ヒエロニムス・ボス
前回の投稿で、なんの説明もなしに、「ボス」と「ブリューゲル」の名前を出してしまったので今回はボスについて書きたいと思います。
ヒエロニムス・ボス。
北方ルネサンス期に活躍したネーデルランドの画家です。
本当の名前は、Jheronimus van Aken。カタカナで表記すると、イェロニムス・ファン・アーケンですが、Hieronymus Bosch(ヒエロニムス・ボス)の名で知られています。
ボスというのは出身地(オランダ語で、s-Hertogenbosch (ス・ヘルトーヘンボス)、通称、Den Bosch(デン・ボス))に由来したものです。
レオナルド・ダ・ヴィンチと同じね。
ところで、よく知られている画家の名前って、意外と本名じゃないって知ってました?
マザッチョはニックネーム。
本名、トンマーゾ・ディ・セル・ジョヴァンニ・ディ・シモーネ・カッサーイ。
…長い!笑
トンマーゾを短くして、マーゾ→マザッチョなんだそう。
ブロンズィーノもニックネーム。
本名はアーニョロ・ディ・コジモ・ディ・マリアーノ・トーリ。
…これまた長い。
ブロンズィーノという愛称は、恐らく彼の髪の色であった「青銅」色を意味するイタリア語“ブロンゾ”に由来しているんだそう。
ダ・ヴィンチと同じ、出身地シリーズではカラヴァッジオ。
カラヴァッジョ村出身です。
本名はミケランジェロ・メリージ。
エル・グレコは「ギリシャ人」という意味。
本名はドミニコス・テオトコプロス。
スペイン来訪前にイタリアにいたので、イタリア語でギリシャ人を意味するグレコに、スペイン語の男性定冠詞エルがついたニックネーム。
私たちが「エル・グレコの絵、いいよねー」と言っているのは、つまり、「ギリシャ人の絵、いいよねー」と言ってるわけね…
…すみません。脱線しました。ボスの話に戻ります。
ボスの絵が多く所蔵されているプラド美術館のサイトでは、ボスの経歴は、はっきりしないとされていますが、おそらく1450年頃にオランダのス・ヘルトーヘンボスで生まれ、1516年頃に同地で亡くなったのだろうと書かれてます。
…と、こうして書きながら、日本語のwikipedia、英語のwikipedia、プラド美術館の英語の説明を見比べているのですが結婚した年に関してはバラけています。私が読んだ限り、プラド美術館の記述が一番詳細で、妻となるAleidが祖父から譲り受けた部屋を貸した記録があるのが1477年で、もしそのときに結婚してたら、そういった事務手続きは夫が行うはずなので(実際、このとき以降、ボスが行っている)当時はまだ独身だったはず。なので、1477年から1481年の間に結婚したのだろう。とのこと。
…なるほど。
私はただの美術好きなので、ボスが結婚した年にそこまで興味はないのですが、こういう、一見、何の関連もなさそうな文書まで調べ上げて、憶測を確証に変えることで史実になるのがすごいなーと思いまして…。根気のいる作業ですよね。
そんなボスの絵で一番よく知られているのはこれでしょう。
「快楽の園」と現在は呼ばれていますが、「多様な世界」とか「いちごの絵」などと呼ばれていた時代もあり、本当のタイトルは誰も知らないのだそう。
三連祭壇画で、閉じられた状態から物語は始まります。
天地創造の3日目の図。
「主の仰せでそうなり、命じられたとおりに立つ」という詩篇が書かれています。
(和訳は下記映画の字幕から転記してます)
そして、開くとあの不思議な世界が広がるわけです。
アダムとイヴのいるエデンの園が左パネル。
中央パネルは、快楽に溺れる人々の世界。
右パネルは地獄です。
中央パネルの背景を見ると、左パネルと繋がっています。
なので、快楽の園がエデンの園の続きとして示されているのが見て取れます。
最初、ボスは左パネルに「イヴの創造」(神がアダムの肋骨からイヴを創造した場面)を描いたそうです。でも、最終的に現在の、「神がアダムにイヴを贈る」場面に描き替えたそう。
つまり、わかりやすく結婚の場面にしたわけですね。
で、中央パネルに「生めよ、増やせよ」的な酒池肉林。
そこにいる男女は楽園に住んでいると信じているけど、それは偽りの楽園で待っているのは地獄だと。
中央パネルの快楽の園の淫靡と奇妙が入り混じった世界を一部拡大。
なんなのこれ?笑
ずっと見てられるおもしろさ。
アダムとイヴの原罪、中央パネルの罪深い快楽、罪を犯した者が落ちる地獄。
という具合に、この3つのパネルを繋ぐのは罪。
右パネルの地獄もとても印象的。
なんか楽しそうな地獄です。
この絵は1500年頃、つまり、今からだいたい500年前に描かれたもの。
ボスさん、すごい想像力です。
勝手な想像ですが、これ、描いててとても楽しかったんじゃないかなーと思います。笑
ナッサウ家がこの絵を所有していたことは判明していますが、そもそも、誰が何をどう依頼してこんな絵が出来上がったのか?
教会に飾ることが目的だったのか?
それとも個人的に楽しむためのものだったのか?
いずれにしろ、この絵を最初に見たときは驚いたでしょうね…
最後に、ブラジルの作家、ネリダ・ピニョンさんが映画「謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス」で残した言葉で締めましょう。
「この絵を語るには新しい言葉が必要ね」
…まさに!
参考資料:
Wikipedia
プラド美術館
映画 謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス
「山田五郎 オトナの教養講座」 世界一やばい西洋絵画の見方入門