2022, 9/21<反復のOrient-Occident part2>曲目解説
鈴木治行/Hiccup(1992)
ベルンハルト・ラング/モナドロジーXXVII「ブラームス変奏曲」(2013)
休憩 15分
鈴木治行/海流の島々(2022/ 委嘱新作初演)
ベルンハルト・ラング/DW 23d .... Loops for Dr. X, 日本版 ボリス・カーロフへのオマージュ(2022/ 世界初演)
NOTES 曲目解説
●鈴木治行/Hiccup(1992)
今回は、90年代頭から始めた「反復もの」の最初期と最新の鈴木治行作品を並べてお聴きいただく。最初期の『Hiccup』は典型的な「反復もの」といえる。一聴して随所に繰り返しがあることに気付かれるだろうが、ここでの関心の中心はそうした反復そのものではなく、反復の中で時折起こる耳のつんのめりにあり、そういう訳でタイトルは「Hiccup」(しゃっくり)となった。ギクシャクした時間体験の生成においては、特定の響きや音楽様式は限定されず、そうした体験を齎すことさえできればどんな音響、様式でもこの音楽は成立する。こうして、「反復もの」は一作ごとに様々な音楽様式を試す場となった。この『Hiccup』では、当時よく調べていたプーランクの影響で、新古典主義的な素材が用いられている(引用ではない)。一定の拍節感があるからこそ、それが外された時につんのめり効果が発揮される。(鈴木治行)
●ベルンハルト・ラング/モナドロジーXXVII「ブラームス変奏曲」(2013)
モナドロジー・シリーズのほとんどの作品と同様、XXVII番はブラームスのアーカイブからの素材を使っており、ここではトリオop.114が元になっている。モナドロジーXXVIIにおいては、グラニュラー分析によってオリジナルのスコアを分解している。基本的なアイデアは、いわゆるバーチャルリミックスで、ターンテーブリズムや現代のライブエレクトロニクス(ルーピング、スクラッチ)の技術を楽譜に転写することである。この手法自体は、Raffael Montanez OrtizやMartin Arnoldのような実験的ビデオアーティストのカッティング技術にインスパイアされたものだ。ここでのグラニュラー分析の手法は、シェーンベルクの分析で示されたブラームス自身の変奏を展開する手法と重なり、小さな音楽細胞が有機的な全体へと展開する。この作品は、トリオ・キャッチに触発され、そのために書かれたもので、CD録音もされている。
(ベルンハルト・ラング)
●鈴木治行/海流の島々(2022、委嘱新作初演)
「反復もの」においては、『Hiccup』のようにサクサク進むテンポ感が前提となることがしばしばある。テンポが遅すぎると、繰り返しは知覚されてもつんのめる感覚は失われてしまうからだ。ギクシャクと蛇行し予測を裏切りながら進行する音楽は、どうしてもせわしなくなる。長年それをやってきて、せわしなくない反復ものは成立しないものかという思いが頭をもたげてきた。そこで緩やかに流れる反復ものを試みたのが2018年の『Criss-Cross』だった。そしてこの曲の方向性で更に編成と時間を拡大したのがこの『海流の島々』ということになる。タイトルは作曲上のコンセプトに由来するが、風景の描写音楽では全くない。とは言いながら、もしかしてヒントになるかもしれない言葉をいくつかここに書き連ねておく。大きさの異なる島が5つ浮かぶ海を、上空から俯瞰する視点でスキャンしてゆくと思われよ。そしてどの島もすべて、海沿いは絶壁ではなく遠浅の浜辺である。遠浅の海は最弱音のtuttiで連続的に陸地に移行する。飛行機から眼下を見下ろしている時、陸地が徐々に海に変わってゆく経験(あるいは逆に海から陸へでも可)を思い浮かべるもよし。(鈴木治行)
●ベルンハルト・ラング/DW 23d .... Loops for Dr. X, 日本版・ボリス・カーロフへのオマージュ(2022、世界初演)
この作品は、私が1997年から取り組んでいる「Difference/Repetition」シリーズの一部で、「Loop-Aesthetics」というサンプル技術と実験的ビデオアートの一種の音楽的転写をベースにしている。この作品では、ボリス・カーロフ(注:フランケンシュタインで知られる俳優)の作品と声が転写され、上書きされている。これは、オーストリアのアーティスト、ノルベルト・ファッフェンビヒラーと作った映画「モノローグII」のスピンオフ作品で、カーロフが唯一の俳優として登場し、彼自身と共演し、彼自身に対して演じる、無数のカーロフの映画の1時間のモンタージュ作品である。私はゴミのようなホラー映画全般の大ファンなので、モンスター映画のプリンスへのオマージュというアイデアを歓迎した(「悪いものほど良いものだ」フランク・ザッパ)。ループは、これらの恐怖のヴィジョンを解体する手段として使用されており、解体の最初のステップは、音に代わってイメージを消失させることである。ループの使用は、対位法的な構造から、カーロフの声の正確な自動転写("Wav 2 Midi")まで多岐にわたる。「Dr.Xのためのループ」はマシュー・シュロモヴィッツがPlus/Minus-Ensembleのために創作し、委嘱したものだが、日本向けの新バージョン23dは、新しい楽器編成によって全面的に改訂された。
(ベルンハルト・ラング)
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