2021年注目のTop 10デジタルヘルススタートアップ
(本記事は米国クリーブランドオフィスのSenior Ventures Associate, Julianne Rosemanの記事を翻訳し、一部補足したものです)
2020年は、ヘルスケアが新たな局面へと押し上げられ、ヘルススタートアップが新たな展望を作り出す上で重要な役割を果たしました。バーチャルケア・サービスが広く採用され、デジタル化の取り組みが加速し、初のソフトウェアのみによる治療がFDAによって承認されました。COVID-19ワクチンが登場した一方で、2021年は昨年と同様、ヘルスケアに注目が集まり、この領域に多額の資金が投入されるでしょう。
本記事では、患者と医療従事者にとって、ヘルスケアをより良いものにするヘルススタートアップを10社紹介します。
補足:2021Q1のデジタルヘルス資金調達
MobiHealthNews(2021/4/2)の報告によると、2021年Q1のデジタルヘルス領域の資金調達額は$7.1B。2020年Q1の$2.9Bと比較すると約2.4倍に増加。件数は99件であり、Ro社(シリーズD、$500M調達)など件数増加に加え、Later stageの調達が多いことも合計額に影響。また、$100M以上の大型資金調達は28件。
デジタル治療
1. Second Nature(セカンドネイチャー)
心疾患、がん、糖尿病などの慢性疾患は、米国における死亡や障害の主な原因であり、医療費の主要因でもあります。Second Nature社は、生活習慣を改善することで、患者の永続的な健康を目指しています。同社は、肥満に対処するための12週間のデジタルプログラムを提供しており、バーチャルサポートグループ、教育、体重・食事量・運動量の記録オプションを提供しています。同社のようなソリューションにより、患者はより健康で長い人生を送ることができます。
2. Meru Health(メルヘルス)
パンデミックが2021年も世界中の日常生活に影響を与え続ける中、メンタルヘルスに対するソリューションが今まで以上に求められています。Meru Health社は、不安、うつ、燃え尽き症候群に対処するための12週間のバーチャルプログラムを提供しています。このプログラムでは、ライセンスを持つセラピストや精神科医からのアドバイス、匿名のピアサポート、バイオフィードバック、習慣を変えるためのアクティビティ、マインドフルネスの実践など、総合的なサポートを受けることができます。デジタルソリューションは、患者が最も助けを必要としている時に、患者がいる場所で提供することができるため、医療アクセスを大幅に改善します。
ブレインヘルス
3. LivNao(リブナオ)
健康や医療の分野では、「予防は最良の治療である」という言葉がよく使われます。Livnao社は、この格言の如く、ユーザーを受動的に追跡し、メンタルヘルス状態の変化を早期に示す指標を提供するヘルスケアスタートアップです。これにより、同社はジャストインタイムでの介入を可能にし、組織、保険企業、ヘルスケアシステムが個人と共にデータに基づいたより良い意思決定を可能にします。同社は燃え尽き症候群の予防ツールとして始まり、この1年で急速に拡大し、パンデミック時の契約者の追跡にもこの技術を応用することができます。
4. Novoic(ノヴォイック)
メンタルヘルスにとどまらず、アルツハイマー病、認知症(※)、脳卒中にかかる医療費の総コストは、2030年までに1兆ドルを超えると予想されています。Novoic社は、包括的な音声分析を用いて、現在の診断方法よりも数十年早く神経疾患を検出します。音声パターンの微妙な変化をAIで識別・監視することで、臨床医はより早く介入し、患者の最良の健康状態をサポートすることができます。
補足:音声分析を含む認知症の診断方法に関する記事はこちら
在宅診断
5. Hyfe(ハイフ)
近年、声のバイオマーカーはデジタルヘルスの分野で進捗を見せました。これを咳の検出や分析に応用して、COVID-19や結核などの感染症、さらには慢性疾患をサポートできる可能性があります。この種のバーチャル診断は、迅速、手頃な価格(人々が持っているスマートフォンを利用する)で、地域を問わず(農村部、都市部、発展途上国関係なく)利用できます。Hyfe社の特徴は、自然に発生する咳を追跡できることであり、強制的に発生させた咳よりも多くのデータ変数(咳の頻度、時間帯、コンテキスト、振幅など)を得ることができます。
6. TestCard(テストカード)
健康状態が良好であったとしても、定期的に健康診断を受けなければいけないことに、億劫で厄介だと感じる人は多いのではないでしょうか。しかし、技術の進歩と創意工夫により、このような検査体験を変え、検査の幅を広げることができます。TestCard社は、低コストで迅速に結果が得られる、家庭での健康診断ソリューションです。同社は器具の挿入などが無く身体に負担のかからない非侵襲の尿検査キットを提供しています。QRコードのついた検査紙と専用アプリを連動しており、QRコードを読み込むことで自分の健康状態をチェックすることができます。診断がより快適に、身近に、そして手頃な価格で行われるようになることを期待しています。
7. curex(キュレックス)
在宅診断を行ううえで、血液検査は非常に有効です。curex社は、自宅でのアレルギー検査、医師へのオンライン相談、アレルギー治療サービスを提供しています。
米国では約3,750万人が環境アレルギーに苦しんでいます。免疫療法は、症状を治療するだけでなく、アレルゲンに対する体の反応を抑える効果のある治療法です。かつては診察室でしか受けられないと思われていた治療法が、自宅で指先から簡単に採血する血液検査キットで、原因となっているアレルゲンを特定することができます。同社は、遠隔医療によって患者を医師につなぎ、治療計画を立て、一般的なアレルギー注射に代わる痛みのないアレルギードロップ療法を受けることができます。
医療アクセス
8. mira(ミラ)
米国では「医療費負担適正化法(アフォーダブル・ケア・アクト)」が施行され、より多くの人に健康保険が適用されるようになりましたが、依然として多くの人が保険に加入しておらず、予防医療を受けられなかったり、医療費の支払いに苦慮しています。今回のパンデミックでは、多くのアメリカ人が職を失い、家計を圧迫したことで、この問題に拍車がかかりました。Mira社は、パートナークリニックのベーシックな医療サービスを定額で利用できる、手頃な月額会員プランを提供しています。入院や手術など、従来の健康保険の適用範囲全てをカバーしているわけではありませんが、保険の範囲を広げることで、健康を維持するための選択を増やすことができます。
9. Care Advisors(ケアアドバイザーズ)
近年、医療保険や医療へのアクセスが進歩したにもかかわらず、病院への受診を避けられない場合があります。病院は、救急外来や診察料を払えない無保険の患者を治療することで、年間2,100万ドルの損失を出しています。
医療保険加入が難しい低所得層は、メディケイドやメディケアの対象となることが多いのですが、オンボード支援や他の医療サービスへのアクセスが必要です。ヘルスケア分野の新興企業であるCare Advisors社は、病院や医療保険プランのために、社会福祉の福利厚生に迅速にアクセスできるようにしています。患者は、必要に応じた医療だけでなく、健康全般のサポートを受けられるようになります。
デジタライゼーション
10. helium health(ヘリウムヘルス)
多くの新興市場では、デジタルトランスフォーメーションが遅れています。ヘルスケアの領域では、紙ベースでの情報管理が多く、非効率な情報管理や情報の煩雑化、情報の質の低下などの課題があるため、医療の質が低下し、業界発展の機会も少なくなります。一方で、新興国では中流階級の増加、急速な都市化、ライフスタイルの欧米化が進んでおり、心血管疾患、がん、糖尿病などの非感染性疾患が増加しています。
helium health社は、アフリカをはじめとする新興市場の医療関係者(ヘルスケアプロバイダー、医療費支払者、患者、政府)のために、デジタルインフラとして機能する一連のソフトウェアソリューションを開発しました。このようにして同社は、利害関係者が研究、資源配分、スマートな政策立案、市場参入に活用できるデータネットワークを構築しています。
いかがでしたでしょうか。米国ではデジタルヘルスと一口に言っても、デジタル治療、ブレインヘルス、在宅診断、医療アクセス、DXと幅広いですよね。日本でもCure App社のニコチン依存症を対象とした治療Appが2020年12月に薬価収載、保険適用対象機器となり、既に販売が開始されています。同社は2021年3月に21億円の資金調達を完了し、累計調達額は64億円、自治医科大学と共同研究を進めてきた高血圧治療Appの治験も終了しています。今後日本からも多くのデジタルヘルス領域のスタートアップが活躍してくれることを期待しています。
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