1年間ワテラスに住んでみて 〜エリアマネジメントと地域への関わり方〜
昨年の3月末からワテラスの学生マンションに住んでいます。建築や都市計画の業界の人であれば知っている人はかなり多いのではないでしょうか。簡単に説明すると、安い家賃で都心のマンションに住めるかわりにエリアマネジメント活動(地域活動)に参加してくださいという条件付きのマンションです。自分にとってはエリマネは研究分野の一部でもあり、暮らしながら学べる環境があるというのは非常にありがたいです。1年間ワテラスに住んでみて感じたことをまちづくりの視点も踏まえて書こうと思います。よかったら読んでください。
●東京の下町神田に住む!
ワテラスは神田淡路町というところにあります。東京の下町である神田を中心に周辺には電気街やアニメ・ゲームの聖地となっている秋葉原、学生街・オフィス街の御茶ノ水、古書店やスポーツ洋品街の神保町があります。淡路町周辺は再開発が多く目立ちますが、ワテラスから道路を一本挟んだ反対側は神田須田町という地域。藪蕎麦はかなり有名だと思いますが、老舗が多く残る地域です。この地域は戦火を逃れたこともあり、歴史的建造物として木造の町屋が残っていたり、昭和初期頃の看板建築が残っていたりと時代を感じることができるの地域でもあります。かつて東京の交通の中心であった旧万世橋駅もここにあります。そんなこともあって利便性が最強です。なんと5路線が徒歩2分で利用できてしまいます。大学にもほぼ傘をささずに行けてしまうので非常に便利です。
●入居までが大変!
地元の長野を出て、これまで八王子や世田谷に住んでいたわけですが、3箇所目は神田になりました。研究室の教授にこんなところがあるから住んで見ればと言われて教えてもらったのがきっかけです。自分自身、B3の時のまちづくり論の授業で札幌や福岡のエリアマネジメントを知り、その時に興味を持ったこともあって引っ越すことを即決しました。ただ、簡単には入居できないのがワテラス。毎年11月頃に次年度の新規入居者の募集がかかるのですが倍率が5倍くらい?あるそうです。そして書類審査と面接によって選考されます。。正直に言うと大学院の進学より大変でした(大学院はそのまま進学しただけなので大したことはしてないですが…)。そんなこんなで入居が決まり現在も住んでいます。
●ワテラスと淡路エリアマネジメントの活動
ワテラスという施設は再開発をきっかけにできたタワーマンションです。廃校となった小学校とその周辺住民、多くの土地を持っていた安田不動産を中心に開発されました。ワテラス自体は2棟の建物ですが、ワテラスの南側の敷地も開発しており、2街区3棟の再開発になっています。高い建物を建てるための要件としてエリアマネジメントが提言された経緯があります。
エリマネ組織はデベロッパーである安田不動産と地元町会のトップの人が中心となって組織されており、我々は学生会員という位置付けで関わっています。エリマネの活動は多岐に渡ります。海外のエリマネに代表されるような地域の清掃・美化活動があれば、イベント・地域活動への参加や企画、防災訓練、イベントの準備といった活動もあります。学生が提案できる機会もそれなりにあります。中には派遣バイトのような作業も(笑)。まぁ、学生は割と自由に活動を選んで取り組めるようになっています。ただし、建物の契約は1年間の定期賃貸借契約です。一定の活動をしないと次年度の賃貸契約を更新してもらえない仕組みとなっています。
●エリアマネジメントは新たな自治の手法
エリアマネジメントは人によって見方・捉え方が違うので一言で言えるものではないと思っています。ただ、一つ自分の認識としては、エリマネとはこれまでの自治会や商店会に代わる新たな自治の仕方なのかなと感じています。
まちは日々刻々と変化していて、それに対して柔軟に対応していくことが求められます。ただこの柔軟性を発揮できるのは専門性を持った人でないと厳しいのかなと思います。既存の自治会や商店会ではそういった専門性を持った人がなかなかおらず、加入者も減少傾向にあるためその地域が使える財源も少なくなっていきます。だからこそ柔軟に対応できる専門性の高い人・民間や学生が関わることに意義が出てきます。エリマネの分野で日本のトップを走る方々が人材育成に力を入れているのはそのためだと感じています。
じゃ、専門性の高い人や様々な主体が関われる環境を作ればいいとなりますが、それがまた難しいのだと感じます。淡路エリアマネジメントには、地域住民・デベロッパー、学生、ワテラスで活動する人、オフィスワーカー等がいます。これらはみんな立場が違い、それぞれがエリアマネジメントに関わるメリットも違ってきます。例えば、デベロッパーであればエリマネを通して地域一帯の地価が向上することがメリットになります。学生であれば地域活動に参加することで安く住むことができる。地域で活動する人であれば人が集まる場があることが活動を支えることになり、地域住民であれば地域付き合いによって人の目が増えることで安全な地域環境となり子育てがしやすくなる等、人によって受けるメリットは違います。様々な主体が関わる中でそれぞれのメリットを生み出していくことが必要になってきます。
このように新たな外部主体をどのように取り入れていくかがひとつ重要になってきますが、同時に地域の主体性というのも重要だとワテラスに住んでいて感じています。昨年末に夜警(火の用心を唱えながら地域を見回りするやつ)にエリマネの活動として参加しました。夜警は町会の行事ですが、実際に参加してみるとほとんど学生と安田不動産の社員でやっており、地域の方々が少なかった印象です。安田不動産も地権者なので地域の方と言えなくもないのですが、どこかこの地域がエリマネ頼りになっている部分は否めないのかなと思います。都心だとワテラスのようにデベロッパーが地域に入って色々やってくれることはありますが、それがどこでもできるわけではありません。先程、エリマネは自治会や商店会に代わる新たなものと言いましたが、エリマネをきっかけに自治会や商店会といった既存の地域組織が主体的に関わる環境も必要だと感じています。
●学生としての地域への関わり方
自分は学生という立場で関わっているわけですが、この認識も少しずつ変えていかないといけないのかなと思います。学生のメリットは地域活動に参加することで安く住めるということでありギブ&テイクの関係性です。おそらく通常の家賃の7割くらいかそれ以上お得に住んでいると思います。ただ、家賃を払うのは大抵親であり、地域活動に時間を割くのは学生のため、学生からするとやらされている感があるのは否めません。僕のように地域に関わることが元々好きな人間としてはあまり気にしないのですが、そうでない学生もいるので難しい部分でもあります。先にも述べたように、派遣バイトのような作業もあるため、ボランティア感覚になってしまうのは仕方ないと思っています。
ただ、エリマネとボランティアってだいぶ違うものだと思います。ボランティアは相手のために行動することに価値がありますが、エリマネは自分の行った活動が地域の価値を高め、結果として自分の暮らしが豊かになるものだと考えています。ボランティアは相手のために行う行為ですが、エリマネはある意味自分のためにやっている行為であり、そこに価値を見出さないといけないと活動していて感じました。派遣バイトのような地域活動と言えるのか分からない活動が悪いのか、学生の認識を変えていかなければならないのか、おそらく両方だとは思いますが、ワテラスも8年目に突入して変わっていかなければいけない部分だと思います。
少なくとも学生は、変わろうと行動を起こし始めています。昨年度から定例会として定期的に集まって活動のフィードバックを行ったり学生の関わり方について意見交換をしています。地域の盛り立て役としてはある程度地域にも認識されるようになってきたので、次は地域住民の一人として認識してもらうことが今の目標になっています。
●よそ者から地域住民へ
個人的にはエリマネの活動外でも地域の人と関わる機会をつくれたことがここに住んで良かったことです。地域住民の一人として認識してもらうための足がかりにもなれているのではないかと思います。地域付き合いってなかなか一人暮らしの学生だとできないことですけど、お酒を飲んだりと地域の人との繋がりができました。
引っ越してきた当初は隣の須田町の歴史に興味があったので、地域の方々に色々聞いてたら次第に顔を覚えてもらえるようになったりしました。この地域の歴史は結構有名ですし、ネットで検索すれば色々出てきますが、実際に地域の人に聞かないと知れない情報ってかなりあるなと再認識(笑)。それから、僕は日課としてラジオ体操をしているので、夏には町会のラジオ体操にもほぼ毎日参加していました。個人的な趣味や興味の延長線上ですが、こうしたちょっとしたことから新しい繋がりって生まれるんだと思います。先日の朝も散歩をしていたら、仲良くなった呉服屋のお母さんとばったりお会いして少し世間話のようなことをしました。
地域との関わりを大切にしているのは僕以外の学生にも多くいますし、かつてワテラスに住んでいた先輩方にもいたようです。ただ、学生マンションでありせっかく住民になっても卒業してしまうときっぱり関わりがなくなってしまうのが現状です。なので、こういった繋がりは社会人になっても大切にしていきたいです。
●これからの自分のまちづくりに
就活もエリマネということを1つ軸に行っていました。自分自身、建築を通してこうしたまちづくりに関わって行きたいと思っています。就活でもこうしたことができる企業を志望し、そこを評価してもらって選んでいただいたと思っています。次はもう少し建築とか空間の視点も踏まえてワテラスでの経験をかけたらなぁと思います。
研究室のプロジェクトでもエリマネにかかる活動が始まりました。開発後のエリアマネジメントを行なっていくために事業段階から事業空地の活用やコミュニティを形成していくことがこのプロジェクトの目的です。単に「ハード整備」をするだけでなく同時に「マネジメント」を考えていくことが今後は重要だと思いますし、それを事業後に行うだけではなく準備段階や事業段階からやれることはかなりあると感じています。これまで小田原で関わってきたプレイスメイキングの考え方ってこうしたところで活かしていくべきなのではないかと最近思うようになりました。
ここまでワテラスでの経験を書いてきましたが、ここで触れたことはエリマネのほんの一部にすぎません。運営に直接関わっているわけではないので細かな部分までは言及しきれませんし、実際には人材や組織、財源、制度面など様々な論点があると思います。とは言え、都市計画・都市デザインを学ぶ者としてここでの経験は今後に活かしていけると思ったので共有してみました。あと1年ワテラスに住めるので、楽しみつつ学んでいきたいと思います。
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