【シロクマ文芸部】文化祭は終わっても
#シロクマ文芸部 「文化祭」からはじまる~ 企画に参加します。
「文化祭の写真なんて、よく持っていたね。私はとっくに無くしちゃったけど」
久し振りに私の部屋を訪れた旧友がそう言った。持っていたというよりも、捨てられなかったというのが正確なところなのだけれど。それは口にせず、私は掛けられた言葉に答えを返す。
「うん、まあね。ほら、私ってさ物持ちがいいでしょ?昔から」
「あはは。それもそうだね。それにしても、高校時代の私たち、若いなぁ」
「若いって……大人になっていないころだもの、あたりまえじゃない」
少しセピアがかった1枚の写真を一緒に見て、友と私は一緒に笑った。
捨てられなかったのには理由がある。好きだった人が写っていたからだ。その人に好きだと告げられなかったのは、彼が目の前にいる友人、その夫となる人だったからだ。
2人は高校時代からお似合いだった。いわゆる公認カップル、とても言ったらいいだろうか。高校卒業後も2人は順調に交際を重ね、今から半年前に結婚した。その披露宴で新婦友人代表スピーチを務めたのがこの私。
「ほら見て。マイク前のあなた、凄く格好いいわよ。いいスピーチだったなぁ、あれは」
「それはどうも。言葉は短かったけどね。喜んでいただけてなによりです」
私たちが眺める写真は、高校時代の文化祭から披露宴会場でのスナップに変わっていた。新婦の友人代表スピーチは、いわばトリである。来賓、新郎友人代表とスピーチが続き、参列客がほどよく飽きてきたころにスピーチの順番が回ってくる。
スピーチを依頼され、私は知人の司会業の人に相談した。心がけることは何かと。すると「短いほうがいいよ。みんな飽きてうんざりしてるから、きっと」と答えが返ってきた。なるほどと、ひねり出した言葉は次の通り。
私と長く友人でいてくれるAさんは、とても忍耐力のある素敵な女性です。私の我儘を長年受け入れてくれたのです。そして今、私は皆様の前に立つことができております。その彼女が選び、彼女を選んだ新郎のDさん。その方が素敵でないはずはありません。私はお二人の幸せを確信しております。お二人が比翼の鳥・連理の枝の言葉以上の素晴らしい家庭を築いていかれることを確信し、お祝いの言葉に代えさせていただきます。この度は本当におめでとうございました。
「あれは凄かった。大企業の会長さんが深く頷いて聞き惚れていたよ。よく一息で言えたね『比翼の鳥・連理の枝』。難しくてカンペ見ないと言えないわよ、私は」
「あはは。まあ、文章を書くことだけが取り柄ですから私は。何とか、ね」
私は大学卒業後、某出版社に就職、5年ほど勤務の後、フリーライターとして独立した。今は文筆で何とか暮らしている。色々なことを綴ってきた。時には実体験を交えながら。けれど一生書けず、口にできないこと。それがDさんを今も好きだということだ。捨てられぬ思いを秘めながら、今も私はDさんの妻となった彼女の隣で笑っている。笑わなければ、いけないから。
拙稿題名 文化祭は終わっても
文字数:1197(原稿用紙3枚相当)
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