話
2023年に発表された内閣府の世論調査によると、働く目的の一番は「お金を得るために働く(63.3%)」で、次いで「社会の一員として、勤めを果たすために働く(11.0%)」「自分の才能や能力を発揮するために働く(6.7%)」となっています。
ポイントは年齢が若いほど「お金を得るために働く」は高く、年齢層が下がってくると下がっている点です。その一方で、所得・収入に対する満足度をみると、年齢が高くなるほど「やや不満だ」「不満だ」の傾向が高く、いわゆる年功序列の影響とは必ずしも言えないところがあります。
先の「働く目的」についての調査でもう一つポイントとなるのは、「生きがいをみつけるために働く」が一貫して増えているという点です。まさに「働きがい」や「仕事のやりがい」の部分で、会社としては積極的に伝えていきたいところです。
そこで、「トータルリワード」という考え方があります。トータルリワードとは、従業員に対する報酬に「金銭的報酬」だけでなく「非金銭的報酬」も含める考え方、あるいは報酬体系のことです。下に示す図です。
トータルリワードが注目されているのは、近年給料のような金銭的な報酬だけでなく、「やりがい」や「仕事の面白さ」「自己成長」といった目には見えない価値を報酬として望む傾向が、若手人材を中心に強くなっているからです。
トータルリワードの考え方では、給料もやりがいも会社から社員にお支払いする「報酬」です。何だったら、会社から社員に用意するものという点では労働環境も報酬になります。
そのため、仕事にはやりがいが必要か必要でないかという話ではなく、給料も仕事のやりがいもどちらも報酬なので、そもそも会社として支払うのが当たり前という見方もできます。ただ、先の「働く目的」についての調査でも見えるように「お金を得るために働く(63.3%)」に対して「生きがいをみつけるために働く(14.1%)」です。社員にとって優先度は「給料>仕事のやりがい」です。
3.順番は「強くて」→「愛される」
社員や取引先、関係者など自社を取り巻く環境を大切にしなければいけない、ということで会社を変革すべく取り組まれる方は社長塾でも少なくありません。
しかし、順番は「強くて」→「愛される」で、「自社のビジネスモデルが強いかどうか」をまず考えないといけないということにご留意いただきたいです。
例えば、物価高で社員の生活も厳しくなってきているから給料を上げよう、と思っても会社が儲かっていなければ上げようがありません。地域貢献ということで寄附をしようと思っても、寄付金のために借金をしては意味が分かりません。やはり「強くなければ守れない」ということです。
私どもが視察ツアーなどでご訪問している「強くて愛される会社」は、いずれの会社も「強くて」→「愛される」という順番で成長されています。
「強くて」というのはビジネスモデル(私たちは「池クジラ」と呼んでいます)が強固である、他社よりも事業の競争力が高いことです。そのうえで、価格決定権(価格支配力)を持てているということも大事です。経営者は、まずはこの部分をシッカリ創り上げることに力を注いでいただきたいです。
ただ、「強い」会社の基盤づくりばかりにとらわれすぎてしまうと「愛される」という視点が抜けてしまい、結果としてビッグモーターのような事例に陥ってしまいます。
経営者の方と話をさせていただくと、「守る」という強い意識や責任感を感じます。継いだ会社を守る、社員の生活を守る、ステークホルダーとの関係性を守る……。後継者であるビッグモーターの前副社長も「何としてでも守る」という強い責任感をお持ちだったんだろうな、と思います。
ただ、現代は競争ではなく共創の時代です。誰と共創するかと言えば、やはり社員の方々です。前社長と同じ方針、やり方は前社長だからこそ成立していたはずなので、後継者ならどうすべきか。前副社長は「強くて」→「愛される」の方針に舵を取っても良かったんではないだろうか、と色々と報道を耳にするたびに思います。
ちなみに、下記の記事は「2代目経営者」の成功例と失敗例が紹介されており、とても勉強になるので良ければ是非一読ください。
今回の記事は『「働きがい」や「やりがい」で飯は食えるのか? という話。』ということで書かせていただきました。次回の【ミニ社長塾】も、どうぞよろしくお願いいたします。