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先を行く彼女

彼女の「後ろ姿」を写真に撮ることが多い。

彼女は、物怖じせずにぐんぐん僕の前を歩く。
だから僕は、彼女の一歩も二歩も後に、彼女と同じ景色を見る。

ケンカしたから並んで歩かないわけでは、もちろんない。
ただ彼女は僕と違って、ゆっくり歩いて景色を見ることが性に合わないみたいだ。

いま、僕らはとある国で、なだらかな山道を下って街へ行こうとしている。

彼女はぐんぐんずんずん歩いて、僕のずっと先を行き、見たい景色の場所に着くと腰を下ろし、悠々と辺りを見回している。止まっている彼女に僕が追いつくと彼女は立ち上がり、僕の顔を見て少し微笑み、そしてまた歩き出す。また僕は彼女の後ろを歩く。

たまに僕が、突然走り出し、思いっきり彼女を抜かしてみる。
ずーっと抜かして振り向くと、彼女の正面の姿が見える。けれど彼女は、抜かされても彼女自身のスピードを上げることはしない。笑顔で、そのまま同じスピードで歩いている。僕は慣れないことをしたので、走ったあとはぜえぜえと呼吸を乱しながらさらにゆっくり歩くか、立ち止まっている。なのでまたすぐ彼女に抜かされる。

彼女はたまに、両手を横に広げて、風を受けながら道を歩く。
昔、パラグライダーをやっていた彼女は、そのまま上昇気流を掴んで飛んで行ってしまいそうだ。

そうか、もしかして彼女の歩くスピードが速い理由は。
「飛びたいの?」
思わず声に出して言ってしまった。子供じみた質問でちょっと恥ずかしい。

すると前方を歩いていた彼女がくるっと振り向き、嬉しそうな顔をして両手を上下に振りながら
「うん、飛びたい!!」
願いを空に伝えるように大きな声で、眩しいほどの笑顔でそう言った。

そうだね。こんな天気の良い日に、こんなに景色のいい場所で空を飛べたらきっと気持ちがいい。僕は身も心も重くて飛べないだろうけど、彼女なら飛べちゃうかもしれないなぁ。
相変わらずぐんぐんと前を行く彼女は、きっと頭の中ではもっと速いスピードでこの空を自在に飛び回っている。

彼女と2人きりで旅をしているけれど、未だに彼女を掴めない。彼女の奔放さが羨ましくて、その度に自分のつまらない部分が目立ってくる気がする。

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制作後記

後ろ姿の写真をよく撮られているので、それを元に書いてみました。
写真は、クロアチアのドゥブロクニクです。
スルジ山を歩いて下山し、旧市街へと向かっています。

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名瀬夜音
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