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起承転 結/多分、人を好きにならない…彼 /知らない鍵

起承転
わたしのパートナーは調律師
 知らない鍵

あの日から彼の軌跡を
たどった日から
少しだけ
彼に近寄れた気がしていた

ただ、彼の行きたいところに行っただけなのに
わたしを連れて行ってくれた事に
彼に認められたのか?と
うれしかった

相変わらず透明の壁があるけど
高さが低くなってるように思ってた

今日、ちょっと遅くなりそうだから
 うん、わかった

最近、残業が多いのはなぜだろう

少し前から
彼のキーホルダーに
知らない鍵が付いていた

どこの鍵だろう
気になっていたが
聞くのをためらっていた

拓実先輩、最近残業多いよね
 変わった調律の仕事があるんだ
そーなの?
変わってるって?
 いつもと違う感じだ
 じゃあ、行ってくるね

そう言って出かけた
毎回、答えにならない答え
不安だけがわたしのこころに
少しずつ蓄積していく

その夜、彼は帰ってこなかった

朝早く帰ってきた彼は
ごめん、起こした?
 起きてた
 連絡ないし
 怖くて
ごめん、仕事先で
 そんな遅くに調律の仕事あるの?
うん
 うそ!

ウソをつく人じゃない事はわかっていた
だけど、不安でたまらない

苦しいよ、拓実先輩
わたし何も知らないし
聞いても答え返ってこないし

わたしのこと
好きなのかどうかも分からない
拓実先輩はずっと
人を好きにならないの
私のことも?
鍵の人のことも?

鍵?あれは
だだのお客さんの鍵だよ

なにを考えてるかわからなくて
不安で苦しいよ

泣きながら訴えていた
彼は申し訳なさそうに
ごめん
とだけ言った

真美ちゃん
もう、実家に帰った方がいいよ
僕は、真美ちゃんを
幸せにできないとおもう
真美ちゃんには
いつでも、笑っててほしい

笑ってる真美ちゃんをみるのが好きだよ

ずるいよ
拓実先輩は
好きになるのが怖いだけでしょ
好きになった人が
どこかに行ってしまうのが嫌で
好きにならないだけでしょ

わたしは大丈夫だから
どこにも行かない
ずっと、一緒にいるから
約束するから

彼はわたしの言葉に動揺していた
初めて見た
あんな顔…
彼は小さな少年のようだった

ごめん
真実ちゃんの言う通りだ
ずるいよね
好きにならないと言いながら
君を受け入れてる
君と一緒にいるのが楽しくて
手放せなかった

彼の気持ち初めて知った


それからわたしたち
長いことふたりで語り合った

彼はわたしの質問に
丁寧にゆっくりと答えていた

彼は重い鎧を少しずつ脱いでいった
軽くなった彼は
最初に会った時のように

ちょっと恥ずかしそうに
両エクボで笑った

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