冷蔵庫に海をしまう―【DE-S!GN】市川雛菜
このまま芸能界でやっていくか、進学か。
将来について考えて、案外簡単に結論が出て。
でもその答えはアイドル「ひなな」を好きな人には冷たいかもしれなくて。
プロデューサーに伝えないと、でもなんとなく言えずにいるときに、冬の海を見て何を感じたんだろう。
今なら伝えられるって思ったのは
頭を覆ってた帽子が飛んで、
冷たい風が直接当たって、
何だか重かった心が軽くなって。
いつも通り楽しく奔放に、でも丁寧に選んだ言葉。
少し遠回りなのは、怖かったのかな。
心から信頼してる人だから、なおさら。
砂浜に書いたいつもより豪華で特別なサインは、背伸びの分。
今の「ひなな」じゃ、価値が足りないから。
海を分けてもらえるくらい、もっと素敵なひななになるよ。
だから、答えは決まってる。
思いがちゃんと伝わって、プロデューサーにわかってもらえて、嬉しかっただろうな。
「雛菜は雛菜にしかなれないよ」ってずっと言ってきた雛菜が、「プロデューサーは雛菜なのかも」って、自分の人生観にそぐわないことを言ってしまうほどに。
だから、「プロデューサーだからな」って言われてドキッとしたんだと思う。
プロデューサーにとってその言葉は「担当アイドルの一番の理解者でいる」という心からの誠意。
雛菜もそう言ってくれるプロデューサーだから好きなんだ。
でも、裏を返せば、プロデューサーが自分のことをわかってくれるのは、自分が担当アイドルだから。
何でもわかっちゃうのは、わかろうと頑張ってくれてるからで、本当に何でも通じ合ってるわけじゃない。プロデューサーは雛菜じゃない。
雛菜がいつかアイドルではない道を選んだら、この人はもう自分のプロデューサーではなくなる。
雛菜なら当然そんなのわかってただろうけど、このとき本当に思い知ったんだ。
あの瞬間は、いわば失恋だった。
だから、約束をする。
いつか、私の海に連れていってあげるね。
私がアイドルじゃなくなって、プロデューサーがプロデューサーじゃなくなっても。
私が見た景色を教えてあげるね。
ケーキも、海も、仕方ないからプロデューサーも。
名前を書いてしまっておこう。
私のじゃなくても、今私が、私のだよって言ってることを知っててほしいから。
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