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【ミニ社長塾 第43講】伊那食品工業の視察ツアーに参加した話。

おつかれさまです。
中小企業診断士で、社長の後継者に【徹底伴走】するコンサルタントの長谷川です。

ここ数年の社長塾では、「強くて愛される会社」を座学で学ぶのではなく実際に見て学ぶ「企業視察会」を行っています。これまで19期では吉村さま、20期ではMICさまに訪問しており、21期では大和合金さまに訪問する予定です。

先日、「強くて愛される会社研究所」が主催する企業視察ツアーで、中堅中小企業の代表的な存在である伊那食品工業さまに訪問する機会がありました。社長塾でも何度も事例としてご紹介している伊那食品工業さまですが、私は初めての訪問です。

そこで、私が学んだことや気づいたことについて今回はミニ社長塾で共有させてください。それでは、始めていきます。


1.伊那食品工業に、なぜ経営者が集うのか

伊那食品工業株式会社は長野県伊那市にある「かんてんぱぱ」の愛称で知られる寒天のトップメーカーです。1958年の設立以来、半世紀にわたって増収増益を達成し、売上高は2022年実績で205億円。

「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の中小企業庁長官賞のほか数多くの賞を受賞されているほか、トヨタの豊田章男会長は同社の塚越寛 最高顧問の著書を「私の教科書」として師事されています。ほかにもパナソニックなど日本の名だたる大手企業のトップたちも同社を訪問されていると聞きます。

そんな伊那食品工業ですが、ポイントとなるキーワードを箇条書きで挙げていきます。

・経営理念「企業は社員の幸せを通して社会に貢献すること」
・社是「いい会社をつくりましょう。~たくましく そして やさしく~」
・「年輪経営」というあり方
・二宮尊徳の言葉
 「遠きをはかる者は富み 近くをはかる者は貧す
 それ遠きをはかる者は百年のために 杉苗を植う
 まして春まきて秋実る物においてをや
 故に富有り
 近くをはかる者は 春植えて秋実る物をも尚遠しとして植えず
 ただ眼前の利に迷うてまかずして取り
 植えずして刈り取る事のみ目につく
 故に貧窮す」
・会社経営の究極的な目的は「社員を幸せにすること」

なぜ、経営者が集うのか?

例えば、豊田章男社長(当時)が訪問された理由を塚越寛会長(当時)はこのようにコメントされています。

「お父さんの章一郎さん(豊田章一郎名誉会長)が社長を引かれてから章男さん(豊田章男社長)まで、何代かサラリーマン社長の時代が続きました」

 「みなさん必死で頑張られ素晴らしい業績を残されたと思います。しかし、自分の代に良い成績を上げようと必死になればなるほど経営は近視眼的になりやすい」

 「立派な業績には感謝・尊敬しつつ、章男さんには何か歯痒いものがあったのかもしれません。ご自身の考えている経営とは少し離れてしまうような・・・。そこで私のところにご連絡があったのだと思います」

JBpress 2017.10.10 「世界のトヨタが「師匠」と呼ぶ伊那食品工業」より抜粋

今回の視察会で講話いただきました井上会長から「日本では金剛組や虎屋などの会社が昔からある。海外の会社の仕組みは日本人には合わない。」ということを仰っておられました。

日本的経営と言われる年功序列の制度が約半数の企業で見直されている中、伊那食品工業は年功序列です。さらに成果主義どころか人事評価までも有って無きに等しいといいます。

これらから、経営者の方々が集うのは経営者が求めている「あるべき姿」が伊那食品工業にはある。「あるべき姿」にむけて手を打っているものの上手くいかない…と「現状」とのギャップが生まれているので、ギャップをどう埋めればよいのかを実際に見に行く、ということなのだろうと私は考えました。

2.私がみた、伊那食品工業という会社

まずは、こちらのInstagramからツアーの様子をご覧ください。

今回の視察ツアーでは、本社にある「かんてんぱぱガーデン」のほか、R&Dセンターや工場など多くの施設を見学させていただきました。社員同士で清掃されているというかんてんぱぱガーデンはスゴクきれいでした。また、社員駐車場に停まっている車は同じ向き、同じ位置に停まっていましたし、傘の柄も同じ向きを向いていました。

「かんてんぱぱガーデン」にある苔にはこだわりがある
社員駐車場に整列している車を見て、地元学生が学校の駐輪場の自転車をキレイに整列させた
傘は自由に使えるが、どれもキレイに整列していた

井上会長曰く「駐車場の車が揃っている理由を聞かれるが、ただ揃っているだけ。それ以上でもそれ以下でもない。」とのこと。車の位置を揃えるのが当たり前。傘の柄を揃えるのも当たり前です。

例えば、「どうして朝9時に会社に来るのですか?」と聞かれたならば、どのように答えますか? おそらく「そんなことを考えたこと、ありませんでした。」と答えられる方が多いと思います。当たり前すぎて、そのように答えるしかない。単純に、当たり前の基準が高いんです。

「いい会社をつくりましょう」という社是に基づいて社員たちで考え、決めて行動したのがすごいところ。言われなくてもできる、というところに凄みを感じます。

伊那食品工業を表す言葉の一つは「忘己利他」です。意味は「自分のことを忘れ、他の人々のために尽くせ」ということで、「忘己利他」こそが仏教が理想とする人間の生き方と言われています。

自分もそうですが、どうしても「自分が優先」な判断や意思決定をしてしまいます。しかし、伊那食品工業の(少なくとも今回の視察会で出会った)方々からは「自分が優先」という意識は感じられませんでした。むしろ「相手がどう思うか」「相手がどうしてほしいか」を考えて行動している印象を強く受けました。ここはすごいです。

例えば車の整列。「自分が優先」な気持ちがあれば多少ズレたりしていることも許しますが、隣の車と近ければ乗りづらいですし、下手したら車通しがぶつかってしまいます。それは相手にとっては悲しい気持ちにしかなりません。「相手がどう思うか」という視点に立つからこそ、ちゃんと車を停めよう、という気持ちになるんですね。

また、「いい会社になる」という共通した価値観を持っているということは「目的意識」が同じとも言えます。この「目的からお互いに議論をする」ということも簡単なようでできることではありません。「どうすればできるか?」といったやり方や手法に目が向いてしまうので、あり方から話し合える社員の皆さまのレベルの高さに驚きました。

3.伊那食品工業から得た気づきと学びの共有

今回の伊那食品工業の訪問から色々な気づきや学びを得ました。まず、社員の皆さまの様子から見えてきた「いい会社になる」という共通した価値観を持っていること。そして、価値観のベクトルを合わせるために、経営者は頻繁に社員に向けて経営理念について語り続けること。

スゴイ会社であるのは間違いないのですが、やり方は基本に忠実。ただ、当たり前のことをトコトンやり抜くというところに、ものすごい差が表れているのだろうと思います。

また、外部環境がどうであっても、自社はやるべきことをキチンとやって利益を出し続ける。寒天のトップメーカーだからこそ会社が永続しなければ話にならなりません。(ブームのような)過度な成長を追わずに、ムリなく永続的な成長を目指すというのが「年輪経営」です。これも、背景には「いい会社になる」という社是があります。

このような徹底した理念の浸透ですが、これは一朝一夕には実現できません。伊那食品工業では、月一回トップ(最高顧問はじめ会長、社長含む)を含む全社員が集まり、月例会を行っているそうです。この月例会のなかでトップから経営理念に基づく話をされているそうで、現在まで数十年もにわたり続けてこられています。

経営理念を経営者が語り続けることは当たり前と言ったら当たり前ですが、それを何年も何十年も続けることは簡単ではありません。やはり、やり抜いているところに凄みを感じました

今回の記事は『伊那食品工業の視察ツアーに参加した話。』でしたが、いかがでしょうか。何かしらのお役に立てておりましたら幸いです。

次回の【ミニ社長塾】も、どうぞよろしくお願いいたします。

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