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アイスクリームが彩る秋

 先月、初めてサーティワンアイスクリームを食べた。お店の前を通るたびに憧れをあたためてはいたが、夏はすぐに溶けてしまうし冬だと寒いから食べごろの時期がよくわからず、食事というわけでもないし腰を落ち着けて食べる感じでもなさそうだしで何時ごろに食べたらいいものなのかも見失い、まあまた今度にしようか…と見送っていたら、いつしか長い年月が経っていた。

♢♢

 その日わたしは推しのイベントを完走してハイになっていた。アニメイト店頭に掲示されている「イベント実施中‼︎」のポスターを拝みに行った後だったのでなおさら充足感があった。せっかくなので尊さを噛み締めつつ何か記念に残ることをしたい。そんなことを考えながら歩いていると、サーティワンアイスクリームと目が合った。永きにわたって逃してきた機が熟した瞬間である。

 外つ国から観光に来た人たちの後ろに並んで、噂に名高いホッピングシャワーを注文する。なぜか現地人のわたしの方がしくみをよくわかっていなくてアワアワぎこちないっぽいが気にしない。旅の恥はかき捨てだ。

 わたしは何故かずっとホッピングシャワーのことをわたあめのアイスだと思い込んでいて、わたあめのアイスって何だろと思っていたのだが、メニュー表を見ると「ミントとチョコの風味」と書いてある。わ、わたあめはいずこへ……?
 わたあめとはふわふわ浮かぶ疑問符のことだったのかもしれない。

コットンキャンディと混ざってた

 閑話休題。見てくださいよ、良い色だね……。
 推し活っぽいことをできて大満足なところで書くことでもない気がするが、わたしはつい先刻まではこれから薄桃色のアイスクリームを食べるもんだとばかり思い込んでいたのである。ところがどっこい、目に飛び込んできたのは淡い緑色だ。もっけの幸い、百聞は一見にしかずとはこのことだろう。わたしの網膜は最近この色ばかり映している。

 ところで、外でスプーンを使ってアイスクリームを食べると『魔女の宅急便』を思い出してくすぐったいような気持ちになる。キキがおしゃれをしてアイスクリームを食べる場面があった。

「あたし、あそこのいちばんいい席、海のそばの席にすわって、ゆりの形のガラスにはいったアイスクリーム食べるんだ。前に見たことあるの。とってもおしゃれっぽくて、あたし、だいじにしていたお金、全部つかったっていいわ。きょうはとくべつの日ですもの、ちゃんとスプーンで食べるのよ。レースのナフキンつかって。町の立ち食いとはぜんぜんちがうんだから。あっちはね、アイスっていうの。こっちはアイスクリームっていうの」

『魔女の宅急便その2 キキと新しい魔法』角野栄子作
福音館書店,p168

 読んだのはずいぶん前で細部が曖昧だったので、帰宅後に本を引っ張り出して確認してみたら「キキ、おしゃれの自分を運ぶ」の章だった。
 小学生の頃はとにかく薬草畑に憧れていた記憶があるのだけど、今ふとした時に思い出すのは、キキが真っ黒ではないきれいな色のワンピースに憧れたり、背伸びして町の女の子みたいに振る舞うところかもしれない。キキは魔女以外の町の女の子たちを“ふつうの女の子”と思っているけど、わたしにとってはふつうの女の子から浮いているキキがふつうの女の子だった。
 きっと児童書には、いちばん読んでいた時には意識していなかったけど、後から振り返ると無意識に惹かれていた部分がたくさんあるのだろうな。久しぶりに再読したくなってしまった。

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 ホッピングシャワーが舌の上でホッピングシャワーするのがおもしろく、思わず、舌がパチパチするほど弾く元気玉…とか歌いたくなったが咳をしてもひとり。向かいの壁の鏡に映った、いかにも機嫌良さそうな己に見守られながら、口腔で弾けて降り注ぐ悦びをひっそりと味わうのもいいものである。

 今年の秋は思っていた以上に彩り豊かだ。

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