【本紹介】自閉症とサバンな人たち 石坂好樹 (第2章)
私たちは生きていく上で、「知性」を必要とする。
→この場合の知性は自然環境を知覚する知性だけでなく、人間環境を把握する知性も含まれる
知性とは・・・
目的に合うように行動し、合理的に思考し、自分の環境を効果的に処理する総合的な能力(※知性の捉え方は人それぞれである。)
サバンの出現
知能はどのような知的機能で構成される?
初期の考え方
スピアマン・・・一般知能因子+特殊因子で構成される
ギルフォード・・・3次元の構成因子があり、それぞれ4種類の内容・5種類の知的操作・6種類の形式の因子からなる
※しかしこれらの考え方には心の理論が含まれていない
その後
一般知能というものは存在せず、知的活動は多くの知能の複合体である。(ガードナー)
脳の活動はモジュールである(フォーダー) という考え方が生まれる
※モジュールとは・・・部品のこと。それぞれの部品が独立して存在しているという考え(?)
→これらを如実に表しているのが自閉症であり、サバン
サヴァンという概念
ダウンによるイデオ・サヴァンの発見
精神遅滞でありながら特異な知能のひらめきを示す症例を10例提示した
イデオ=白痴 サヴァン=賢者 という意味をくっつけて彼らのことをイデオ・サヴァンと呼んだ
サヴァンとは
その後サヴァンの定義づけがいろんな人物によって行われる
精神遅滞でない人に期待されるスキルよりも優れたスキルを一つあるいはそれ以上示す精神遅滞者(リムランド)
ある領域で、基準以上の優れた能力を発揮することであり、全体の機能と発揮される優れた能力の間に一定の乖離があることである。(K.ミラー)
→この定義は自己の内部の諸能力の間の比較が重視されており、他者との比較は考慮されていない(その人が平均と比べてどの程度の知能であるかは不問)
↓サヴァンは必ずしも知的障害がなくても存在することがわかる
何らかの障害を有して(必ずしも知的障害がなくても)、しかもある特定の領域で優れた知的スキルを発揮する人
→一般的な知能と様々な能力はある程度比例していると常識的に考えられている中で、稀にある個体に特別な能力が出現する。これがサヴァン。
サヴァンの出現率
・サヴァンは、一般な知的障害者に比べると自閉症者に多くみられる?
→160倍!
・どっちみち、サヴァンの頻度は非常に稀であるが自閉症だけで考えると
ある調査では3分の1が特異な認知スキルを持っていることがわかっている
→サヴァンと自閉症には特別なつながりを有する
※サヴァンのスキルの多くは生活スキルとあまり関係のないことが多い。
そのため、サヴァン=社会生活上有利 とは限らない
サヴァン能力の種類
リムランドの記録
音楽的サヴァン 63例
記憶サヴァン 48例
美術サヴァン 23例
数学サヴァン 27例
機械サヴァン 17例
知覚サヴァン 4例
サロヴェーラの調査
カレンダー計算 62%
記憶 29%
美術 13%
音楽 7%
機械 4%
数学 2%
2つ以上の能力を持っているサヴァン 16%
→言語的能力以外で能力を発揮する?
(一概にそうとも限らない)
それぞれ様々な異なる領域が突出していることがわかる
→人間の能力はモジュール(部品)の総合であり、ときにはそれぞれのモジュールが突出して機能する場合のあることがわかる
自閉症の知的機能は均一ではなく、雑多である
サヴァン成立の要因
なんで自閉症によくサヴァンが出現するのか?
→疑問:サヴァンはなぜ限られた能力を示すのか
→疑問:それらは脳の機能とどのようにつながっているのか
結論:未だ解明できていない
様々な可能性は研究されている(図)
※これらの仮説は全てこれだけでは説明がつかないと言われている
直感イメージが関与しているのでは?
→全盲でも同能力を発揮しているサヴァンもいる
記憶
→機械的な記憶(過去の記憶)だけでは説明がつかない。何十年後の何月何日が何曜日がわかることにはならない
持続的な反復、ルールの獲得とその適応
→これだけでは説明できない。例えば20桁の素数を言い当てる能力を持っているサヴァンがいるがこれは訓練によって到達できるものではない。素数を見つけるルールというものも存在していない。
能力発揮の促進要因として
「反復」「没頭」があるのでは(いわゆる自閉的思考)
→サヴァンにとって能力の行使は「快」をもたらす遊びなのだ
快が結びつくから没頭が生じるというケースもありうる
サヴァンの神経学的基盤
左脳の障害と右脳の活動
右脳・・・音楽や絵画などに関連している。同時的処理。
左脳・・・継時的処理
複雑な計算様式も自動化されており、同時的処理されるようになり得る
仮説は提出されているが
自閉症のサヴァンが行なっているルールを脳がどのように実行しているかは謎
どうしてそのルールが発見されたかを知ることが難しい
サヴァンの成り立ち
有能なサヴァンは訓練によって成り立ち ※遺伝で説明がつくこともある
驚異的サヴァンは左脳の損傷とそれに対する代償機能の働きによって成り立つ ※補償や強化で説明がつくこともある
記憶回路について
驚異的サヴァンは一般的に用いられる認知機能が不全であることで、代償回路として認知によらない高度に発達した「習慣」記憶用いられている
→これらの仮説は神経回路のどのような働きが特異な能力のために機能しているかは説明されていない
最も有望な仮説(今の所否定する根拠がない)
脳というのは領域間の統合が行われて機能しているが
自閉症者はその統合機能が低下していて、結合機能障害が生じている代わりに、局所的な機能が強化・亢進されているのでは
美術的サヴァン
サヴァンの持つスキルの中で、職業として有用となるスキルの一つ
美術的サヴァンの特徴
(自閉症としての特徴を除いて記載)
①限られた技法を用いる
②書くテーマも限られている(ほとんど人間を描かない)
③視覚スキル、視覚記憶のスキルに優れている
サヴァンの美術スキルは知的能力とは独立した能力であり
サヴァンはイメージ記憶に優れている?
サヴァンは不完全な絵を頼りに物を同定するのに優れている
→画像目録をもとに画像を構成する能力に優れている
貼り絵師の山下清
山下清という人物
・旅に出て、途中で何かしらの事情(天候・体力など)があるたびに出発点(八幡学園)に戻る。戻ってから旅の日記を文と貼り絵で残した
→巨大な記憶能力(時系列に沿ってことごとく記憶されている)
・彼の各文章には句読点や段落もない
・さまざまな「ので」が多用されていて、論理が通ってない部分がある(文章の理解が難しい)→場面の切り替わりの符号?
・彼の記憶は画像的なのではないか?
EX「〜ので、〜ので、〜ので千葉で使ってもらおうと思っておりました」
という文章の〜のでは必ずしも理由になっておらず、刺激されて浮かんできたものがそのまま記述されているに過ぎない。
→その時々に考えたことが、一時に体験されたこととして、一つの画像のように描かれているのでは?
・感情表現の乏しさ
→撮影機で録画した記録をそのまま取り出したかのような文
視覚的記憶
自閉症の特徴?
文字や数字はイメージに置き換えて記憶する
→例えば・・・数字の6は足の太い人 数字の7は髭の長い人
本人の中でイメージの心像風景を構築していく
→山下の絵も、彼の出来事をひとまとめにしてあらわしたものであり、日記と同じ内容の体験を別の表現方法で表した。絵=日記
彼の絵の特徴
・彼の絵の特徴として、「中空視角」といって画家の視線が30度ほど上空から見下ろす形で描かれている。また、作品「精神病院」では山下自身が小さく描かれている
→これも彼の絵が心像として描かれていることを示している
・山下の作品は「切り絵」しかほとんど使わない(サヴァンは特定の技法を用いることが多い)
なぜサヴァンの絵は我々の興味を引くのか
答え:サヴァンは初期視覚像モジュールの産物に直接接近可能であるから
(加工されない初期的絵画)
普通は、対象を視覚する際に、いろんな情報を落としてしまう。その上で歪めてみてしまう
→自閉症は特有の認知機能によって、一般にはアクセスできない下位レベルの神経情報(事物の表象のための特質)に接続可能なのではないか