安倍時代後への選択:安定継続か、出直し改革か
ー突然の辞意
・安倍晋三首相は7月以来体調不良に陥っておられ、8月17日に慶應大学病院に7時間半も滞在して検査を受け、さらに8月24日に再び慶應大学病院を訪ねて3時間半ほど滞在。安倍首相は12年前にも持病の潰瘍性大腸炎の悪化で、第1期安倍政権の首相の座を降りたこともあるので、関係者は今回の体調不良を心配し、様々な観測が飛び交った。
・私は、noteの「しまはる塾」で「在任最長安倍政権、これからどうする」というテーマで、任期切れになる前に退任の意向を発表し、任期満了までの、すくなくとも半年は後継候補者達がその政見を発表して国民の前で説明そして論戦るす機会を国民のためにとるべきだ、という説を唱えたが、その安倍首相が本当に辞任するとは、まさに青天の霹靂だった。
ー志半ば
・安倍首相は8月28日午後5時からの記者会見で、真剣に取り組んだがやり遂げられなかった課題を3つ挙げた。北朝鮮による日本人拉致問題、ロシアとの北方領土に関わる平和条約問題、憲法改正問題。これらを解決できなかったことは”断腸の思い”だと心境を吐露。
・安倍首相は、8月24日の検査結果の診断で、潰瘍性大腸炎の最初が確認されたとし、治療を受けながら職務をつづけることもありえたが、体調不全で職務をつづけることは国民の負託に全力で応える自信がなく、自分一人で熟慮してこの時点で辞任する意向を固めたと語った。
ー安倍政権が遺したもの:プラス評価
・安倍氏は2012年11月、民主党の野田佳彦政権から、政権を奪還して安倍政権を発足させた。民主党政権時代の3年間, そしてその前の安倍第1期内閣以来の自民党時代、福田、麻生首相を含め、6年間首相が6人も変わるという不安定な政権がつづき、国際的にも日本の政治は世界でもっとも不安定と評判が悪かった。
・安倍首相は第二期内閣を組閣して以降、7年8ヶ月という長期にわたって政権を維持し、世界でももっとも安定した政権との評価を得た。これは日本政治に信頼性をとり戻す意味でプラスに評価されることである。
・いまひとつは安倍政権の総合的な経済政策「アベノミクス」である。アベノミクスは3本の矢から構成される。第一は、適度なインフレ実現のための金融政策、第二はダイナミックな財政政策、第三は成長戦略。これは金融、財政、構造改革の3つからなる総合的な経済戦略でわかりやすく、海外からも注目を集めた。
・ただ、結果的には、大胆の量的緩和を実施した金融政策は2%のインフレを達成するという目標を達成できず、ベースマネーの蓄積だけが巨大となり、出口の手がかりを掴み損ねている。積極・果敢な財政政策は大規模な財政支出がつづき、当初の目標だった財政再建と経済成長の両立は困難で、財政赤字が危険なまでに蓄積している。構造改革による成長戦略は、構造改革には時間がかかるほか、強力な改革ができずに成果が見られていない。
・これらの期待はずれはあるものの、アベノミクスの下で、2013年から株価が大きく高まって経済に明るさが感じられるようになったこと、また7年余にわたる安倍政権の持続期間をつうじて年率1%前後と低位ではあるが、プラスの経済成長を実現したことはプラスとして評価されて良いだろう。
ー安倍政権が遺したもの:マイナス評価
・安倍政権は任期途中にいくつもの不祥事に巻き込まれた。モリ・カケ問題とそれに伴う公文書改竄問題は象徴的。大阪の森友学園は安倍首相夫人が名誉会長をする縁があったが、学園の造成工事で巨額の公的支援を得た経緯が不透明。また四国の加計学園は文科省の基準では許可されない獣医学部の許可を得たが、同学園の理事長が安倍首相と親しい間柄であることが利益誘導ではないかと問題にされた。いずれの件でも情報開示がなされず、さらに監督官庁の調査記録が改竄されるなど、情報開示がなされず、説明責任が果たされず、事件は首相に及ばない形で隠蔽された。こうした安倍政権の不透明な体質と対応が国民の政権に対する不信感を高めた。
・しかし、これよりさらに大きなマイナス要因は、「安倍一強」体制の下で、政界、官界、財界が常に安倍首相=安倍内閣の意向を優先的に忖度、尊重する構造が定着したことである。安倍首相自身は、つねに選挙に勝つことに全力を傾注しただけだったかもしれないが、5回の選挙に全勝した安倍政権は文字通り対抗馬のいない”一強”構造が定着し、一強であればあるほど日本の社会に閉塞感が強まった。これは日本の活力を損なったという意味で大きなマイナスと私は評価せざるを得ない。
ー総裁選候補の顔ぶれ
・8月31日朝までに総裁選に出馬する意向の候補者の顔ぶれが明らかになった。かれらは石破茂、岸田文雄、河野太郎氏らであったが、8月30日の夜、菅官房長官が出馬の意欲をしめしたので、ほぼこの4人で確定した。
ー総裁選の方法
・安倍首相が辞意を表明した直後、8月28日に自民党の幹部会が開かれ、総裁選の方法と日程については二階幹事長に一任し、9月1日の総務会で決定することとなった。このエッセイを書いている時点ではまだ正式に決定されてはいないが、流れは9月14日の両院議員総会で総裁候補を決め、つづいて臨時国会を召集して与野党の総裁候補から正式に次期首相を選出するという手続きになると見られる。
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