【シロクマ文芸部】愛せないひと。
#愛は犬 お題参加します。
愛は犬に注ぐのよ私は。
そう言って彼女は薄い笑みを浮かべた。その腕に抱かれているのは、愛らしいトイ・プードル。黒い瞳が私を見上げている。安心しているかのようで、どこか切なげな目。その瞳は飼い主のそれにどこか似ていた。
「あなたを愛する人は沢山いるんだよ」
彼女の言葉を聞いて、私はそう言葉を掛けた。
「ふふ。ありがとう。でもいいの、もう。愛することに飽きたのよ、私。愛されなくてもいい。人と人は、対立しなければそれだけで充分。後は何もいらないわ」
分からなくはない。その気持ちは私も時に抱いてしまう厭世観だ。けれど、それでは、それだけでは。
「ひとつ訊いてもいいかな」
「ええ。何かしら」
「あなたを愛する私の気持ちは、どこに置けばいいのかな。要らないの?私の気持ちは」
私の言葉を聞いて、彼女は黒い瞳を見開いた。濡れがちな黒い目は、愛する犬とどこかが似ている。その瞳が笑みの形へと変わった。
「ありがとう。前向きに検討させてもらうわ」
「えー?なにそれ。まあいいです。前向きになってくれたなら、まずはよしとしましょう」
友愛すら彼女は欲しないのだろう。それほど人を愛し、その愛を握りつぶされてきた彼女の傍らで、私はただひとりの友として彼女の瞳を見つめていた。
お題:#愛は犬
拙稿題名:愛せないひと。
文字数:522字(原稿用紙一枚半相当)
今朝2023/09/08(5時頃)お題を知り、「三十分制限で書く」的に一発書き💦それも修行の一環かと。どうかご笑覧賜りたく。
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#120日目
拙稿をお心のどこかに置いて頂ければ、これ以上の喜びはありません。ありがとうございます。