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『世々と海くんの図書館デート発売記念SS~頭条さん&しーこ&朝ちゃん&大地が図書館デートしたら?』

 ※このSSは講談社青い鳥文庫さん『世々と海くんの図書館デート』の1、2巻同時発売を記念して書いたものです。『ヒカルが地球にいたころ……』に登場する、あの人やこの人が成長して図書館デートしたら? というお遊び企画になっておりますので、そうしたものが苦手なかたは、ご注意ください。最初に『ヒカル』の再録SS×3編をご覧になっていただくと、大地くんのことなど、わかりやすいかと思います☺️
 それではどうぞ☺️🌸

 ◆◆◆

《頭条×紫織子》頭条22歳 紫織子13歳

 その日、あたしはたまらなく不機嫌だった。

 なんで? なんで、あたしが、こんなカタブツおじさんと、図書館で向かい合って、勉強なんてしてるの? 青山のデセールコースのお店に連れていってくれるっていうから、わざわざ休日に時間を作ってあげたのに。

 あたし、中学でモテモテなんだからねっ!

 東中【ひがしちゅう】の流れる黒髪の美少女とか、千年に一人の奇跡とか呼ばれてて、高校生から告られたりしてるんだからっ!

 もちろん、あたしは是光お兄ちゃん一筋だから、全部断ってるけど。
 そのあたしが、特別に、つきあってあげてるのに、どうして図書館? なんで数学の勉強?

 うぅぅぅ、こんなことなら、この前のテストで、数学が赤点ギリギリだったなんて言うんじゃなかった。

 ――あたしくらいの美少女だと、勉強なんてできなくてもどうでもいいし。それに、あたしの就職先は是光お兄ちゃんのお嫁さんって決まっているから。

 頭条が、しつけや成績にうるさい石頭なのを忘れてた。

 ――青山のデセールは、問題が全部解けてからだ。

 なんて、しかめっ面で言っちゃって。ああーうぅぅ、数学嫌いっ! 全然わっかんないよぉぉぉ。

 向かいの席で真面目な顔で、小難しそうなぶ厚い本を読んでいる頭条を上目使いに睨んでいたら、顔を上げて、
「どうした? どこがわからないんだ?」
 なんてえらそうに訊いてきたから、

「全部」

 って答えてやったら眉根を寄せて、
「それはいかんな」
 と、本を閉じて、あたしの隣に移動してきた。
「なら、俺が一から徹底的に教えよう。まず、この公式から――」

 あぅ、もしかしてまた失敗した? こんなんじゃお店が閉まっちゃうよ。
 よぉし、ここはあたしの美少女パワーで。

「ねぇ、青山で美味しいデセールを食べてからのほうが、勉強がはかどると思うんだけど」
 と、長い黒髪をさらっと揺らして、甘い声で言い、口もとに可憐な微笑みを浮かべて、じーっと見つめてやった。

 けど、

「いや、勉強が先だ。俺が連れ出したから成績が落ちたなんてことは、あってはならん。俺が年長者として、責任を持って面倒を見る」
 なんて真顔で言ってきて、あたしは、うぅぅぅっと唸ったのだった。

 もうもうもう、あたしが絶滅危惧種のムラサキグサみたいな美少女だってわかってないでしょう! このカタブツ! ドンカン!
 いつか絶対、あたしの魅力で振り回してやるんだからっ、と思いながら、あたしは癪に障る頭条をチラチラ睨みつつ、数学と格闘を続けるのだった。


《大地×朝衣》大地13歳 朝衣21歳

「そこ、訳が違うわ」
「あー、テキトーでいいって。先生もいちいち全員分見てねぇから」

 わたしの隣の席で、ノートに宿題の英訳を、鉛筆でがしがし書きながら、大地が口を尖らせる。
 また背が伸びたみたいで、わたしともうそう変わらない。中学ではサッカー部に所属しているそうで、半袖のシャツから伸びる腕や首筋が、日焼けしている。つり上がった目や眉の感じが、やっぱり赤城是光に似ていて、胸が妙にざわざわしてしまうのがいまいましい。

 大地は赤城くんの叔母の息子で、赤城くんのいとこになる。なので多少似ていても当然だし、そのくらいのことで大学生のわたしが、いちいち動揺するはずはない。

 そもそも何故わたしが、図書館のテーブル席に、中学生と並んで座っているのか。
 そうだ、わたしが心静かに一人で、レポート作成のための資料を読んでいたら、大地がやってきて勝手に座り、宿題をやりはじめたのだ。

 ――朝ちゃん、すげーしかめっ面で難しそうな本読んでんのな。つまんねーなら、別の本読めば? もっと楽しくて笑えるやつ。

 ――これは、つまらないとか面白いとかいう次元で読む本ではないわ。知識を得るために、必要だから読むのよ。

 ――ふぅーん、ま、いっか。おれも英語の宿題しよーっと。

 まったく、中学生の相手なんてしてられない。
 けど隣から、あれ? これなんだっけ? ま、いっか。えっとこれは、ま、いっか、と聞こえてくるのが気になって、横目でノートをのぞいてみたら、えらく雑な字と雑な訳が並んでいて、我慢できず、つい口を開いてしまった。

「ここも違うし、ここも、ここも、間違ってるわ。ちゃんと辞書を引きなさい」
「え、めんどい」
「引きなさい、それがきみの将来のためよ」
「へいへい、朝ちゃんはホント真面目だな」
 ぶつくさ言いながら、大地が辞書をめくる。

 きみが不真面目なのよ。まったく、顔や、年上に対して無礼なところは似ているけれど、他は大違いだ。
 赤城くんは字も綺麗だし、あの赤い髪と鋭い目つきで誤解されやすいけれど、基本的に真面目で成績もいい。今は都内の割といい大学に彼女と通っていて、今日も彼女と仲良さげに家に入っていって……。

 わたしが黙ってしまったら、大地がノートに下手くそな字を書きながら、普段と変わらない口調で言った。
「あのさ、朝ちゃんは真面目だから、いっぺん好きになったら一生片想いとかしそうだけど、不真面目な朝ちゃんも、結構イケてると思うぞ」

 もしかしたらこの子は、わたしが赤城くんの家を訪ねようとして、その手前で赤城くんと彼女の睦まじい様子を目撃して引き返すのを、見ていたのかもしれない。それで、図書館までわたしを追いかけてきて、わざわざ隣の席に座ったんじゃ。

 嫌だわ。顔が熱いわ。

 赤城くんと大地は似ていないと思ったけれど、なんてことかしら。一番厄介な部分がそっくりだ。
 もちろん、中学生にときめくなんてことはありえないけれど。

「なんのことだかわからないわ」

 冷静に言ってやったあと顔を伏せたのは、赤くなっていたような気がしたから。
 大地が笑いを噛み殺している気配が伝わってきて、しばらく顔をあげられなかった。


《大地×紫織子》大地13歳 紫織子13歳

 これ、ひょっとしてデートじゃね?
 やべぇ。心臓が、ばくばくしてきた。落ち着け、落ち着け、おれ。

 休日の土曜日。地元の図書館のテーブル席で、おれたちは中間テストの勉強をしていた。普段はそんなことしねーんだけど、今日はトクベツだ。
 昼間、母さんの家に行こうとしたら、途中で手に布バッグを提げたしーこと会った。しーこは事情があって、母さんの家で暮らしている。母さんはオレが赤ん坊のころに父さんと離婚したから、今は実家で、じいちゃんや、是光兄ぃ、しーこと猫たちと暮らしている。
 でもって、しーことおれは、この春から同じ中学に通ってた。

 ――どこか行くのか? しーこ。

 ――図書館で、中間テストの勉強するの。

 ――げっ、テスト勉強? しーこ、いつもそんなのしねーじゃん。美少女に学歴は不要だったんじゃねーのか?

 ――仕方ないでしょう。成績上がったら、是光お兄ちゃんが二人きりでネズミーランドでデートしてくれるって言うから。

 是光兄ぃは、母さんの甥でオレのいとこだ。大学生で、オレは是光兄ぃと顔つきがそっくりだと、よく言われる。
 てか是光兄ぃには、式部さんって彼女がいるから、デートは、しーこが勝手にそう言ってるだけだろ。

 ――待てよ、おれも行く。

 ――ええ、来なくていいよ。

 ――いいや、おれも中間のベンキョーしなきゃだし。

 休日の図書館は混んでいて、ちょうど横並びの席しか空いていなかったので、並んでそこに座った。
 おれは、うおっ、これ図書館デートってやつじゃん? って、内心浮かれてた。
 しーこは親のカタキみたいに数学の問題集を睨んでいる。問題が解けないのか、ピンク色の唇を、きゅっとへの字に曲げていて――。

 あー、くそっ、そんな顔してても美少女なのな、こいつ。髪の毛真っ黒で、つやつやサラサラしてるし。目がデカくて、まつげ長くて、色白くて、なんかもうすべてがきらきらしている。

 中学のクラスメイトもサッカー部の先輩も、おれがしーこと話していると、驚いたりうらやましがったりする。仲を取り持ってくれと言ってくるやつがいないのは、きっとしーこの美少女っぷりがあまりに別次元で、自分じゃつりあわないって、あきらめてるからなんだろうな。

 けどおれは、数学が苦手で、眉根を寄せて唸りながら問題集を睨んでいるしーこのことも知っているって思ったら、ちょっと優越感がわいてきて。
 自分の勉強なんてそっちのけで、しーこばかり見ていた。そしたら、
「大地、ここわかる?」
 しーこが問題集をずいっと寄せてきて、一緒にしーこのサラサラの髪や薄い肩も、おれのほうへ近づいてきた。
 うぉぉぉっ、なんかいい匂いする。シャンプーか?
「お、おう。まかせとけ。これはだな――えーと、その、この公式を、あれ? 待て、こっちか? いや、ちょっと待った、こっちかも」
 カッコ良く説明しようと焦るほど、しどろもどろで、てか、肝心の問題の解きかた、わかんねーし。

 しーこも、あきれて、
「もういい。家に帰って是光お兄ちゃんに教えてもらうから。大地じゃ全然頼りにならないよ」
 と荷物をまとめて、さっさと図書館から出ていってしまった。

 くそぉ。しーこに、頼りにならないやつ、って思われた。

 てか勉強苦手なんだよ。これでもサッカーは、一年でレギュラーなんだからな。応援に来てくれる女の子もいるんだぞ。
 でも、しーこの基準は是光兄ぃだから、今のおれじゃきっとダメなんだ。
 図書館デートは、儚い夢だったぜ、くそ。

 テーブルに頭をゴツンと押しつけて落ち込んだあと、その頭をぐいっと上げてつぶやいた。

「よし、勉強しよ」

 次にしーこと図書館デートして、数学の問題を訊かれたら、すらすら説明できるように。


《頭条×朝衣》頭条22歳 朝衣21歳

「……何故、わたしの向かいの席に座るのかしら? 頭条くん」
「残念なことに、ここしか空いてないからだ」

 大学図書館のテーブルで、俺と朝衣は向かい合わせに座り、ノートパソコンを開いて互いの作業をしている。
 まったく、大学まで朝衣と一緒だなんて。
 しかも卒業後も、朝衣のことだから一生嫁にも行かず、帝門グループの経営に関わってくることは必須で、この先も延々と顔をつきあわせ続けることを考えて、めまいがした。

 誰でもいいから、どうか朝衣をもらってほしい。朝衣に、慎ましく賢い妻として、家庭を守る喜びを教えてくれる男性が現れてくれたら、オレは生涯彼に感謝し援助を惜しまないだろう。

 真剣に願う俺に、朝衣が嫌味な口調で言ってくる。
「頭条くん、先日、町の図書館で、中学生の女の子と横並びに密着して、数学を教えていたそうね。頭条の長男が援助交際しているだなんて噂が立ったら、帝門の威信に関わるから、控えてほしいものだわ」
 またその話か。
 俺も負けじと言ってやる。
「朝衣こそ、図書館で男子中学生とあやしげな雰囲気だったと聞いているぞ。男子中学生の隣で、赤面していたそうだな」
「……たまたま風邪をひいていて、熱があったのよ。あの子には英語を教えていただけ。十四歳以下の女の子と頻繁にホテルに出入りしている誰かさんと一緒にしないで」
「……ホテルのラウンジやレストランを利用しているだけだ。誤解をまねく言いかたは慎んでくれ」
「けど実際噂になっているわ。頭条の長男が、二十歳を過ぎても女性とのつきあいがまったくないのは、ロリコンだからかって。お見合い、また断ったそうね」
「事前調査で、相手の女性に難があったからだ」
「どうせ、自分の前に交際相手がいたとか、くだらない理由でしょう。頭条くんは女性に対して夢を見すぎだし、完璧を求めすぎよ。それじゃあ一生結婚は無理ね」
「朝衣には縁談も来ないらしいがな。打診しても、相手の男が『自分は朝衣さんの期待に応えられるような器ではないので』と全員逃げ腰だそうじゃないか。朝衣こそ、その完璧主義と愛想のなさを改善しないかぎり、見合いすらできないんじゃないか」
「それで結構よ。わたしは自分を下げてまで、他人に気に入られたくないわ」
「俺も一生をともにする女性に、妥協したくないのでね」

 自分が面倒くさい人間であることは百も承知だ。
 だが朝衣よりは千倍増しだ。
 そう思う俺の向かいで、朝衣もまたひんやりした顔で、同じことを考えているかもしれなかった。

 ◆◆◆
 ちょっとあとがきです☺️🌷

 というわけで、『図書館デート』の発売に便乗して、中学生のしーこちゃんを書いてしまいました。無敵の美少女になったしーこちゃんのお相手は、頭条さんなのでしょうか? 大地くんなのでしょうか? 仮にしーこちゃんが大地くんとまとまった場合も、頭条さんと朝衣さんのあいだに恋が生まれることはやっぱりなさそうですが、似たもの同士で、あれこれ言い合っている二人も、いいものです☺️
 『図書館デート』のお題は、他の作品でも色々想像が広がるので、また遊んでみたいです。『世々と海くんの図書館デート』のほうも、どうぞよろしくお願いいたします。化け狐の世々ちゃんと、中学生の男の子の海くんの初々しいラブストーリーですよ~🙏☺️

 ※イラストその他、ファミ通文庫さんのご許可をいただいております🙇‍♀️   

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