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小説┊︎月明かりに照らされて

 あることをきっかけに私は物語を書くようになった。小学生の頃から空想が大好きで、私の頭の中はたくさんの物語でいっぱいだった。物語に囲まれた私の人生は幸せに満ちていた。
 成長しても空想はやめられなかった。授業を受けても私の意識は自分が作り出した物語の中にいることが多かった。ある時私は小説家になりたいと思った。しかし、もちろん現実は厳しい。私の持つ文章力はとても乏しいものだ。数々の素晴らしい作品を読んで「自分には無理だ」と何度も絶望した。親にも無理だと否定され、自分で自分に絶望し、いつの間にか私はペンを置いていた。

 短大に進学して一年が過ぎたある日、就職活動という大きな壁が私の前に立ちはだかった。私はどんな仕事をしたいのだろう。そこで頭に浮かんだのは幼い頃抱いた夢。そう簡単には叶えることの出来ない夢。私は一般企業に応募して、内定を貰った。これで将来は安泰だ。しかし心はモヤモヤしたままだった。
「止めるのは、いつだって出来る。だから、続けようと思う」
 とある作品の主人公がそう言った。私の靄がかかっていた心が晴れた。

——私は物語が書きたい。

 諦めようとして諦めきれなかった道は変わらずずっとそこにあった。目の前に続く道を月明かりが照らす。振り返るとその道は私が今まで書いた物語でできていた。進む先は暗くて見えない。物語を書く度に道がどんどんと延びていく。道の先に何があるのか、そんなものは分からない。それでも私は歩き続けようと思う。自分の道を書き続けようと思う。

 月明かりに照らされて、私は今日も私だけの道を歩く。

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春宵 雨
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