見出し画像

源氏物語 二次創作「黄昏に見る夢」 4



こんばんは。^^
学生の時に、源氏物語を題材に書いた小説を再編いたしました。
源氏物語では「紫の上」が特に取り上げられるヒロインですが、
私は、光源氏の最初の本妻、「葵の上」の魅力に惹かれています。
この二次創作の小説は、光源氏と葵の上との間に生まれた息子、「夕霧」を主人公に、「家族の想い」をテーマに、書きました。
……原文の光源氏・夕霧より、大分「オッサン」なのでご注意下さい(汗)。
楽しんでご覧いただけると、大変嬉しいです。よろしくお願い申し上げます。^^



赤城 春輔 


「黄昏に見る夢」 4



 若かりし源氏は、御殿へと振り返り、清らかな御簾で隔たれた、母屋の中央に座る姫君を見遣って、口を開いた。夕霧はその声に気付き、若かりし源氏へ振り向いた。
 「 もう少しの間でも、貴方と、この美しい黄昏の時を語り合いたく存じておりましたのに……。貴方は、全く興味をお持ちにならないようですね……。 」
 源氏の沈みゆく声に反応して、寝殿の母屋に座る女性が静かに応えた。夕霧が次に寝殿の方を見遣ると、そこが六条院ではない、別の御殿だという事に気付いた。
 「 黄昏よりも美しい貴方様に、何を語る事が出来ましょう……。 」
 母は冷めた声で、ただ、そう応えた。
夕霧は、この女性の声にも大変懐かしく、不思議に思えた。
母は、御簾の隙間から、黄昏の光を、寂しく見つめる。
 突然に父は、強く高欄に両手を突いて、簀子の上に立ち上がった。夕霧は、突然の父の行動に驚き、高欄の向こう側を仰ぎ見た。
父は、黙って立ち竦んだまま母屋の方を刹那に見遣り、急にその方向へ、簀子の上を歩いて行ってしまった。母屋の前まで歩み来たら、片手で御簾を素早く開き、中に入り込む。御簾が閉じられると、母屋の中で女房達が騒ぎ出した。
 「 父上! 」
 夕霧は叫び、慌てて地面に手を突き、父を追いかけようと身を起こしかける。
しかし、中庭に立つ源氏が急に御殿の中にいる女性へ口を開いたので、動きを止められてしまう。夕霧は、中庭に立つ源氏へと振り返った。
 「 こんなに大きな風が、美しい黄昏の庭に吹くなんて、どうやら日が悪いようですね……。また後日、改めて参りましょう。 」
 夕霧は、源氏の言葉に、更に驚いた。

 ( 父上の御姿を、ご覧にならなかったのか? )

 しかし、源氏が急に夕霧の方を向いて歩き始めたので、夕霧は驚き慌てて、どこか隠れる場所はないかと、前後左右、辺りを見回した。しかし、源氏は、そんな夕霧の前を静かに、ゆっくりと通り過ぎて行った。中庭を通って橋を渡り、東の対の階(きざはし)を上って、中へと姿を消していった。
暫くして、夕霧は落ち着きを取り戻し、源氏の消えていった方を向いた。地面から立ち上がり、一旦、御殿を振り返る。
 やはり、六条院ではない。

 夕霧は、一息吐いてから、中央の御殿へ歩み始め、中庭を通って、御殿の階を上った。御簾に手を添えて、少し開き、中の様子を垣間見る。
手前の御簾と壁代(かべしろ)が巻き上げられ、母屋の中央では、女房達が輪になって座を寄せ合い、互いに話し合っていた。一人の女房の背後に、父が呆然と立っている。愈々覚悟を決めた夕霧は、御簾を開き、御殿の中へと入り込んだ。
廂の間まで来ると、柱に身を隠して、母屋の様子を覗き見る。
女房達の輪の中心に、一人の女性が両手で顔をふさぎ込んでいた。
 夕霧は、女性の方々に自分の姿を気付かれる事はないかと推測しながらも、恥ずかしながら一足一足と踏み入れ、母屋の中にいる父のところへ、どうにか辿り着いた。父の直衣(のうし)の袖を引っ張り、小声で訴える。
「 大臣、いくら向こうの方々が気付かれていないと言っても、やはり、この行動は道理に合いません。早くここから出ましょう。 」



続きます。

いいなと思ったら応援しよう!