12/22<音のモザイク〜異世界時間旅行〜>プログラム・ノート
<音のモザイク ~異世界時間旅行~>
12月22日(水)KMアートホール
ご挨拶
本日は<音のモザイク~異世界時間旅行~>にご来場ありがとうございます。Company Bene制作の公演は、2020年1~2月の<曽我部清典リサイタル with 上田じん>以来、ほぼ2年ぶりとなります。Company Beneは2009年のトリオ・カンディンスキー来日公演以来だいたい年に1回は東京か地方で公演を企画してきましたが、コロナ禍が始まるに至ってしばしの沈黙を余儀なくされてしまいました。まだまだ現在も予断を許さない状況ではありますが、あまりに長い間活動を抑圧しているのも健全とはいえず、以前よりは状況はましになってきているという判断により、ここにこの公演を打つ次第です。以前は海外の音楽家を日本に紹介する活動が主でしたが、現状リスクが非常に大きいため、しばらくの間は国内の才能ある音楽仲間と企画を作ってゆきたいと思っています。それではお楽しみください。
Programme
甲斐説宗/ヴァイオリンとチェロのための音楽 I
鈴木治行/赤みがかった緑
小櫻秀樹/Reine Liebe
********** 休 憩 ************
鈴木治行/独楽の回転
南聡/遠近術の物語
小櫻秀樹/Unfocused Rage
甲斐説宗/ヴァイオリンとチェロのための音楽 I(1975)
うたが流れていって何となく変わっていって、行きついた先からまた変わっていく、しかし状況が全くかわってしまうことはない、というような曲です。今回の演奏会のために書きました。このような企画の演奏会にとりあげてもらって、大変なうれしいと思っております。(初演時のプログラムノート)
(初演データ)1975年6月27日、東京文化会館小ホール<弦楽作品の夕べ> 篠崎功子vn、名取晴甫vc
鈴木治行/赤みがかった緑(2001) *日本初演
『赤みがかった緑』は2001年に作曲され、アンサンブル・オケアノスによってイギリス国内数カ所で演奏されたが、日本国内では演奏機会がなく、いつかやりたいと思っていた。今回ようやく20年経って日本初演の機会が訪れたわけである。タイトルは当時読んでいたヴィトゲンシュタインの「色彩論」から取った。赤と緑は補色の関係なので、赤っぽい緑や緑っぽい赤という色は存在し得ない。このようなあり得ない色によるタイトルとして、同年にもう一つ『透明な白』という曲も書いた。『赤みがかった緑』は僕の路線の中では「反復もの」に属し、3つの楽器の線的な受け渡しがギクシャクと紡がれながら切断され変容してゆく音楽である。
小櫻秀樹/Reine Liebe
この曲はイスタンブル出身でドイツ在住のピアニストNeslihanSchmidtがシューマン夫妻の作品を演奏する"Die Perle in der Tiefe" (深海の真珠)と題されたコンサートにて2015年11月23日にベルリンで初演された。このコンサートでは曲間に、シューマン夫妻の往復書簡を俳優、声優として著名なFrank Arnold氏が朗読するというユニークな演出が試みられた。初演の2年前、2013年に委嘱の話を頂いた時に、Schmidt氏のコンサートに足を運ぶ客層のほぼ全てが、所謂現代音楽とは無縁で、熱烈なクラシック音楽ファンだということを聞かされていたので、私はとても緊張し、戸惑いを感じたが、同時にそうした場で自作を発表できることを誇らしく思ったことを鮮明に覚えている。 私にとって当時の2年間は、最愛の母が突然亡くなり、私の生涯の中でこれまでに体験したことのない悲嘆・痛恨・困難に直面した時期であった。そのために何度も作曲を中断せざるを得なかったし、一時はこの作品のみならず、作曲するという行為そのものへのモチベーションを失いかけていた。しかしこの作品に取り組む上で調べたシューマンの人生の苦の連続を、自分なりに想像し、自分の中で消化したことは、私自身の人生の危機をも乗り越える契機の一つになってくれたように思う。今振り返ってみても、この作品に取り組めたことは当時の私にとってとても必要な、大切なことだったと思っている。曲は、しかしこうした私の心の葛藤や想いとは別に、極めてシステマティックに一つの動機と構成音がほぼ全曲を支配している。この作品を通して聞こえてくる「ロマンティックな旋律、響き」は、ほんの一部をシューマンからの引用に負い、大半は私自身のロマン派のスタイルを踏襲したオリジナルであることを付け加えておきたい。最後に、私の最も愛する言語、ドイツ語でのタイトル“Reine Liebe”は、日本語では「永遠の愛」と訳される。
鈴木治行/独楽の回転(2021) *初演
今回のコンサートのために書いた新作『独楽の回転』も「反復もの」ではあるのだが、『赤みがかった緑』と聴き比べるとかなり異なった音楽に感じられることと思う。初めは4人が全くバラバラなことをとりとめなくやっているように聞こえるであろうこの作品の聴き方ガイドを書いてみる。そのままじっと耳をすまし続けていると、似たような音型、パターンがあちこちに顔を出していることに気づいてくるはずだ。やがて誰かと誰かの奏するパターンが酷似し、漸近してきて、ついにはシンクロする(それが誰と誰なのかは演奏の度に異なる)。これはいわば音楽による追いかけっこなのであり、演奏する方も聞く方も、追いかける側と追いかけられる側のスリルの中に身を置くことがそのまま音楽体験となる。
南聡/遠近術の物語 op.33 (1995)
およそ25年前に、札幌交響楽団のクラリネット奏者だった渡部大三郎さんとその友人たちのアメリカ・ツアーで演奏する曲目として作曲。その後20年前あたりまではしばしば演奏される機会もあったが、近年はすっかり埋もれてしまった。今回は久しぶりの再演だと思う。B音を中心にしたピッチ構成と7小節をサイクル・パターンにした密度の変化に、「遠近法」のイメージを求めた。それは整った構成というより歪められた「遠近法」で、その歪みを測る「物差し」として、ベートーヴェンのop.31-1のソナタをところどころ侍らせるように曲中引用している。日本語のタイトルが「遠近法」でなく「遠近術」にしたのは「錬金術」になんとなく似せたかったことによるが、この用語が「マニエリズモ」をそこはかとなく匂わせるからに他ならない。しかしこの音楽は「技巧的」であったとしてもずっと健康的な精神の産物だと思っている。全音より出版。
小櫻秀樹/Unfocused Rage
21世紀音楽の会定期公演で初演。2015年にベルリンで初演されたピアノソロ作品、Reine Liebe と同じテーマを用いて作曲した。Reine Liebe が愛と哀しみを表現する一方、Unfocused Rageは怒りと哀しみの感情を音楽にした。音楽は人生の重荷を振り払い、その人が前進するのに必要な生きるエネルギーを与え苦悩を突き抜けて、歓喜を勝ち得る力を持っているはずである。
“I haven't a single friend; I must live alone. But well I know that God is nearer to me than to the others of my art; I associate with Him without fear, I have always recognized and understood Him, and I have no fear for my music, -it can meet no evil fate. Those who understand it must become free from all the miseries that the others drag with them.”
----- Ludwig van Beethoven -----
Beethoven、Schumann 共に苦難に満ちた人生だったかもしれない。彼らはその困難に打倒されることなく、音楽とともに前向きに生きたはずだ。
この作品はReine Liebe と同じ、真の愛を問いかける作品である。
◆作曲家プロフィール
●甲斐説宗
1938年兵庫生まれ。1965年東京芸大大学院を卒業。長谷川良夫に師事。1966年から1969までベルリン音楽大学でボリス・ブラッハーに師事。1969 年ヴィオッティ国際音楽コンクール、1970年ベルリン国際作曲コンクールに入賞。1978年逝去。
●鈴木治行
東京都出身。1995年『二重の鍵』が第16回入野賞受賞。2005年ガウデアムス音楽週間、2006年イタリアのサンタマリア・ヌオヴァ音楽祭、2009年ニューヨーク「Experimental Intermedia」に招待など、作品は国内外で演奏、放送されている。他ジャンルとのコラボレーションにも積極的で、2014年11月にはケルンでサイレント映画『カメラを持った男』ライヴ、2015年には東京都庭園美術館にて参加型音響作品「饗宴のあと」を発表。
●小櫻秀樹
東京藝術大学卒業、同大学院修了。文化庁在外研修員としてニューヨークに滞在。その後、渡瑞しストックホルム王立音楽大学大学院ディプロマ取得。野村学芸財団奨学金、日本交響財団振興賞、名古屋文化振興賞、第1回武満作曲賞2位(1位なし)、文化庁舞台芸術奨励賞、 ベルリン文化科学賞などを受賞。名古屋音楽大学教授、愛知県立芸術大学講師
●南聡
1955年東京生まれ。東京芸術大学にて野田暉行、故黛敏郎両氏に作曲を師事。1986年より北海道に移住。2021年3月まで北海道教育大学にて後進の指導をおこなう。主要作品に《譬えれば…の注解》(1986/88)、《歓ばしき知識の花園》(1986-92/2004)、《ジグザグバッハ》(2000)、《昼Ⅶ・ほとんど協奏ソナタ》(1992/93/97/2010)、《波はささやき》(2011-18)など
◆演奏家プロフィール
●竹内あすか Flute
現代音楽グループZEITPUNKT OSAKA主宰。相愛大学を特別奨学生として首席卒業後渡独。カールスルーエ音楽大学修士課程を最優秀の成績で修了。H.リリング指揮のバッハ国際アカデミーや ベルリンユースオーケストラ、フライブルクバッハオーケストラなどで演奏。現在は子育ての傍ら子供向けコンサートなどの企画運営にも注力している。
●大木雅人 Oboe
東京都新宿区出身。カールスルーエ音楽大学に入学。2014年にオーボエ専攻を卒業後に、2016年同大学院室内楽専攻も卒業。2017年2月から、ニーダーバイエルン県立歌劇場にて2年半出演し、2019年夏に日本へ完全帰国。現在、オーケストラ・アンサンブル金沢に賛助出演。また、東京都内や新潟市内を中心に演奏活動している。
●岩瀬龍太 Clarinet
桐朋学園大学、同大学オーケストラアカデミーに学ぶ。修了後ベルギーのアントワープ王立音楽院とモンス王立音楽院に学ぶ。これまでに、ピエトロ・アルジェント国際室内楽コンクール第1位他、数々のコンクールでに入賞、ウィーンモデルン現代音楽祭をはじめ数々の音楽祭に招聘。 これまでに100曲以上の新曲の初演をはじめ数々の録音に参加。
●迫田圭 Violin, Viola
東京音楽大学大学院に給費奨学金を得て入学、修了。東京音楽大学コンクール入選、第28回市川 市新人演奏家コンクール弦楽器部門最優秀賞。 現在、おーけすとら・ぴとれ座にてコンサートマスターを務めている他、オーケストラトリプティーク、Malus Quintet、Green Room Playersにヴァイオリン、ヴィオラ奏者として在籍して いる。
●北嶋愛季 Violoncello
桐朋学園大学、ドイツ国立トロッシンゲン音楽大学卒業。2013/14年度インターナショナル・ アンサンブル・モデルン・アカデミー生。メンデルスゾーン・ドイツ国立音楽大学コンクール現代音楽アンサンブル部門3位受賞。フランクフルト音楽・舞台芸術大学古楽器科修士号取得。国内外の現代音楽祭に出演するなど精力的に活動。 https://www.akikitajima.com/
●川村恵里佳 Piano
東京音楽大学大学院修士課程修了。修了後、同大学非常勤研究員を務める。第11回現代音楽演奏コンクール "競楽XI"審査委員特別奨励賞。これまでにウィーンモデルン音楽祭(オーストリア・ウィーン)、ハニャン現代音楽祭(韓国・ソウル)に招聘されるなど、現代音楽の分野において数々のプロジェクトに参加する。
●北爪裕道 Conductor
幼少時よりピアノ、次いで指揮法、コントラバス、作曲理論を学び、東京藝術大学作曲科に入学。並行して桐朋学園大などで指揮を学ぶ。その後渡仏。パリ国立音楽院第一、第二課程、IRCAM課程をすべて首席で入学および修了。在学中より様々な作編曲活動のほか、指揮者としても多くの演奏会に出演、国内外の新作初演も多数手がけた。現在、東京藝術大学、桐朋学園大、国立音大講師。
主催:Still
制作:Company Bene
文化庁 ARTS for the future! 補助対象事業
* Company Bene 次回公演『それぞれのエレクトロニクス』
2022年1月21日 KMアートホール
参加作曲家:小櫻秀樹、鈴木治行、Tony Uhm、渋谷由香、池田拓美
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