048サンローラン

#048「サンローラン」

イヴ・サンローランに関する映画は、ドキュメンタリーを含めて3本あって、その一番最近の作品。彼のデザイナー人生全体を描いているのは、「イヴ・サンローラン」の方。
この作品は、彼の人間や生き方に焦点が当たっていて、ディオール時代には殆ど触れていない。

人の中には喜びと悲しみの両方があって、その感受性を飼っているみたいなもので、悲しみや痛みの方にばかり構っていると、喜びは喰われてしまうのかな。と思う。どんな喜びもどんな幸せも、自分の中に感じるもものが無ければ分からなくなる。
どんなに愛されて、必要とされていても、孤独や辛さで一杯になってとてもつもない奈落に落ちていく。
気分が落ち込んでどうしようも無い時が、永遠に続いてしまう怖さを思い出す。

デザイナーでなくても、ファッションという世界の持つ独特な感じは私には無理だなと、いつも思う。自由と新しさを求めて求めて、それが存分に窮屈に見える。毎シーズンごとに渾身のショーが行われていて、それを何十というブランドが一斉に行っている。それだけでも正気の沙汰では無い。

彼を救えるものが何だったのか。71歳で病死するまで生きていたことさえ意外に思ってしまう程、孤独で傷ついたまま生きた人だ。
彼を救ったものがファッションだったのだとしたら、彼自身がとんでもないモンスターだったのだと思う。

イヴがインスピレーションを感じる瞬間を、観客が受け取れる演出になっていて、痛くて美しくて、まぁ、それも含めて盛大なドラッグ映画だよね。