ネイマールの脳画像から運動制御を考察する。

2014年に放映されたNHKのミラクルボディのネイマール特集。

この特集ではネイマールのプレーを脳科学を駆使して、秘密に迫っている。機能的磁気共鳴画像装置 (functional magnetic resonance imaging: fMRI)のデータからネイマールのパフォーマンスがどのように脳で想起されているか紐解いていきたい。

一般に fMRI で計測される脳活動は、血中酸素濃度依存的シグナル (blood oxygenation leveldependent; BOLD) と呼ばれる生体信号である。これは
脳細胞集団を発火させるために必要なシナプス入力の量をよく反映することがわかっている。

第１回 ネイマール｜ミラクルボディー｜ＮＨＫスペシャル

ブラジル代表のスーパースター・ネイマール。敵に合わせて変幻自在に繰り出すドリブルやシュート、その “究極のプレー”はどのように生み出されているのか。今回、ネイマールへのモーションキャプチャーが世界で初めて許可された。敵を次々抜き去り、脅威を与える代表格のドリブル。「どう相手を抜くかは予め決めていない、全ては敵次第」敵の動きを正確に察知する独自の“敵重視型”のドリブルはどのように行われているのか、徹底分析する。 ２０１３年ブラジル開催のコンフェデレーションズ杯で世界に印象付けたシュート。国際試合の成績は４７試合３０得点（３月５日現在）と１試合平均だとメッシをも上回る。驚異的な決定力はどのように生み出されるのか、足先感覚を解析する脳科学も駆使して、その秘密に迫る。 対戦相手はコンフェデ杯での大活躍を受けて、徹底した“ネイマール潰し”に出る中で、その “敵対行動力”で進化を遂げていこうとするネイマール。最高峰の舞台に挑む姿を見つめる。

ネイマールの足首運動制御

研究内容：fMRIで1 Hzの音に合わせた右足首の廻旋運動を行っている最中の脳活動を計測した。

対象：ネイマール、スペイン2部プロサッカー選手3名、水泳スペインオリンピック候補選手2名、一般サッカー選手1名

超一流サッカー選手の脳活動の特殊性

この fMRI 実験で得られた参加者一人一人の足運動中の脳活動を解析すると、すべての参加者で、運動野足領域の活動がみられた (図 1A)。ところが、ネイマール選手の脳活動はほかの参加者に比べると顕著に小さく、活動部位の容積はほかの参加者の平均値の約 10%にとどまった (図 1A)。一般に、運動野の活動量 (BOLD 信号) は運動の量と相関する。たとえば、運動の頻度をあげたり、大きな筋力を発揮するほど、運動野はよく活動することが報告さ
れている。ところが、脳活動計測中のネイマール選手の足運動量を解析すると、ほかの参加者と大きく変わらないことがわかった。つまり、ネイマール選手は、ほかの参加者に比べて顕著に少ない運動野活動で、ほぼ同量の足運動を制御できていることが明らかとなった (図1B)。

この実験では右足首を廻旋するという運動課題を行っている。本来であれば、脳は右足首の廻旋に関与する筋肉群のみを制御すればよい。ところが脳の運動制御はそうはなっていない。一般に手や足など遠位の身体部位を動かそうとすると、これよりもより近位にある筋肉も動員して制御することが知られている。

ネイマール選手の脳は、余計な筋肉をなるべく動員せずに、目的とする運動に必要な筋肉群だけを選択的に動員できていた可能性がある。

ネイマールの随意運動のメカニズム

ネイマールは他のプロサッカー選手と比べて足首の脳内発火が制御されているのは当然ではないのか

今回取り上げた研究で示されているのは足首の旋回動作によりfMRIで解析された脳画像である。この部位は大脳の中心溝の前後に存在する一次運動野と一次感覚野である。ここには体部位局在性が存在し、一定の解剖学的配列に従って、順序立って身体部位再現されていると考えられてきた。

ネイマールの画像は右足の動かしている部位のみ発火しており、他の対象者は運動野から感覚野まで広範に活動しているのは誰が見ても明らかであろう。

足首の運動をするには感覚を確認しながら近接関節（足趾や膝、股関節）などを同時多発的に制御するための脳内発火が行われるはずであるが、ネイマールは足首のみの非常に限定された脳の領域での発火となっている。これは非常に驚きがある脳画像であり、当たり前ではない。

これはなぜ可能なのだろうか。ネイマールの運動制御は非常にロスが少なく、実際のプレーでは足首と他の部位を意図的に操ることが出来ることが示唆され、サッカー選手として類稀な能力の持ち主である。人の随意運動の制御はどのようにして行われ、そして向上させるにはどうしたらいいか考えていきたい。