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源氏物語 二次創作「黄昏に見る夢」 2
こんにちは。^^
学生の時に、源氏物語を題材に書いた小説を再編いたしました。
源氏物語では「紫の上」が特に取り上げられるヒロインですが、
私は、光源氏の最初の本妻、「葵の上」の魅力に惹かれています。
この二次創作の小説は、光源氏と葵の上との間に生まれた息子、「夕霧」を主人公に、「家族の想い」をテーマに、書きました。
……原文の光源氏・夕霧より、大分「オッサン」なのでご注意下さい(汗)。
楽しんでご覧いただけると、大変嬉しいです。よろしくお願い申し上げます。^^
赤城 春輔
「黄昏に見る夢」 2
そっと妻戸に背を預けて、ずるずると滑り降り、簀子の上に深く座り込んだ。
「 しかし、どうしても、ご相談する覚悟が持てないな……。」
そう言って、陰りゆく廂を見上げる。
どうも父上を、完全に信頼する事が出来ない。父上が、自分と母上に対してどう思っていられるのか、どんなお気持ちを抱いていられるのか、それが大変曖昧で、いい加減で、霞がかって全く分からない。
稀に、公私の行事の際には自分に何かとお世話をなさって下さるというものの、矢張、そこでも、目に見えぬ隔たりやお隠し事があり、父子としての関係も非常に曖昧で、大変奇妙なものである。
静かに瞼を閉じた。
「 そんな、よく分からない関係のままで、結婚なんて大事な事をご相談するのに、覚悟が要るに決まっている……! 」
藤の花枝を、更に強く握り締める。
それに、自分も、あの優柔不断な血をこの手に受け継いでいるのだから、父上と同じ人生を、後から同じように歩み出して、母上同様に雲居の雁と結婚して後、彼女に辛く悲しい思いをさせてしまうかもしれない……。
そう思うと、益々強く目を閉じて、眉間に皺を寄せていく。己のこれからの人生を大変遣る瀬無く、黄昏の中で唸った。
ふいに、誰か人がそばに居るような気がして、ゆっくりと目を開けて、そっと顔を上げた。
夕霧の前には、小袖と紅い長袴を清らかに着こなした、黒髪の長く、立ち姿の大変美しい女性が、黄昏の煌めきに包まれて、自分に優しく微笑んでいた。
ふと何が起きたのか、状況が全く分からず、ただ呆然と女性を眺めていた。
女性の体は金色の光に霞んで、特に、目元には強い光が当たって、殆ど顔立ちが分からない。
しかし、意識が朦朧としつつも夕霧は、そうであるのに何故かその女性に、心から懐かしく、何とも言えない、温かく愛しい感情を抱いていた。
しかし、はっと我に返って、今起こっている状況と、女性に対するおかしな感情に気付いて、顔が一気に赤く染まった。勢い持って簀子に片手を突き、女性の前に慌ただしく立ち上がった。
先の自分を思い起こして、大変恥ずかしくなる。誠に居た堪れない。
露知らず女性は、光の中で夕霧に微笑みかけながら、肩手を伸ばし、立ち上がった夕霧の目元に、穏やかで柔らかい指で触れようとした。
夕霧は、自分の胸が大変高鳴るのを恥じるも聞きながら、女性の伸びて来る指に合わせて、そろりそろりと足を後ろにずらしていく。
その踵が妻戸に打つかり、咄嗟に強く目を瞑って叫び上げた。
「 少し待って下さい! ! 」
心臓が脈打ち、顔から炎が噴き出しそうだ。
女性は、急変した夕霧に驚き、「 え!? 」と、聞き返した。
しかし、女性の声は、恥ずかしさで目が回る夕霧を、更々に刺激してしまい、ついに、彼の速脈が頂点に達した。
「 う、うわあ! 」
大声で叫ぶと、夕霧は、女性との場から勢いよく駆け出した。
しかし、目を強く閉じ切って簀子の上を真っ直ぐに駆け出したので、行く先が角になって、高欄を跨ぐ眼下に、遥かに広がる大庭園が在る事に全く気付いていない。
女性はそれに気付いて、夕霧へ振り向き、声を上げた。
「 危ない! 」
その声と同時に夕霧は、足を豪快に高欄へ引っ掛けて、勢い余って体が前のめりになった。そこで、目を見開いて、自分の置かれている状況に真っ向から向き合った。
「 えっ、わあ! 」
しかし、時既に遅く、そのまま高欄より庭へ、夕霧はどすんと落ちてしまった。
女性は急いで、高欄へ駆け寄り、両手を突いて、高欄から見下ろした。
そして、暫く絶句して後、息を吐きながら、頭を垂れた。
「 はあ…、まあ、仕方ないですね……。 」
女性の体が茜色の光の中で、流されて、霞んで、消えて行く。黄昏に浮かび上がる御殿には、誰も居なくなった。
続きます。