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三都メリー物語

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神戸、大阪、京都を背景に男女の人間模様を描いてみました。
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#連載

『三都メリー物語』⑧

 大阪城の桜も綺麗だが、大阪城公園の駅から一駅か二駅の所に造幣局があり、そこには134種もの桜が338本、道をはさんで両サイドに植えられている。
成長した桜は、道の両方から伸びてお互いの枝が届くところまで来ている。それは、まるで桜のトンネルのようだ。これが『造幣局の通り抜け』。
レイと藤岡准教授は、手を繋いで、いく重にもなる八重桜の花に、レイはうっとりしている。  

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『三都メリー物語』⑪

しゃ光カーテンの隙間から微かに太陽の光りが差し込んでいるのに目が覚めた。起き上がると少し肌寒い。慌ててレイはエアコンの暖房をいれた。
同じベッドで寝息を立てている夫の藤岡准教授を起こさず、静かに部屋を出た。
洗濯機に汚れた洗濯物を入れ、洗剤も入れてスイッチを押す。
温かいコーヒーを入れて飲んだ。
そういえば、レイの上司である34歳の男性の島田さんと、この会社を知り尽くしているようなレイの

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『三都メリー物語』⑬

朝からどんよりとした厚い雲に空は覆われている。昼間は15℃を越えているのに、朝は2℃といった日中の寒暖差が何日か続いた。
そんな2月が終わる頃、いつものように通勤電車は、満員で終点駅の大阪で吐き出すように人が降りて行く。
社内のデスクに着くとレイは、既に出勤していた稲垣とお互い目を合わした。社内では、そんなに話すこともない。メールだけでやり取りしているだけだ。
そんなとき、レイの上司の島田が、

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『三都メリー物語』⑯

春の優しい太陽の日に心地よい風で道路脇に設置されているフラワーポットのビオラが優しく揺れている。朝の通勤でそんな光景を見るとレイは、今日も一日頑張ろうという気になる。
会社のデスクに着いたとき、稲垣がよくレイを見てニコッと微笑むが、近頃はそんなこともない。レイはそんな稲垣にメールを送っていない。
稲垣さんは、亀山さんと同棲しているから私にメールの返事を、あの手紙が置かれる以前からしなくなっていた

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『三都メリー物語』⑰

走行中の車のフロントガラスに幾つかの雪が落ちては溶けた。仕事を終えたレイは、スーパーに寄った後、自宅アパートに帰るところだった。
アパートの駐車場に車を止めて降りると、冷たく刺すような風が肌に感じた。仕事に疲れた身体にはこの冷たい風がなおさら堪えるとレイは思う。袋に入った買い物の材料を抱え、自宅アパートの扉の鍵を解錠し扉を開けて中に入った。
灯りのない冷たい奥内は、閑散としていた。そこは、2D

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『三都メリー物語』⑲

大阪の梅田のホーム内で待ち合わせをした。平日の午前10時は、通勤ラッシュほどではないが案外人がいる。明日がクリスマス・イブといこともあってホーム内のカフェはツリーやリースが飾られている。10分ほど早く着いたレイは、松田くんがまだ来ていないとわかると鞄の中にある本を取り出して読み始めた。その本の主人公は、引き寄せられるくらいの絵画に出会い、その絵画の中に入って冒険するという話でレイは、続きが読みたく

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『三都メリー物語』⑳

 外は、大粒の雪が降っていてイタリア料理店の前を通る道はうっすらと雪で白く道路と歩道の境目が日が沈むと分かりずらかった。 

 レイは、クリスマス・イブの夜にイタリア料理店で、皿洗いの仕事をしていた。予約がたくさん入っており、眼鏡をかけた神経質そうなシェフの青木は、メインディッシュのフィレ肉を焼いてはフライパンを洗い、またフィレ肉を焼いている。そしてその都度炎が上がる。
 パスタの茹で汁を捨てる時

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『三都メリー物語』vol.21

 しんしんと降る雪が、音を吸収しているかのように静寂な夜の暗闇にアパートの表札を灯す明かりを頼りにpostの中から一通の封筒を手に取った。
裏を見ると、藤岡准教授からだった。雪が、その封筒の上に乗っては溶けて水になり紙がふやけた。レイは、濡れたところを手で軽く拭いた。

 雪の積もる階段をすべらないようにゆっくりと上がり鞄から鍵を取り出し扉の鍵を開けた。外より冷たく思える部屋に明かりをつけ、手紙

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『三都メリー物語』最終話

『三都メリー物語』最終話

 青い空は雲ひとつなく、乾燥しているためか青はどこまでも青い感じがした。
冷たい風が、レイの千鳥格子のトレンチコートの裾をめくった。少し肩をすぼめて、首に巻いたマフラーをレイは深いめに顔を覆った。

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