更紙《ざらがみ》に纏わるあれこれ【秋ピリカグランプリ2024】参加記事
「ピリカグランプリ」初参加です。貼り付け記事以下、参ります。
今更、わら半紙と関わることになろうとは。それもこんなに沢山の紙と。私は目の前にうず高く積み上げられた書類の山に視線を送り、ふっと溜息をついた。
今やっているのは、担当地区へ配布する注意書きの小さなプリントを作る、というもの。地方公務員である私は、地域安全に関わる分野に所属している。その地域安全に関わるプリントを作っている。
注意書きの文章は、予め印刷されていた。定規とカッターを使って、1枚を4等分したサイズにそれを切り、注意のシンボルマーク、そのゴム印を押していく。その数は100を越え、数えるのを止めた。わら半紙のそれに、連番は打たれていなかった。
雑に押したゴム印は擦れて視認性が悪くなる。仮初めにもお役所の用紙である、鮮明に押印されるよう、1枚1枚チェックしつつ、力加減が均等になるよう留意しながら、私はわら半紙にゴム印を押し続けていた。
「あれ?まだやってたの?もう終業時間だよ。真面目だなぁ」
私の手元を覗き込むようにしながら声を掛けてきたのは、同期の涼子。仕事の速さでは定評がある。如才ないという言葉には正負の意味合いがあるが、その双方を持つ女性。
「まあね。もう少しで区切りが付くと思うけど」
私がそう答えを返すと、「程々にね。明日は食事にいく予定、忘れないでよ」と言い残し、涼子は帰宅の途についた。
雑用だと自覚している。けれど仕事するなら綺麗に終わらせたい。その気持ちが消えず、独り自嘲する。貧乏性だなと。
「お疲れさま。そろそろ終わりそうかしら?」
気が付くと、部長が私の後ろに立っていた。
「部長、お疲れさまです。時間が掛かって申し訳ございません。最終チェックをしていました。後少しで報告に伺うつもりだったのですが」
私の言葉に「気にしないで、ついでがあって寄っただけだから」と答えを返し、佐久間部長は私が作成していたプリントの山から1枚を手に取った。
「綺麗に押せているわね、ゴム印」
「ありがとうございます。かすれが出ないように気を付けたつもりですが、これでよろしかったでしょうか?」
私がそう問うと、「ええ、充分よ」と言いながら佐久間部長が頷いた。そのまま言葉を繋ぐ。
「雑用だと思うと、ついなおざりになるのよね、仕事が。このわら半紙も公のもの、丁寧に扱わないとね。初心を思い出したわ。ありがとう、お疲れさまでした」
そう言って、「これは受理したから私が預かるわね」と言って、わら半紙の束を手に室内から廊下へと出て行った。
「わら半紙も悪いものじゃないかも……なんて、現金だな、私も」
更紙のくすんだ色が少しだけ輝いて見えた、ある日の小さな出来事だった。
拙稿題名:更紙に纏わるあれこれ
総字数:1081字
よろしくお願い申し上げます。