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基の木 1

「基くんてさ、どうしてしゃべらないの?」
随分と無邪気な聞き方をしてくるものだ。
ときおり、この無邪気な同級生が心底心配になる。

「ねぇ、今日うちに遊びに来ない?武田と内海も来るんだけど。」
女子が男子と家で遊ぶなんて、案外無邪気じゃないのか、それともやっぱり年齢の割に何にも考えてないのか。

別に嫌いでも何でもない。
自分の家以外では声が出ないだけだ。




冬休みに母と猫と、ここに引っ越してきた。
東京よりは少し長い北海道の冬休みが明けて僕は4年1組に転入した。
この町は、父が子どもの頃過ごした町だという。
古い一軒家の裏には小さな森があり、森は山へと続いていた。

ぼんやりとしていると、紗季は「じゃあまた明日ねっ!」と手を小さく振って小走りに行ってしまった。
僕はやっとカラダのロックが切れて、動き出すことができた。

「基が、ですか?」
母の電話口の声に不審や驚きが混じる。
担任からの電話だった。
「基君、学校で一言も話さないんですが、ご家庭ではどうですか?」
「いつもと変わらない様子で・・・」

僕は転校したその日から、学校では一言も話していない、というよりは、声を出していない。
声が出ないどころか、頷くことも首を横に振ることもできなくなった。


~基の木 1~




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