#43 社会人編 〜話を聞かない話〜

「話聞いているようで、全然聞いていないよね。」

生まれてこの方、私は何回この言葉を相手から投げかけられたかわからない。

それほどまでに、様々な人から言われ続けた言葉だ。

そもそも、私がそんなに人の話を聞いていないかというとそんなことはない…はずである。

それなりに人の話は聞いているつもりだし、ちゃんと話す人を慮っているとさえ思う。

それなのに、昔から家族に言われ、先生に言われ、友達にも言われ、挙句当時の恋人からも言われてしまう始末だった。

一体何が悪いのだろう。

社会人になってから、仕事先で“人の話を聞いていない“と言われたことはないので、多分働く時はちゃんとしているのだろう。

まあ仕事で人の話を聞いていないとしたら、それはかなりまずい人になってしまうので、一安心ではある。

では何が問題なのか。

多分一つは、自分でも自覚している。それはいわゆる生返事だ。

「うん…」とか「あー…」とか「そうそう…」とか、私は聞いている時に相槌がこんな感じなのだ。

時にその人の話に全く興味がないとか、そういうことではない。一応話をしっかり聞こうくらいの気持ちは持っている。しかし、なんというか返事に熱量をもつことが私には難しいのだ。

熱血スポ根的な「おう!」とか「そうだね!」とか、からっと潔い返答と相性が抜群に悪い。

だから、話している人からすると、

「この人、私の話を聞いているのか?」

となってしまうのだろう。

そして、考えられることはまだある。それは、人の目を見ないことだ。

もっと言うと、顔すら見ないことが多い。

昔からの私の癖で、人と顔を付き合わせて話をすることが苦手だったのだ。

なんだか視線を合わせて話すと途端に挙動が怪しくなる。

多分歩いていたら、右と左の足と手を同時ものをだしているくらい怪しい動きをしているだろう。

そして言葉もおかしくなる。

「あー、ぃいえっと…あのー、」

と、喋る言葉が出てこない。だが、目があっていなければそんなことはない。

「本日はお日柄もよく、よろしくお願いします。あ、今日は雨でしたね、あはは。」

などと、軽快にジョークなんか飛ばして会話するくらいの余裕がある。

目を合わせると本当にダメなのだ。

自分でも不思議なのだが、顔を合わせて喋ることへの苦手意識がすごい。多分海外でうまく生活するのは厳しいレベルだろう。

そしてさらなる問題点として、人と話題のポイントがずれていることがある。

思い返すとこれは致命的なようにも思う。

友人にも言われたことがよくある。

「いや、この前さー、…があってこれが本当に面白くてさ、〜だったんだよ。」

と体験談を面白おかしく話してくれた際に、

「わかる!それってめちゃくちゃ大変だよね!」

と、私も面白いと思ったポイントを返すのだが、

「いや、そこじゃなくてさ…話聞いてた?」

という具合になるのだ。

まさかの私の思ったおもしろポイントは、友人の思ったところではないというのだ。

こんなことは一回や二回どころではない。

最近では友人も諦め、私がトンチンカンな返答をしても

「…っていうよりも〜だったってこと。」

と自然に路線を元に戻してくれるのだ、優しい友人である。

そんなわけで、人と目を合わせず返答は生返事、そして反応hずれている…確かにこんな人がいたら、“話を聞いていない“と思われても仕方ない気がしてくる。

まさに自業自得といったところだ。

ちなみに友人に最近そんな話を振ってみると、

「あー、確かに話聞いていない感じするわ。でもなんていうか、一番思うのはその顔が“上の空“って感じだから思うんだよな。」

と言われた。

おいおい友人よ、私の顔が上の空というのは一体どういうことなんだ。

確かに、我ながら自分の顔はアホ面だなと思うことが何度もある。いや、むしろ割といつも思っているかもしれない。

しかし、何も考えずアホ面をぶら下げているわけではない。私なりに何かは考えながらアホ面をしているのだ。

“上の空“ということは、私は他人の話をばかみたい顔でぼーっと聞いている人という認識になる。

長年この顔でやってきた私だが、そんな友人の言葉で初めて自分の顔が背負っている宿命を理解したのだ。

一応言い訳をしておくが、私は人の話を決して“上の空“で聞いているわけではない。それなりに聞く気をもっている。

だいぶ不本意ではあるが、友人が言うのだから間違いではないのだろう。

かといってこの顔自体に不満をもっているわけでもなく、とりあえずは全力で相手の話を聞く姿勢を見せていこうと思う。

そして、余計な反応をしてボロを出さないようにする。

多分私はある程度親しくなり、気が抜け始めるとそうなるのでその辺も自分のアホ面を晒さないようにしこうと思う。

ちなみに、最近実家に帰って家族に

「トゥルースリーパー買おうと思うんだよね。」

と雑談をしていたら、

「え、スリーペア?」

となんだかポーカーの役にでもありそうな言葉で返された。

トゥルースリーパーとスリーペアとは、どう利き間違えたらそうなるのだろう、話聞いてるのか?と思ったが、ふと

「もしかしたら話を聞いていない感じは、遺伝的なものか?」

と、要らぬ心配をしてしまったことはここだけの話にしておこうと思う。

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