この世界の片隅に
パチパチパチ…
映画鑑賞後に拍手が起こった。
去年のスターウォーズ以来、体験したのは2度目だろうか。
沈黙を守ったまま、映画を観る文化の元に生まれた日本人が精一杯の意思表示!「届けこの想い!」
もちろん映画館なのだから、監督や制作スタッフに届いてはいない。
のだが、こうやって文字で書くと少しでも広がるだろうか。広がって欲しい。
「この世界の片隅に」
このタイトルは本当に日常の中揉まれていると自分の「頭の片隅に」行ってしまいそうな印象がある。
でも観終わった今、「シン・ゴジラ」を観て興奮した後にも書きそびれていたこの映画日記に、きちんと向かわせてくれる力があった。
期待していた。
日常を描いたもので、ドロドロなんかしていない。
戦時中だけれどたくましく生きた人の話なんだろうなと思った。
本編の前に「海賊とよばれた男」の予告編があって、たった数分の予告だけで目を伏せたくなった。私はああいうお話が苦手だ。どうして苦しい苦しい映画をお金を払って観ないといけないのか。
「この世界の片隅に」はきっと違う、前情報を入れずに行ったからか、ものすごく気楽な気持ちだった。
しかし
映画も後半にさしかかり、私は自分がすごく疲れていることに気づいた。
映画館の空調が暑かったせいもある、けれどそんなことじゃない、私は途中からずっと体を前へ乗り出していた。
小さなシアターで前後左右満席ぎゅうぎゅうの空間、前のめりで画面を見つめ続けていると、、、そりゃ疲れるわ…と背もたれに背をつけた。
引き込まれすぎだ。
この映画は、きちんと苦しかった。
ただただゆる〜りと日常が過ぎ去るだけではなかった。
のんびり屋さんの主人公がのんびり屋さんではいられなくなってしまうお話だった。
そうして期待を超えていった。
もはや尊い。
映画の展開で、こうなったら嫌だなぁ…という方向に見事に進んで行く作品がとても苦手なのだが
それを飛び越えていってくれる作品には心奪われる。
主人公と旦那さんの繋がりは、強く、壊れない。
この物語はそんなところをぶっ潰さないでいてくれる。少し離れたって、死なない。帰ってくる。
そしてもちろん、沢山笑わせてくれた。
精一杯努力して、工夫して、食べ物がない中生きていく。
もしかして子供が!?と思って早とちり。
憲兵に叱られて、あいつら馬鹿だと逆に大笑い。
貴重な砂糖は水に溶かして、それでもいつも誰かが助けてくれた。
自分も、この家を守る一員になっていく。
沢山失っても、居心地がまだ悪くても、ここで頑張る。
夏の金曜ロードショーで「火垂るの墓」が放送されても私は観ない。
でも、この映画だったら観る。
エンドロール後、この映画のクラウドファンディングに参加した人たちの名前が全て流れる。
エンドロールを観るのもぼーっとするのに、さらにぼーっとしてしまう。何人いるんだろう、ものすごい数だった。
だけど、嫌な「ぼー」ではない。感謝の気持ちがあった。
私はこの原作をきちんと読んでいなくて、クラウドファンディングをしていたことも知らなくて、なんの力もお貸しできなかったけれど、この映画を観ることができた。
最後に起こった拍手は、原作者、監督、制作スタッフだけに向けたものではなかったかもしれない。この映画を観ることができたのは、協力した人たちがいたおかげだった。
この作品を作ってくれて、届けてくれてありがとう。
私は家に帰って、米を洗う。
釜戸の番なんかしなくていい、スイッチひとつの炊飯器でさえ面倒臭い。
炊けたら炊けたで真っ白なご飯がてんこ盛りにある。
でも今日は、一口一口を噛み締めて
そして、大切な人たちに、感謝の気持ちを伝えたり、したいと思う。
この気持ちを、この映画は観るたびにきっと、教えてくれるはずだ。
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cakesのNさん、この作品をおすすめしてくださってありがとうございました。
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