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編笠山

「酸味が効いているのが特徴でね」

主人が探るような表情でわしを見る。淹れていただいた珈琲は、確かに酸味が前面に広がって独特の口当たり。おいしい。

「毎回手挽きは大変ではないですか」「もう慣れているから全然」主人は肩をすくめた。「サイフォンで試したこともあったけれど、味がブレてあれはダメ」「水温調整はどうやって」「それが」主人は嬉しそうに歯を見せた。「ここでは沸騰の温度が90度なんだ。高度が高いからね」「それは素晴らしい」

3年ぶりの八ヶ岳。友人たちとの恒例登山がようやく再開。編笠山に登り、遠い飲み屋こと『青年小屋』に宿を取った。夕食を終えて皆それぞれ。わしは居間でコーヒーを飲みながら今日の道程に思いを馳せていた。

山小屋で頭を巡らせるボードゲームも、山頂に運んだサンシャインも、ミニ四駆も、水鉄砲も、意味不明で妙に面白くて、学生の頃のように笑って過ごした。

2人足を捻り、1人は登山靴のソールが剥がれてダクトテープで補強。今回も満身創痍の我々。帰りの中央道は恒例の大渋滞。オーディオからリピートされる森口博子を聴きながら6時間。Pray don't break a peace forever. 疲れたけれど最高だった。また来年。