水耕録 水温と根
前書き
2023年6月初頭からアクアリウムを立て始め、その派生で水槽に買ってきた植物をかけてみたりスイートバジルの水耕栽培を開始したりと本年後半は水をどう扱うか? が一つのテーマだったように思える。本稿はこの6ヶ月で得られた概ね確定と思える内容を備忘録として要素だけを抜き出しつつ記述しておく。
はじまりの水槽
まず最初の水耕植物はホームセンターで購入したこのガジュマルからだった。この時点で水耕、あるいは栽培そのものについての知識は皆無に等しくとりあえずやってみようと思い立ちポット植えのガジュマルから土を外し隙間を水苔とフィルター材で埋めて固定した。結果としては無事に今も生き延びており初手の実験としては上々と思える結果になった。
スイートバジル水耕実験の開始
この次に水耕栽培でバジルを量産しようと企て必要そうなものをインターネットや百均で調達し水槽から水をサイフォンの原理で移動させて小型ポンプで水槽へ戻す環流型水耕環境を構築した。
まず発芽から苗までを上記の画像上部に写るプラスチック製カゴにフィルター材を入れたもので行い、苗以降は汲み上げ式へ移して栽培を行った。
結果は失敗に終わった。厳密に述べれば栽培そのものは順調であったが環流方法に二つの問題要因があった。
取水口にゴミが付着すると取水量に対して排水量が上回り栽培ケースの水位が低下して水槽側の水位が上昇してしまう。
排水ポンプの取水口フィルターにコケなどが増えると排水量に対して取水量が増えてしまい水耕ケースから水が溢れ出てしまう。
この二つの問題を解決するには水槽側と水耕側の双方を電動ポンプ化しつつ一定の水位になると片方を停止するなどの安全装置を設置したり移動水量を調整する設備を増設することが必要であったが技術的に簡易的でも場所と電源口数の問題があり、この環流式栽培は断念した。
水槽で植物を育てる意義
そもそもの話として「なぜ水槽で植物を育てるか?」の説明をすると植物にとって適した条件が水槽には揃っているからだといえよう。列挙すると下記のようになる。
常に水がある。
水槽用26度ヒーターがあり水温が常時安定している。
酸素供給用エアレーションで常に一定量の酸素が水分に含まれている。
フィルターによって水流が発生しており植物の根に酸素を含んだ水が当たる。
生体から排泄された物質に含まれるアンモニアをバクテリアが分解することで亜硝酸塩、硝酸塩、窒素まで還元されていき窒素は植物の育成に欠かせないリンやカリウムと同じく必要な栄養素であること。
他にも植物の根に苔がついてもエビやモーリーなどの生体が食べて吸い上げを阻害する要因の掃除を行なってくれたりと手間がかからず植物がよく育つ環境が水槽にはあるといえる。バジル栽培は別の方法へ以降したがこの後も水槽の植物を増やしていくことができた。
テーブルヤシやパキラなどものは百均で購入してとても小さかったが写り込んだモニターと比較するとわかるようにとても大きな葉を出すまでに成長した。
先述したように環境も適しているようで根も伸びつつ新しく出たりと中々よく育っている。
バジルはどうなったか
これが現在のバジルである。バジルは独立した水耕ケースへ移して水槽と同じく酸素供給用のエアレーションと水流発生用の水中ポンプを入れ水を張って栽培する水耕栽培にした。だがこの形であってもバジルは二度の全滅と一度の壊滅を被った。第一の全滅は第一陣バジル苗が育ち葉の収穫を行なった後に発生した。推測できる要因は苗の成長が足りない状態で葉を収穫してしまったためか、使用した液肥が水耕には向かず水質を悪化させてしまったかだと思われる。次の全滅は第一の全滅を教訓として苗の成長を優先しようとして起きた。
時は真夏、日照量と気温は十分であったが水温の上昇は水中の酸素量を減らしてしまう恐れがあると思いバッテリーに水中用ポンプと小型サーキュレーターを付けて外へ置いた。設置時点の水温は計測値27度。しかしこの後も水温は上がり続けた結果、水から酸素が抜けただけでなく根が茹で上がり全滅した。
直近11月に起きた壊滅は気温の乱高下があった頃、ここまでの教訓から水温の上昇は危険だと知見したが夜に著しい気温低下が起きたその日の翌日から葉の状態が悪化し始めて壊死するものも出てきた。原因は水温が急激に下がったせいか日中との寒暖差が概ね20度はあったせいか、結果的にダメージコントロールが間に合ったので一株の廃棄で済んだ。この際のダメージコントロールもひとまずダメになった葉を枝ごと落として生きている葉の活動に絞っただけでは効果が出ず、また葉の量が減少した状態で水耕可能な液肥を使用しても光合成による水の吸い上げや代謝が水の富栄養化と水質悪化に追いつかず苔の大増殖が先に始まってしまい水道水のみに戻したりと試行錯誤があった。
水温と植物の関係
ここまでで見た通り、植物が生きるも死ぬも水温の変化があった場合に生じている。適温で安定していれば育ち、過度な温度は低温であれ高温であれ植物に致命的なダメージを与えることは確定といえる。そこでもう一つ水温と植物に関わる実験を行った。
これは梅の盆栽を鉢から外して古い根を掃除した後に水栽培へ移行したものである。この時点では酸素供給用のエアレーションのみを使用している。梅は落葉樹として葉を落としたあとは休眠期になり季節が暖かくなるまでこの状態であっても根を伸ばすことはない。室温は概ね23~26度だがそれでも根に変化は無かった。そこでこの中に水槽用26度ヒーターを設置してみた。
ヒーターで水温が24度台で安定するとこの通り、休眠状態の梅が針のような根を出し始めた。このことから梅は外気温ではなく、吸い上げる水の温度によって活動する時期をコントロールしているものと推測できる。
おわりに
結論とまではいかないが暫定解として植物の活動には水温が強く作用するといえる。無論、エアレーションによる酸素の供給が無ければ植物は窒息して根腐れを起こし枯れるがこれは水捌けの悪い鉢植えやプランター植えでも生じる。水捌けできる栽培方法ならば酸素が抜けた水に根が浸かり続けることはなく根腐れは生じないだろうし、水耕栽培であっても直接酸素を供給すれば根腐れは起きない。ただし水槽にもいえることだが酸素と水温が植物や生体にとって適切な状態は他の水生菌類などにとっても好環境であり、バクテリアの繁殖と死骸による富栄養化や菌類の繁殖を起こす環境でもあるため換水作業は必要である。また詳しい理由は不明だが葉にエアレーションが弾いた水が付着してそのままだと葉が黒く変色して壊死していく現象があり、その対策として小型サーキュレーターで微風を当ててなるべく葉の表面を乾燥させるようになってからはこういった現象は起こらなくなり生育も順調になった。
この他にも水耕ケース内に生じる苔と根に付着した苔をどうするかなど解決しなければならない課題はあるが半年を節目としてここまでの経験を記した。個々の課題解決や新規栽培の開始なども今後あるかも知れないが今後も試行錯誤を続けていく。
追伸、予算の関係でボツったワサビの水耕栽培は諦めてないからな。