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*006 ノスタルジー・インサイド

ふとしたときに、ある時期の感覚をぶわっと思い出してしまうことがある。
何も持っていなくて、将来に何の確証もなくて、だけど視界だけはやたら拓けている様な、ヒリヒリする様な感覚。
そこからずいぶん歳をとってしまって、何も持っていないのは今も同じだけれど、そいうことについて考えることも誰かと話すことも無くなって、身体を壊したり何もかも嫌になったりしなければ、充分じゃないか。とも思える様になった。

今は、そういう空気を思い出すと、泣きたい様な気持ちになる。もう過ぎてしまったものに対する郷愁でもあるし、あの時期を経て今ここにあるものへの奇跡みたいなものも感じているし、ここから先に残されている今の時間への切なさみたいなものも含まれている。
まだそれを思い出せることに、ほっとしたりもする。

ここからまた少し先へ進んだ後に、きっと私は今居る場所を、今と同じように泣きたい様な気持ちで眺めることも分かっている。
今周りに居る人たちも環境も、今の自分の気持ちも全部過ぎたことになる。そのうち。

今あるものは今しかないなんて、ものすごい当たり前のことが、馬鹿みたいに胸に迫って眠れない。