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フィジカルコーチとして育成年代にできる事vol.3〜成長過程と個人差〜

育成年代に関わるということは子供たちが子供から大人になる過程に関わるということです。そして子供は小さい大人ではないと言われるように、練習やトレーニングをする際には、大人とは違った子供の特徴を考慮し指導にあたらないといけません。

仮に不適切な指導や程度の低い教育学的アプローチをしてしまうと、トレーニングに対する適応が減少してしまったり、場合によっては障害を招いたり、快適な生活や健康を損なうことにもつながってしまいます。

そこで今回は育成年代に関わる指導者や保護者にとって必須になる成長過程と個人差について説明していきたいと思います。

成長過程


まずは成長期に使われる発育、発達、成熟の言葉の定義についてから説明します。

発育 身体のサイズまたは身体の一部が大きくなることを意味する
発達 胎児から成人までの一般的な成長
成熟 成育し、機能的に完成する過程
思春期 二次性徴が出現し、子供が若年成人へ移行する期間

そしておおよそ子供たちの成長は前青年期(女児2~10歳、男児2~11歳)と青年期(女子11〜19歳、男子12〜19歳)の2つに分けられ個人個人で成長のスピードが異なります。

-骨の成長


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子供の骨の成長は、骨端軟骨板や成長軟骨で起こり骨端軟骨板が完全に骨化すると、長管骨の成長は終わります。

子供たちは外傷やオーバーユースによって成長軟骨を痛めやすい特徴があり、剥離骨折や疲労骨折などが発生しやすいです。そして成長軟骨が障害を受けると、骨への血液や栄養の供給が止まるおそれがあり、成長阻害も起こる可能性があります。


また骨量の増加のピークは身長の増加のピークの約半年後に現れ、その時期に一時的な骨密度の低下が起こり、傷害の要因になるようです。

-筋肉の成長


子供の筋量は成長するにつれて増加していき、出生時の筋量は体重のおよそ25%ですが、成人期にはその割合は体重のおよそ40%に増加します。

男子では思春期にホルモン濃度が顕著に増加し筋量が著しく増加します。
女子では筋量は思春期をかけて増加するものの、ホルモンの差により男子より緩やかに増加していきます。

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筋肉の成長は骨と比較して遅れて起こるため、急激に身長が成長した子供は一時的に柔軟性の低下が見られる可能性があります。

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また骨の急な成長に対して相対的に筋の柔軟性が低下し,腱を介して骨付着部に牽引ストレスがかかり、骨端症になる危険性が高まります。

-暦年齢と生物学的年齢


子供たちは成長段階に個人差があるため、暦年齢(誕生後の、暦に基づく年齢)と生物学的年齢が異なることがよくあります。

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例 同じ2008年生まれの12歳Aくん、Bくんでも生物学的年齢はAくん10歳Bくん13歳のようなことがあります。

このように同じ学年の子でも個人によって生物学的年齢が異なるため、小学6年生の成熟度はこのくらいだからこのトレーニングをしようという括り方をしてしまうと、子供によってはトレーニングの負荷が不適切になってしまい怪我をしてしまう可能性が出てきます。

それを防ぐためにも個人個人の成熟度を把握し個人差を考慮したトレーニングをデザインする必要が出てきます。

では個人の生物学的年齢を把握する方法は何があるでしょうか?

生物学的年齢の把握方法


生物学的年齢を把握する方法は3つあり、それぞれにメリットとデメリットが存在します。


-骨年齢の評価


骨年齢の評価は生物学的年齢を評価する上でもっとも信頼できる方法になります

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方法は子供の左手首の骨のX線画像を撮影し、基準となる尺度と比較して、骨化の程度を測定する方法です。

骨年齢は最も信頼できる方法ですが、コストや時間、人材、機材などの問題を考えると、育成年代の現場で使用するには非現実的な方法になってしまいます。

-PHV、PWVの推定


骨年齢の評価は現場レベルではなかなか難しいので大替案として簡便にできるものとしてPeak Height Velocity(PHV) とPeak Weight Velocity(PWV)の2つの方法があります。


身長や体重を定期的に測定することで個人の成熟度を予測できる方法です。

-PHV


PHVは簡単に言ってしまえば最も身長が伸びる時期で、思春期の開始と一致します。

男子では 13歳頃に経験し、平均8.3cm/年 5.8cm~13.1cm/年まで幅がある
女子では 11歳頃に経験し、平均9cm/年  5.4cm~11.2cm/年まで幅がある

PHVを推定するには、性別、生年月日、測定日、身長、体重、座高を収集し、収集したものを専用のエクセルファイルに打ち込むことでPHVを予測することができます。


そしてエクセルにデータを入力すると-3.4yearのように結果が出てきます。これはPHVの予測年齢から3.4歳離れていることを意味します。ここで出される負の値はPHVのプロセスが始まっていないことを示し、正の値はプロセスがすでに始まっていることが示されるようです。

この測定は女性では9-13歳男性では12-16歳ごろに行うことでより正確に予測が可能になり、個人の成熟度を推測するためにも年2~3回測定を行うことが推奨されます。

定期的に測定を行うことで、選手がPHVを迎えたのか見逃すことが防ぐことができ、個人個人に合わせた指導を行う上でも大切になっていきます。

※PHV予測するためのExcelファイル作成しました。もしよかったら活用してください。使いづらいなど感想ありましたらコメント頂けると嬉しいです。

Maturity Offset = −9.236 + 0.0002708·Leg Length and Sitting Height interaction −0.001663·Age and Leg Length interaction + 0.007216·Age and Sitting Height interaction + 0.02292·Weight by Height ratio,

Maturity Offset = −9.376 + 0.0001882·Leg Length and Sitting Height interaction + 0.0022·Age and Leg Length interaction + 0.005841·Age and Sitting Height interaction − 0.002658·Age and Weight interaction + 0.07693·Weight by Height ratio

↑を元に予測式作ったのでもし入力間違ってるとかありましたら教えてください


またこれとは別に、女性アスリート成長期サポート『スラリちゃん』というアプリもPHVの推測や成長期のコディション管理に使用できるので活用してみてください。

-PWV


PWVは体重の増加のピークを表し、PHVと同様に個人の成熟度を予測するのに使うことができます。


男子、女子共に思春期を迎える前は、身長平均5~6cm/年 体重平均2.5kg/年増加します。

PWVを迎えると、男子では平均9kg/年、女子では平均8.3kg/年増加し、男子ではPHVとほぼ同時期に起こり、女子ではPHVの約半年後に起こるようです。体重の測定はPHVの時と同様に年に2~3回行うことが推奨されます。


PWVはPHVとは違い体重を測るだけで、個人の成熟度を推定することができるので、クラブで身長計を所有していないチームでも簡便に測定ができるので導入がしやすいと思います。

ただ欠点として体重の増加は成長だけではなく、食事などの影響もあるので、より正確に成熟度を推定するにはPHVの予測を行うのが良いのかもしれません。


または身長、体重、座高を定期的に測定するのが難しいチームでも、学校の健康診断で必ず年に1回は身長、体重、座高の測定を行うので、そのデータを使いPHVを予測し、それ以外の測定の時は体重のみを測定し、PWVを予測するのが良い方法になるかもしれません。


個人差の考慮


ここまで子供たちの成長の過程と、個人の成熟度を推定する方法についてお話ししてきました。ここからは実際の指導現場で個人差を考慮した指導についてお話ししていきます。

小学生高学年〜中学生の指導をしているチームでは成長の早い(PHVを迎えている)子から成長の遅い(まだPHVを迎えていない)子まで様々な成熟度の子供達が混在していると思います。


そう言った状況のなかで指導をするときにはまずはPHVを迎える前と後でどのような特徴があるのか知っておくことが大切になっていきます。

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このような特徴があり、疲労からの回復は代謝機構の違いによりPHV前の方が回復が早く、成長軟骨の損傷はPHV後の方がリスクが高いです。

筋力はPHV後に筋量が増えることから分かるように、PHV後の方が高く同学年で成長度に差がある場合はPHV後の選手の方がパフォーマンスが高い傾向があります。またトレーニングの適応も成人に近づくことからPHV後の方が大人と似た適応になっていきます。


また同じ暦年齢でも成熟度の度合いが異なり、平均よりPHVを早く迎える子を早熟平均よりPHVを遅く迎える子を晩熟と言い、早熟、晩熟の子供でも注意することが異なります。

晩熟型の選手の方が早熟群と比較して有意に障害発生率が高くある文献によると晩熟の子供の方が障害の発生率が7倍ほど高いとされています。

その原因として、同じ練習をしたとしても、晩熟の子は早熟の子より練習の負荷が高いと感じることが多く負荷が適切でないことが原因のようです。

※障害と外傷の違いはvol.1に記載されています。

このように成熟度が異なる子供たちはでは考慮することが異なるため、個人の生物学的年齢を推定することと、それに基づいた指導を行うことが子供たちの怪我を防いだり、パフォーマンスを適切に上げるためには必要になっていきます。

では具体的には個々に合わせて指導を行うにはどうすれば良いのでしょうか?

内的負荷の管理


練習の負荷は大きく分けて外的負荷と内的負荷に分けられます。

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外的負荷は、走行距離や挙上重量(◯◯kgを何回持ち上げた)、練習時間などで表され、内的負荷は、心拍数や主観的な運動強度など個人が感じた負荷を表します。

先ほどの文献では晩熟の子は同じ練習時間(外的負荷)でも内的負荷が大きいと感じやすいため、日々内的負荷を管理することでオーバートレーニングを防ぐことができ、障害の発生を抑えることができるのではないかと言及されています。

つまり日々のトレーニングで負荷を管理し負荷が大きい子は練習の時間を減らす工夫が必要になります。

現実的な話をすると内的負荷を記録するには、労力が必要になり、なかなかそこまで管理できるチームは少ないと思います。

もっと簡単に負荷を管理する基準を作る必要があります。例えば週のプレイ時間の基準をPHV前の子は何時間、PHV後の子供は何時間という基準があれば誰でも簡単に負荷を管理しやすいと思いますが、なかなかその基準がないのが現状です。

もう少し簡単な方法だとPHV前の子、後の子でカテゴライズしそれぞれに分かれて練習を行えば、内的負荷が同じくらいになるようにする方法もありますが、チームの人数次第では難しく、また実際の試合では早熟の子も晩熟の子も一緒に試合に出ることになるので現実的ではないような気がします。

そう考えると現時点では内的負荷を管理しトレーニング時間を個々に調整することがベストのような気がします。

スマートフォンなどの普及で比較的データを収集しやすくなった現代なら内的負荷を管理するのも可能になるかもしれません。内的負荷の管理方法も後々書いていきたいと思います。

まとめ

育成年代の子供たちは、暦年齢によって括ってしまうと生物学的年齢が異なり、選手によっては負荷が適切ではなく、怪我のリスクが大きくなったり、パフォーマンスの向上に負の影響が出るかもしれません。

また育成年代での怪我によってその後のパフォーマンスを制限したり、場合によっては競技を継続するのが難しくなる可能性もあります。

そのためにも、個人の成熟度をPHVなどを用いて推定し個人個人に合わせた指導をしていくことが大切になっていきます。

また最近よく言われている専門化(単一の競技に専念)を早くしてしまうことでパフォーマンスが制限されたり、怪我のリスクが高まってしまったりするようです。高校生くらいまでは複数種目をやる方がパフォーマンスや怪我の予防につながるかもしれません。(イブラヒモヴィッチもテコンドーやってたし、、、)

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参考


ハイパフォーマンスの科学−トップアスリートをめざすトレーニングガイド− https://www.amazon.co.jp/dp/4905168457/ref=cm_sw_r_cp_api_i_z8mvEbSKHER7F


ストレングストレーニング&コンディショニング[第4版] https://www.amazon.co.jp/dp/4909011072/ref=cm_sw_r_cp_api_i_hBItEbYQGZZP0


https://www.researchgate.net/publication/271538028_Importance_of_Peak_Height_Velocity_Timing_in_Terms_of_Injuries_in_Talented_Soccer_Players


編集後記


久しぶりにnote書きました。なかなか大変な作業ではありますが、自分の考えが整理されるので大切な作業です……




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Miyawaki/フィジカルコーチ
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