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源氏物語 二次創作「黄昏に見る夢」 6

こんばんは。^^
ご愛読を誠にありがとうございます!
本当に嬉しくて、励みにさせていただいています。
これからも、楽しんでご覧いただけるよう、更新を頑張ります。よろしくお願い申し上げます。^^

学生の時に、源氏物語を題材に書いた小説を再編いたしました。
源氏物語では「紫の上」が特に取り上げられるヒロインですが、
私は、光源氏の最初の本妻、「葵の上」の魅力に惹かれています。
この二次創作の小説は、光源氏と葵の上との間に生まれた息子、「夕霧」を主人公に、「家族の想い」をテーマに、書きました。
……原文の光源氏・夕霧より、大分「オッサン」なのでご注意下さい(汗)。
楽しんでご覧いただけると、大変嬉しいです。よろしくお願い申し上げます。^^



赤城 春輔


「黄昏に見る夢」 6


 暫く、母屋の空間が沈んでゆく……。
 夕霧は、父と向き合って、そして、俯いて口を強くつぐみ耳を疑った。
 しかし、同時に、産後、僅かな日も経たぬ間に亡くなった、誠に愛しい母に、一目だけでも会いたくて堪らなかった。
途端に溢れだす涙を拭い、母の方を振り返る。女房達の中心に座る母は、まだ塞ぎ込んでいて、顔が全く分からない。
今度は、兎に角母に会いたいという熱い想いに、力強く握った拳を胸に持っていき、必死に、その自己を抑えようとした。
しかし、溢れ出す大粒の涙は止められず、気が付けば床板へ足が一歩踏み込んでいた。
しかし、父はたった一言で、隣で自己を抑える事のできない夕霧を、簡単に制してしまった。

「 いや、それはどうでもいい……。 」

 そう言って、後ろから妻の様子を、真剣な眼差しで見詰める。
夕霧は、刹那に高調して振り返り、澄ましている父の横顔を見止めた。再び、父の直衣の袖を掴む。
力強く引き寄せられた父は、自分に睨み憤る息子と目が合った。夕霧は、腹の底から怒鳴った。
 「 何故、どうでもいいのですか!? 母上は、父上の妻であられましょうに!
どうして貴方のお気持ちは、いつも曖昧で、いい加減で、信用ならないのですか!? 」
 虚を突かれた父を目の前に、夕霧は肩を震わせて、また、自分の気持ちが止められない事を身に沁みて、嫌がった。
熱い涙が、更々に溢れ出す。俯くと、涙の滴がぽつぽつと床に落ちた。
 「 父上は、いつもそう……。母上が生きていらした時も、亡くなられた後の時も……。他の姫君達のもとへ足をお運びになったり、六条院に様々な姫君達をお呼びになったり……。」
 泣いていた女性のお言葉が、他の女性達と違う理由が、とても分かって、誠に苦しい。
 父は、俯き震える夕霧を前に、ただ静かに、聞いていた。
 「 しかし、それこそ、どうでもいい事です……。ただ、私は、 」
 夕霧は、また、気持ちが口に出てしまう事を、心から厭った。
 ここから逃げ出したいけれど、どうしても逃げられない。思うように体が動けず、まるで、誰かに縛られているようだ。
 「 ― 私は、そんな父上は嫌いだ! 」
 「 夕霧!? 」
 父を勢いよく突き放し、女房達のところへ駆け出す。父は二、三歩後ずさって怯んだ後、すぐに夕霧の背に向けて叫んだ。
 「 待て! 行くな! 」
 しかし、夕霧には、本当の気持ちがはっきりしない父よりも、目の前に蹲る、はっきりさせたい母の顔を早く知りたかった。
母は、駆けてくる夕霧の方へ、少し顔を上げる。
 「 待て、夕霧! 私はまだ、彼女に聞きたい事がある! 」
 しかし、夕霧は、女房達の間に無理やり割り込んで、中央で蹲る母の肩を強く掴んだ。
 女房達は、互いに、また大きい風が吹いたと騒ぎ出す。父は、肩を落として声を失い、座の中央に座る夕霧と母の姿を、ただ呆然と見詰めた。
夕霧は、我を忘れて母を引き起こし、母の顔を知ろうとする。母は、されるがままに、ゆっくりと顔を上げていく。夕霧は、胸の鼓動が酷く、速く、高鳴るのを感じながらも、震わしながら、囁いた。
 「 母上……。 」

 ……母の傾ける顔は、垂れる長く美しい黒髪に隠れて、見えなかった。



続きます。

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