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そういえば、だいたい真面目ではない。

先日、ママ友がこう語っていた。
「わたし、昔から人の顔色をうかがってしまうの。自分が我慢すればその場が円滑に回る…そう思うと本音が言えなくなる。そして、相手の些細な表情の変化や、声のトーンが気になってしまうの…。」

そうなんですねー。私は目の前で遊んでいる互いの子供たちに視線をやった。ママ友の視線が私の横顔に向けられているのを感じながら、おそらく聞きたいのであろう「お優しいんですね」「繊細でいらっしゃるんですね」「そんなに気を使ってばかりでいては疲れてしまいますよ」などという返しの言葉は私の口をつくことはなかった。

私も、人目が気にならないわけではない。相手にどう思われているかはその都度気にしている。過去、水商売が長いので、相手の話にはまず黙って聞き、自分が話の主導権を持たないようにする癖がついている。ただし、相手のキャラクターによってはズバズバと言われたいケースもあるし、求められたならすぐ意見を発することができるように相手の話は集中して聞く。が。

彼女の発言には「自虐するから褒めて」のアピールしか感じぬのであった。そのアピールは、まあ、誰だって人間よくやりがちなやつなわけです。

念のため言っておくが、それなりに長い付き合いの友人で別に嫌いだとかいう話ではない。私が、彼女から向けられる視線にあえて目を合わせなかったのは、世の中には実際的に医療機関へ通いながら本当に繊細さに悩み苦しむ人もいるというのに、ましてや彼女の日々の様子からしてツッコミどころが満載なそのアピールが、不謹慎な自虐ネタに聞こえてくるので烈火のごとく突っ込みたい衝動を抑えるためであった。

私の鈍い様子に、「もしかして仕事忙しいんでしょ」とシシシと言ってきた。アンタ、人の顔色とトーンをうかがっているのではなかったか。

「さっそく設定変わっちゃってますよ」と言うわけにもいかず、ああ、ちょっと昨夜は遅くまで仕事した…と話を合わせた。


ふと、自分はいい加減だなぁと思う。
「ねえ、さっきわたしが話したような悩み、ない?」と聞かれた。
「自分が我慢しておこうって思っちゃうような」
「ないですね」

彼女は、ポジティブでいいな〜!と言った。そうなのだろうか。私からすれば、自分ごときの我慢のひとつやふたつで他人を円滑に回せると思う方がよっぽどポジティブだと感じるが。ついでに、物事が円滑に進んだときに自分の犠牲のおかげなのよ…!だなんていう野暮な思いを抱いて生きていたくないので、余計なことはしないだけだ。だいたい、「我慢をしてる」ことが相手にバレたときのほうが相手に気を使わせるではないか。

言いたいことが言えない、と悩む人は客商売していても本当に多くて、それは老若男女問わず、職種や環境問わず、金持ちも貧乏も、人間の持病のようだなあと思ったりするのだけど。

十中八九、言いたいことが言えないのではなく、言いたいことがないから言えないか、言いたい相手がないから言えないか、言いたい相手があなたに聞く耳を持たないから言えないのであって、別に性格とかの問題ではないと感じる。少なくとも私相手に2時間以上一方的に喋るなどはできるわけですから…。

と、同時にいつも思うこと。飲み屋とカウンセリングはわりと似てて、自分で金払うから話すことが出来るんでしょう。もちろん、実際には人と人など相性の問題なので、金の支払い行為がすべてとは思ってませんけど。

んで、よく言うのよみんな。「お金を払ったりしない相手、ただありのままで話し合える友達や恋人が欲しい」と。「自分は金を払わないと話してはいけない存在なのか」とも。

それ、すごくないですか。
自分語りするのをヨシヨシと聞いてもらうことについて、ありがたいと相手に思わないのだろうか。
別に金払わずとも、コーヒーの一杯でも飲んでほしいなとカフェ代もつとか、そのコーヒーすら金を出すカウントだというなら、そもそも人間関係を築く根本が破綻してるでしょう。
中には本当にお金がない人もいる。でも、聞いてもらう相手に感謝を伝えることはできるでしょう。そういう表現をしないで、ありのままを剥き出しにして他人に可愛がられようなんてのは相手の安寧を盗むことだと思いますが。

友達や恋人が、自分の話を聞くための存在という認識が既にどうかしてると思うわな。

ママ友は、私が自由奔放で羨ましいと語った。

そうか。そう見えるなら私もなかなかイケてるじゃないか。心の中ではあなたの一言一句に神経張り巡らしてあなたのテンションの上がり下がりを観察しまくっているけれど、それがバレてないなら我ながら上出来といえる。会社勤めしたこともあるが、今は自営業だし、高校も中退したり浪人したり水商売したり離婚したりしてるので、真面目なタイプではなかったんですねー!とよく言われる。

そうそう、真面目ではない。
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