Ventures Report 〜認知症診断テスト〜
Plug and Play VenturesのHaruです。今後1つのトピックに絞った現状分析と予測をしていきます。初回は高齢化に伴い今後も患者数の増加が予想される認知症にフォーカスします。認知症の現状についてまとめた後、認知症診断テストに取り組む国内外のスタートアップをご紹介、競合分析を行います。
認知症の概要
認知症は記憶・思考・行動・日常生活の活動能力が低下する症候群です。WHOによると、世界全体では約5,000万人の認知症患者がおり、新規発症患者数も年間1,000万人と非常に多くなっています。また、総務省統計局によると、日本の全人口に占める高齢者割合(65歳以上)は2020年9月時点で28.7%と世界一です。
厚労省によると、2013年時点で65歳以上高齢者約3,079万人のうち、認知症高齢者は約462万人(有病率約15%)と推定。また、認知症の一歩前段階と言われている軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment: MCI)の数も別推計では400万人程度いるとされています。つまり、65歳以上高齢者人口のうち、約4人に1人は認知症 or MCIと推定されます。
あまり新しい統計データが見当たりませんでしたが、今後も高齢者割合が高くなっていくと推定されるため、認知症およびMCI患者割合も増加していくと考えられます。
種類
その原因疾患によって約70種類に分類されますが、割合が多いのが、アルツハイマー型、脳血管性、レビー小体型の3つです。このうち、アルツハイマー 型が60%以上を占めると言われています。
原因
アミロイド仮説:最も割合が高いアルツハイマー 型認知症では、βタンパクやタウタンパクと呼ばれる異常タンパク質が脳中に蓄積し、神経細胞が壊れます。その結果、脳が萎縮してしまいます。部位としては、記憶を司る海馬という領域から萎縮が始まり、脳全体に広がっていきます。
しかし、アミロイド仮説を基に多くの研究がなされてきたものの、いまだ原因が特定されているわけではありません。この他、オリゴマー仮説、コリン仮説、グルタミン酸仮説など別のアプローチも取られています。
症状
認知症の3大原因疾患(アルツハイマー型、脳血管性、レビー小体型)の症状をまとめました。
また、認知症とMCIの違いは下記です。
認知症:認知機能が低下し、日常生活に影響がみられる
MCI:認知機能が低下しているが、日常生活には影響がみられない
認知症になる前段階のMCIの状態から治療介入し、認知症への移行を阻止/遅らせることが求められます。
診断
認知症の検査・診断は下記の流れで実施されます。神経心理検査には長谷川式スケールという質問表やMMSE検査(ミニメンタルステート検査)の他、ペーパー版/Web版の認知症自己診断テストなどいくつかのテストが使用されています。
治療
日本国内で認知症に対する薬としては、4種類(アリセプト、レミニール、リバスタッチパッチ/イクセロンパッチ、メマリー)が上市されています。認知症の型や症状により使い分けられますが、現時点ではアルツハイマー型認知症により失ってしまった記憶能力を回復する薬はなく、症状の進行を遅らせるに留まります。
認知症治療薬の新薬開発はこれまで多くの臨床試験が進められてきましたが、難易度が高くどこも成功には至っていません。
直近では、バイオジェンとエーザイが開発しているアルツハイマー病治療薬アデュカヌマブの欧州医薬品庁(EMA)への販売承認申請が受理されましたが、米食品医薬品局(FDA)の諮問委員会では、認知機能低下の進行を抑えるエビデンスは不十分との見解が出ています。また、アデュカヌマブは抗体医薬品(バイオ医薬品)であるため、通常の薬剤と比較して非常に高額になり患者・国の医療費負担を圧迫する恐れもあります。
認知症診断テストに取り組むスタートアップ
認知症診断に用いられる質問表について、日本ではペーパーベースで実施することも多くあるようですが、近年はWebベースのテストや脳トレAppによる認知症/MCI予防が盛んにみられるようになりました。
認知症診断テストを実施するスタートアップ を下記にまとめました。(Cambridge CognitionとCogstateは既にIPOしているためスタートアップではなく上場企業ですが、今回はベンチマークとして置いています。)
ポジショニングマップ
13社をまとめました。縦軸は下の方がWeb/モバイルAppベースの診断テストを提供している企業、上にいくほどテスト中に音声インストラクションがついたり、音声データを録音・解析するなど音声要素が強くなっています。横軸は臨床試験のフェーズで区分しており、公開情報でわかる範囲で、右に行くほど臨床試験が進み、FDA承認となります。
この中から特徴的な3社をピックアップします。
IPOしているCambridge Cognition(米国)は2019年7月に製薬大手とのパートナーシップを発表しており、同社が開発するCANTABによる音声インストラクション付き認知機能アセスメント・ソフトウェアだけでなく、NeuroVocalix TMプラットフォーム(音声ベースの認知評価を自動的に管理)を開発し認知症に対する音声アプローチを強化していると考えられます。
また、Pure Therapeuticsのスピンアウト企業であるSONDE Health(米国)は、6秒の音声サンプルを用いてCOVID-19を含む呼吸器疾患のリスク診断ソリューションを提供しています。同社は2020年8月にNeuroLex買収を発表しており、収集した音声データを用いアルツハイマー病に対する研究開発も開始しています。今後は簡易な脳トレ形式のWeb/Appテストだけでなく、非常に手軽で所要時間も短い音声による体調変化、認知機能診断が進んでいく可能性があります。
neurotrack(米国)は、音声ではなくスマホを約5分間見つめている際の眼球運動を分析(アイ・トラッキング)することで脳の認知機能アセスメントを行います。「ニューロトラック認知機能テスト」として、第一生命と戦略的パートナーシップを締結し、「健康第一」認知症予防アプリに搭載されました。
競合分析
上記3社を公開情報ベースで比較したのが下記チャートです。
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Plug and Play Ventures, Harunori Oiwa
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