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ネタバレだらけの映画『お引越し』のはなし
相米慎二さんの作品が好きだ。
『セーラー服と機関銃』『雪の断章ー情熱ー』『あ、春』などなど…相米さんの世界の中で四苦八苦し、光をつかむようにどんどん顔つきが変わっていく俳優さんたち。
よくわかんないけど突然ファンタジーとリアルを行き来する時間軸。
そして一瞬の隙も与えてくれない長回し。
そんな相米作品の中でも特別に大好きで、何度見ても”いとおしさ”が減らない。むしろ増えていく『お引越し』のおはなし。
作品紹介
あらすじ
両親が離婚を前提とした別居生活に入り、母親のナズナとふたり暮らしになった小学6年生のレンコ。家でも学校でも行き場の無さを感じていた彼女は、昨年も行った琵琶湖湖畔への家族旅行を復活させれば、再び3人で暮らせるようになるのではないかと考えるが…。
出演
(漆場賢一)中井貴一
(漆場なずな)桜田淳子
(漆場漣子)田畑智子
(高野和歌子)須藤真理子
(布引ユキオ)田中太郎
(大木ミノル)茂山逸平
(橘理佐)青木秋美
(砂原老人)森秀人
(砂原節子)千原しのぶ
(木目米先生)笑福亭鶴瓶
♢
監督 相米慎二
原作 ひこ・田中
音楽 三枝成章
脚本 奥寺佐渡子 小此木聡
製作 伊地智啓 安田匡裕
1993年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門招待上映
第67回キネマ旬報ベスト・テン 第2位
第48回毎日映画コンクール日本映画優秀賞
第3回東京スポーツ映画大賞(1993年)作品賞
キネマ旬報新人女優賞、報知映画賞新人賞、毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞(田畑智子が受賞)
キネマ旬報助演女優賞、報知映画賞助演女優賞、毎日映画コンクール助演女優賞(桜田淳子が受賞)
第17回日本アカデミー賞優秀編集賞(奥原好幸が受賞)
最初と最後が混在するというごちゃごちゃの気持ちを抱きしめて
好きな監督の作品に好きな俳優さんが出ているからなんとなく観てみた。
というのがきっかけなのはよくあること。
2013年1月に渋谷 円山町にあるちょっとアカデミックな要素も含んだミニシアター・ユーロスペースで【甦る相米慎二】という相米監督作品が毎日上映される特集が組まれた。
もちろん通った。前売り券15枚くらい買って通った。休みの日はずっとユーロにいた。でも『お引越し』は観れなかった。仕事の予定もあるからたった1回きりのチャンスだったのに寝坊した。痛恨の極み。
その1年後くらいに突然【第二次桜田淳子ブーム】がやってきた。
その流れでとりあえず観た。
最初の感想は「…なんだこれ」
なんだかすっきりしない白黒つかない終わり方。解せない。レビューサイトでもたくさんの人が言っているように突然やってくるファンタジー。解せない。理解に苦しむ。解せない。
あ、でもそうか。これこそが相米慎二じゃないか。
理解しようとするんじゃなくて寄り添ってみる。人物でも、情景でもなんでもいい。
意味がわっかんなくてもトンチキでも、フランス映画のようにそこにある世界に浸るのが相米作品の楽しみ方。
そしてこの作品、田畑智子さんのデビュー作でもあり、桜田淳子さんのラスト出演作品。いわば集大成。
そんなまぜまぜの感情も”いとおしさ”の原因。
(あれ?中井貴一さん空気じゃない?)
何度でもその世界に浸りたくなる”いとおしさ”
そして時は流れて令和2年(2020年)わたしも妻になった。母になった。
初めて見たときにはDVDも絶版状態。再び見る気力も起きずにメイキングばかり見てた。子育てと仕事の両立に追われているうちにHDリマスターがリリースされていて、U-NEXTでいつでも見られるようになっていた。
そして緊急事態宣言。おうち時間。
観たい映画を片っ端から観ていく最中に『お引っ越し』と再会した。
そこで出会った”いとおしい”という気持ち。
あの頃より大人になったせいか、むすめとの関係とリンクしている部分があるからか、観るたびに愛情のようなものが沸き立ってくる。
レンコが大人になろうとする過程…妻であることをやめ、母であること女として生きていこうともがくけど上手くいかずに苦しんでいるナズナさん…自分にも原因があるのに壊れてしまったものをまた取り戻したいなんて自分勝手なケンイチさん。
すべてがいとおしい…好きだ。
魅力満載のサブキャラクター達
【レンコのクラスメイトたち】
幼き日の遠野なぎこさん演じる東京から転校してきたサリーちゃん。キラキラネームだなと思っていたら本名はリサちゃんなのか。
レンコが精いっぱいの虚勢を張って「父と母の仲良しぶり」を披露しているのを嘘と見抜いて『気持ち悪い』と一蹴しレンコとビンタ合戦になったり、自分とレンコが仲良くしているのが原因でレンコが女子から詰め寄られてるのに全くフォローしようとしない。マイペース。
そしてレンコの家庭の事情を知り、何とかしようとするミノル。レンコのこと好きやろ。
鼻でオカリナ吹く女子とか、毎回おじいちゃんをネタにする女子。キメコメ先生にヒゲ眼鏡かけ続ける男子とか、小学生アホすぎ。そして懐かしい。
【ウルシバ家に出入りするワケありげなカップル】
初めて見た時から違和感があったケンイチのことを≪先輩≫と呼ぶユキオと彼女ワコちゃん。
このふたり、ワコちゃんはケンイチ。ユキオはナズナに恋心を持っていたけどその気持ちを押し殺して引っ付いた余りものカップルなんじゃないかな。というシーンがちらほら…
ワコちゃんはナズナと同じ髪型だし(いくら流行りとはいえ同じような髪形にするのはナズナのコピーという印象)ケンイチが出ていった先の新居でヘアスタイルを整えて意識しちゃってるし、
ユキオはいつだってナズナに対して優しい。ナズナから太極拳?でやっつけられた後のイチャイチャ(レンコ曰く「接触」)のあとの煮え切らない感じ。ナズナは舎弟にしか思ってないだろうけどユキオはナズナのこと好きでしょ。
そんな二人に赤ちゃんができちゃって。でもウルシバ家は別居しちゃって。それがきっかけかどうかはわからないけれど、二人の関係にも少しだけヒビが入ってしまう。
その後のレンコ立てこもりの後の「うちとレンコを混乱させんといて」のシーンで寄り添って大根をおろすところ。生々しい二人を見ることで絆が深まっていくんだよな。
好きなシーンも紹介させてください!
【レンコがお風呂場に立てこもった後の長回し】
相米慎二といえば長回しでしょ!と思う人多いと思うんですが、
後期の作品たちはそれを重荷にさせないというか、俺すごいだろう感がない。
レンコのモヤモヤ、ナズナのケンイチに対するどす黒い感情。
そして『結婚いうのはな、どっちか強いもんが無理を通す殺し合いや』というナズナのセリフ。
グサグサ刺さる。現実でもわたしだってあなただってきっと殺してる。
そしてその停滞感をぶっ壊すかのようにレンコがいるお風呂場の窓を素手で割るナズナ。
いやーすごい。凄すぎるよずんこちゃん。好き。
そしてこの表情…好き。
【歌で始まった少女が大人になって歌で終わる因果】
すべてが終わって日常へと帰る電車のシーン。
もう!”いとおしい”の頂点だよ!!!
行きがけはぎこちなさがあった母子がいろいろなことを受け入れ未来へ向かって笑いあうシーン。
「森のくまさん」を二人で歌うのです。
だから何?ただ歌ってるだけじゃん。と思うかもしれませんが、前述したとおり桜田淳子さんのラスト作品。
歌で始まり、歌で終わる(はからずもそんな運命になってしまった)淳子桜田の集大成。
そう思うと”いとおしさ”も倍増。
あれ、やっぱり中井貴一さん影薄くない?
そしてエンドロールの横で流れる、いろんな伏線を回収していく1発撮りもぜひぜひ注目していただきたい。
【作家主義 相米慎二 atユーロスペース】
そして今回、2013年と同じユーロスペースでの企画でようやくスクリーンで鑑賞することができました。しかも2回も。
HDリマスター版のDVDがあるのでデジタルデータもあるんだろうけど
なんとフィルムで鑑賞!
30年前からあるので当然ノイズもある。そして時折出てくる右端のリールの変わり目。なんもかんもが”いとおしい”。
やっぱりフィルムっていいな。
もっともっと淳子さんを見ていたかった。
淳子さんに会いたくなったらわたしは真っ先にこの作品をクリックするし、
観るたびに肩入れする人物やポイントを変えて”いとおしい”思いを募らせていくんだろうな。
映画に対してこんなにいっぱいの『いとおしい』が出てくるなんてはじめてだ。
結局言いたいことぜんぶ書ききれてないからつべこべ言わずに観てほしい。
すきなことをここまで分析して言葉にする作業は初めてで
とっ散らかってるし、夜のラブレターみたいで気持ち悪いけど。
ひとりじめするのはもったいないしさみしいから共感してもらいたい。
なんと3000字越え!
最後までお読みいただきありがとうございました。
はるみそ。