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韓国人女性がフランス語で書いた小説  グカ・ハンの『砂漠が街に入り込んだ日』

韓国からフランスに学生で来て、6年あまりで仏語で書きあげたのには脱帽。(私は20年もいるのに…😢)
グカ・ハンは、私も4年通ったパリ第8大学の修士課程で、文芸創作を学んでいる時に執筆したそうだ。

本作は、孤独や子供の頃の記憶が主なテーマの8作の短編からなり、語り手8人には名前がなく、フランス語の男性系か女性系を見分ける動詞の活用によって男女を区別できる。どちらなのか混同させる文章もたまにあるが、あまり気にならなくて済んだ。また、もしかすると8人は同一人物なのかな、と思わせる小説集の構成はとても新鮮。

詩的で乾いた感じのする文体はデュラスを想起させ、飾りのない文章はアゴタ・クリストフのような外国人が書くフランス文学という印象を与える。

強く印象に残っている短編はやはり最初の『ルエオス』(Luoes →Séoul, ソウルの逆)だ。読みながらソウルの街やパリの地下鉄で見る、ストレスを抱えたり孤独に生きる人々の顔を想像した。次に『家出』と『雪』そして『聴覚』。『家出』は不吉な予感を読者にもたらすけど、結局は何もなかったかのように終わる。他の短編もほとんどがこんな感じだ。
グカ・ハンの世界は、映像としてイメージがしやすく、私は始終背景やキャストを頭の中で浮かべていた。ちなみに語り手は韓国ドラマ『トッケビ』の主役キム・ゴウンだった。

グカ・ハンの世界観は、彼女が韓国社会で生きてきた体験が無意識に反映されている。あるインタビューで(写真3)、幼い時から口下手だったため、会話よりも他人の目や行動を観察しながら生きて来たと語っている。フランスに渡った理由も、韓国社会でのストレスと居心地の悪さから抜け出すためだったようだ。

インタビュアーの「夢のような奇妙な物語だ」という感想についてグカ・ハンは、「夢は現実よりもリアルだと思います。虚構という別の世界は、今私たちが住む世界と同じようにロジカルではありません」と述べる。

彼女にとって虚構と現実は背中合わせなのだ。今後もこの2世界を往来しながら、グカ・ハンワールドを描いて欲しい。フランス語で書く、異色のアジア人若手作家として大いに期待したい。
フランス語を学んでいる方々、特に初級〜中級者に超おすすめです!🇫🇷


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