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明るくないことの何が悪いのか

私は、明るい音楽を聴くと落ち込んでしまう。

以前、渋谷のクラブで、
「頑張っている君に送るエール♪
勇気、元気、努力、辛い時こそ笑顔♪」
というような歌を聴き、
あまりの辛さにフロアを飛び出した。

深夜の冷たい空気が、酒と希死念慮が絡みついた頭を包み、なんとか心を持ち直した。

世間は、夢に向かって努力する明るい人間が大好きだ。
私には、昔から夢がない。
大して好きなこともないし、何も頑張っていない。

ラップを始めたての頃、
「売れたいの?」と聞かれ、
「楽しく好きな曲が作れればいいです」と答えたら、
「はぁ…本気でやれよ」と言われた。

バイト先でお客様から、
「どうしてここで働いているんだ?何か夢はあるのか?」と聞かれた。
「歯列矯正がしたい。
あと、毎日楽しく過ごしたい。」
と答えたところ、お前のような何も考えていないバカな女が社会をダメにするのだと怒られた。

私は、夢や目標のない、本気で何かを頑張っていない人間は、人から嫌われるということを知った。
次から同じことを聞かれた際は、売れる為に努力をしたり、資格を取るために勉強をしていると嘘をつくことにした。

すると、大体の人間が嬉しそうに、頑張っているなぁ〜と私を褒めるのだった。
(たまに頑張りが足りないと怒られたりもした)

世間には、明るいことは素晴らしいことだという風潮があるが、
明るくないことの何が悪いのだろう。

お前の歌は暗い、盛り上がらない、踊れないと言われたことがある。
それの、何が悪いのだろう。

ラッパーなのに性の歌を歌わないこと、薬物をやらないことをバカにされたことがある。
パリピの素質がない、トークが上手くないとも言われた。
それの、何が悪いのだ。

私たちは、明るくなくても話すことが苦手でも、夢や得意なことがなくても、チビでもデブでも、当たり前に大きな顔をして生きていていいのだ。

明るくないものは最高だ。
どんよりとした雨が降る映画、暗いアニメ、漫画、静かな博物館、
絶望や悲しみにまみれた音楽はいつだって私を救う。

今日も人と上手く話せなかった。

テレビを見ても面白くないし、ご飯を食べても美味しくない。
会いたい人もいないし、夢もない。

ボロボロのスニーカーを履き、日傘と水を持ち外に出る。
今日は8キロ先まで歩くと決めた。

高架下をくぐり、川を超え、2キロ程歩いたところで、
暑すぎて電車に乗って帰った。

やっぱり私は、何も頑張っていない。
でも、何が悪いのか。
デカい顔をして生きていく。

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